米国ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社が、2012年2月13日~15日まで、米国カリフォルニア州サンディエゴにおいて開催した「SolidWorks WORLD 2012」を取材してきた。
本稿は、前回述べたSolidWorks WORLD 2012のレポートの後編である。
ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの製品開発における基本的な姿勢は、ユーザーからの要望をまとめ、それに対応していくことである。しかしながら、必ずしも、そればかりではない。これまでにも、SWIFT(SolidWorks Intelligent Feature)※注など、数々の革新的な機能を発表している。今回、SWIFTの開発を主導した、製品イノベーション担当ディレクターのリック・チン氏へのインタビューが実現した。
チン氏によると、「ユーザーがストレスを感じているところに、イノベーションの機会がある。」という。そのストレスを解消するための手段を提供すればいいからである。チン氏の、そのような発想から生まれたのがSWIFTであった。
そして、「ストレスを解消するための手段は、ユーザーからは出てこない。」という。ユーザーは解決手段を与えられたとき、それを評価することはできるが、解決手段そのものについては、わからないからである。そういった意味では、イノベーションは、ユーザーの要望に対応することだけでは、実現しないのだ、という。
チン氏は現在、ユーザー同士のコミュニケーションを良好にするための技術開発を行っている。当然のことながら、詳細は最大の企業機密であり、具体的なことは明らかにされなかったが、コミュニケーションにおいて、ユーザーは大きなストレスを感じており、それを解決するものであるという。
また、チン氏が長年にわたりテーマとしているもののひとつとして、ソリッドモデルの作成・編集技術がある。ここにも、ユーザーは大きなストレスを感じているという。現在、ソリッドモデルを直接編集できる技術とか、変更履歴にとらわれない技術といったものが出されているが、それをはるかに超えるものであるようだ。チン氏の今後の開発と、その成果に期待したい。
※注:SWIFT=3次元CADにおいて、初のインテリジェント機能。設計中のさまざまな問題を診断解決し、時間のかかる細かな作業を自動化することで、修正時間を減らすとともに、初めて3次元設計をおこなうユーザーを大きくサポートする。
前述のように、SolidWorksは、全世界で170万ライセンス以上の出荷があり、世界でもっとも売れている3次元CADである。そして、特筆すべきことは、そのうち、じつに120万ライセンス以上が、教育市場への出荷であること。つまり、全世界の大学や高等専門学校において、もっとも普及している3次元CADはSolidWorksである。
今回、教育市場担当のマリー・プランチャード氏にインタビューすることができ、SolidWorksが教育市場において強い理由が明らかになった。そのひとつは、雇用である。学生時代から、SolidWorksの教育版を利用することにより、操作に習熟しておくことは、雇用に有利になるのである。とりわけ、中国をはじめとするアジア諸国では、そういった傾向が強い。これは、学生対象の認定技術者制度であるCSWAとセットであるとみることができるだろう。そして、そのような実績が認められ、数多くの国の教育担当官庁、あるいは団体から、SolidWorksが指定3次元CADソフトとして採用されている、といった実態があるようだ。
ダッソー・システムズ・ソリッドワークスとしては、教育市場において、SolidWorksのユーザー人口を拡大することにより、商用市場における成功につなげようという戦略がある。そして、その戦略はこれまでのところ、大成功していると見ることができるだろう。そして、さらに驚くべきことには、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、教育市場において、利益をあげているということである。商用市場ほど、大きな利益をあげているわけではないが、決して赤字ではない。
プランチャード氏は、ビジネス市場に比べて、教育市場は膨大な潜在市場があるとみている。「今後も教育市場は、ソリッドワークス社にとって、重要な市場であり続ける。」としており、さらなる普及に向けて、精力的な活動を続けている。
全世界で170万ライセンスというSolidWorksの累積出荷数は、CAD/CAM/CAEシステムベンダーの戦略にも、明確に影響を与えている。SolidWorks WORLD 2012では、パートナー・パビリオンにおいて、150社を超える出展があったが、そのなかに、日本からブースを出していた企業がある。C&Gシステムズである。
C&Gシステムズは、ハイエンドのCAMソフトの開発ベンダーとして知られており、その技術力は、日本国内の金型メーカーより、圧倒的な支持を受けている。そして、日本国内においては、直販および工作機械商社など、専門的な販売チャネルを通じて、製品を提供している。
しかしながら、C&Gシステムズは、海外市場における製品販売強化をめざすにあたって、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスのパートナーとなり、SolidWorks上で稼働する製品「CGシリーズ」をリリースした。
CGシリーズは、SolidWorksに完全にアドインされ、金型設計CADと高精度CAMを融合させた製品であり、既存の製品に比べて、マンマシン・インターフェースを一新させている。これまで、独自にサーフェース・モデラーを開発してきたC&Gシステムズにとっては、SolidWorksをベースとした製品を出すことは、大きな戦略転換であった。
その理由であるが、SolidWorksは、あらゆる3次元CADのなかでトップの実績を誇っている。そういった意味では、独自のカーネルで展開するよりも、SolidWorks上で稼働する方が、ユーザーにとってはメリットが大きいし、また、C&Gシステムズにとっては、ビジネスチャンスが拡大する。そのようなことから、C&Gシステムズは、SolidWorks上で稼働する統合製品、CGシリーズをリリースしたのである。
今後は、海外市場に対するCGシリーズのOEM提供の可能性も視野に入れているという。170万を超えるSolidWorksのコミュニティは、CAD/CAM/CAEシステムベンダーの戦略に明確に影響を与えているといえよう。
前述のように、SolidWorks 2013の概要紹介を見たところ、画期的な新機能はないものの、多くのユーザーの要望を反映し、確実に使いやすくなったものであった。ダッソー・システムズ・ソリッドワークスとして、原点に返り、3次元CADの道具としての完成度を高めたバージョンであるといえる。しかしながら、今後の3次元CADに与える影響は、大きいのではないかと思われる。
これまでの3次元CAD製品においては、設計者にとっての使いやすさを追求するという姿勢で開発されたものは、あまりにも少ない。ときどき、3次元CADのモデリング手法を習得するためのチュートリアル(教材)を見学させていただくが、あまりにもややこしいので、驚かされる。「3次元CADを使って設計をするなら、これくらい、出来てあたりまえ。」といった、メーカーの姿勢を感じさせる。つまり、3次元CADのメーカーは、伝統的にユーザー・フレンドリーではないのである。
そういったことは、確実に3次元CADの市場を狭めてきたといえる。まだまだ、3次元CADは、使いやすいものにはなっていない。モデリングに時間がかかりすぎるのである。そのことは、今後、市場の裾野をひろげるうえで、大きな障壁である。
今回、SolidWorks 2013の概要をみて、そのような現状が少しだけ改善されるように思われた。つまり、3次元CADの道具としての完成度が高まり、新たな市場が生まれるのではないか。そして、今後の3次元CADは、これまでのように「高機能であること」から、「ユーザー・フレンドリーであること」に、競争のステージが移っていくのではないか。SolidWorks WORLD 2012を取材して、筆者はそのようなことを感じた。
注)本掲載内容は、あくまで筆者がSolidWorks World 2012に参加した感想であり、ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社の公式発表ではありません。
(庄司孝)
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