矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.04.02

3次元CADは設計ツールとしての完成度を高める(前編)

機械系CAD/CAM/CAE分野における世界最大のイベントSolidWorks WORLD 2012

米国ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社が、2012年2月13日~15日まで、米国カリフォルニア州サンディエゴにおいて開催した「SolidWorks WORLD 2012」を取材してきた。
今回のSolidWorks WORLD 2012では、SolidWorksの次世代製品戦略が発表された。また、最終日には、SolidWorksの次期バージョンであるSolidWorks 2013の概要が紹介された。SolidWorks 2013には、次の3次元CADにむけての、いくつかの示唆があった。
そこで本稿では、SolidWorks WORLD 2012の概要を報告するとともに、今後の3次元CADの動向について、アナリストとして考えるところを述べることにする。

SolidWorks WORLDは、現在、CAD/CAM/CAE分野における世界最大のイベントとなっている。3日間の会期中においては、世界各国から5,940名を超える参加者があり、また、150社を超えるパートナーが製品やサービスを出展した。初日のゼネラル・セッションでは、CEOのベルトラン・シコ氏より、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの現状についての説明が行われた。
ここでは、SolidWorksの累積出荷ライセンス数が170万を超えたということと、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスにとって、2011年 はきわめて順調に推移している、との説明があった。世界的な経済の低迷から、2010年においては、若干の落ち込みがあったものの、2011年は北米、欧州、アジア・太平洋地域の各地域において、力強い回復をとげたということである。

【ゼネラルセッションで講演するCEO ベルトラン・シコ氏】
【ゼネラルセッションで講演するCEO ベルトラン・シコ氏】

ベルトラン・シコ氏は、日本からの取材陣のインタビューにも応じ、SolidWorksの世界累計出荷ライセンス数は、2013年中には200万ライセンスを超えるだろう、という見通しを明らかにした。
SolidWorksは、現在、市場に出ている3次元CADのなかで、最大の累計出荷本数を誇っている。全世界における本数ベースの推定シェアは、30%を超えるとものとみられる。また、シコ氏は、ダッソー・システムズ・ソリッドワークス企業戦略として、グループ企業であるダッソー・システムズとのコラボレーションを強調している。「現在、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの売上高は、ダッソー・システムズ・グループの全売上高の20%以上を占めており、グループのなかで中核的な存在となっているが、今後も、ダッソー・システムズとの連携によるシナジー効果を追求していくことが戦略の基本である。」としている。
「3次元CAD市場は、将来的には成熟化する。今後は、新市場の開拓が重要なのでは?」という筆者の質問に対しては、「3次元CADの潜在市場規模は、約450万シートであるとみている。SolidWorksは設立以来、20年もかかって、やっと約170万。商用でみれば高々50万、他社3次元CAD全てをあわせても150万程度なので、まだまだ、市場開拓の余地はある。」との回答であった。

次世代プラットフォームへの移行を表明

さらに、ベルトラン・シコ氏は、「2013年中には、次世代プラットフォームを発表する。」と予告した。「ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、お客様が数年後に必要となるものを考えて、提供することをめざしている。」ということで、現時点においては、詳細な仕様は明らかにされていないが、現行のSolidWorksとは一線を画した画期的な製品になるらしい。
私たち、日本の取材陣が、「その次世代プラットフォームとは、2010年に発表されたコンセプト、およびその試作版が具体的になったものか。」と質問したところ、シコ氏は、「そうだ。」と明確に回答した。
じつは、2010年に開催されたSolidWorks WORLD 2010において、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、クラウド・コンピューティングを前提とした、新システムを発表している。2013年中に発表する次世代プラットフォームの製品とは、その最終製品であるとみられる。
次世代プラットフォームの詳細は明らかにされなかったものの、状況から考えて、ダッソー・システムズの「V6アーキテクチャー」をベースにしたものであるとみられる。ダッソー・システムズの提唱するV6プラットフォームをベースとした開発は、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの製品戦略におけるカギを握っていると見ることが出来るだろう。

完成度を高めた次期バージョンSolidWorks 2013

SolidWorks WORLD 2012では、SolidWorksの次期バージョンであるSolidWorks 2013の概要が紹介された。今回も、さまざまな機能強化が実現しているが、とりわけ注目されるのが、以下のような機能である。

■下位バージョン (SolidWorks 2012) とのデータ互換による相互運用性の確保
SolidWorks 2013では、1つ前のバージョンであるSolidWorks 2012とのあいだで、データ互換をとる予定である。SolidWorks 2012のデータをSolidWorks 2013で編集し、SolidWorks 2012に戻すなど、相互運用性(=Interoperability)を実現する。これは、同一ユーザー内において異なったバージョンのSolidWorksが混在する場合や、取引先企業とSolidWorksのバージョンが異なる場合などにおいて、きわめて有効である。
下位バージョンとのデータ互換は、これまで、多くのユーザーにおいて、要望があげられていた機能である。そのようなことから、この機能強化が発表された瞬間、会場はざわめき、たくさんのユーザーから歓声があがった。
ただし、今回の発表では、完全なるデータ互換というわけではなく、SolidWorks 2012でSolidWorks 2013のデータを編集する場合、フィーチャーを変更することができないもようである。(逆は可能)

【SolidWorks2013とSolidWorks2012のデータ互換のデモンストレーション】
【SolidWorks2013とSolidWorks2012のデータ互換のデモンストレーション】

※SolidWorks 2013で、エンジン部分の形状を変更し(上図)、その後、SolidWorks 2012で読み込むと、形状変更が反映されている。(下図)

■サーフェースを用いたソリッドモデルの編集機能の強化
もうひとつ、注目されるのは、サーフェースを用いたソリッドモデルの編集機能の強化である。SolidWorks 2013では、サーフェースによるソリッドモデルの形状変更が、1つの操作により、容易に実現できる。
サーフェースを用いてソリッドモデルを編集する機能については、これまでのバージョンでも可能であった。しかしながら、操作としては非常に煩雑であった。今回、ソリッドモデルとサーフェースを含む編集を1つの操作で実現できることは、3次元CADとしては、非常に大きな機能改善であるといえよう。

【サーフェースを用いたソリッドモデルの編集機能の強化】
【サーフェースを用いたソリッドモデルの編集機能の強化】

※サーフェース(緑色の部分)によるソリッドモデルの形状変更を、容易に行うことが可能である。

ところで、SolidWorks 2013の概要紹介を見た筆者の感想は、正直なところ、「昨年ほど、画期的な新機能はない。」というものであった。しかしながら、SolidWorks 2013は、多くのユーザーの要望を反映し、確実に使いやすくなっている。いってみれば、3次元CADの道具としての完成度を高めたバージョンであるといえよう。また、今回はまだスニークプレビュー版であり、今秋のリリース版まで画期的な新機能を隠している場合もあるので待ち遠しい。
もともと、SolidWorksは、設計者が使う3次元CADとして、使いやすいものであることが製品のコンセプトであり、開発の出発点となっている。そういった意味では、今回のSolidWorks 2013は、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスとして、原点に返ったものということがいえそうだ。
SolidWorks 2013について、製品管理担当副社長のフィルダー・ヒス氏は、「既存のユーザーにとって、もっとも関心の高いニュースは、下位バージョンとのデータ互換であろう。そして、新規のユーザーにとって、もっとも関心を集めるのは、サーフェースとソリッドの編集機能であろう。」と、明言した。
下位バージョンとのデータ互換についてであるが、現在、製品として市場で出回っている3次元CAD/CAM/CAEシステムは、ふつう、下位バージョンとのデータ互換はとられていない。したがって、上位バージョンに変更した場合、下位バージョンのシステムで作成したデータは、読んだり編集したりすることはできない。これは、下位バージョンとのデータ互換にこだわりすぎると、新しい機能開発に影響し、システムの進歩のスピードが遅れるからである。したがって、これまでCAD/CAM/CAEシステムの開発メーカーとしては、下位バージョンとのデータ互換はとらないことが常識であった。
しかしながら、下位バージョンとのデータ互換がとれないと、ユーザーとしては非常に困る。というのは、上位バージョンにバージョンアップをしてしまうと、仮に下位バージョンで設計した製品において不具合が発見されても、設計変更ができなくなってしまうからである。
そのようなことから、ユーザーは通常、上位バージョンが発表されても、しばらくのあいだ、下位バージョンを使い続けるし、あるいは、上位バージョンに変更しても、システムのうち何台かは、下位バージョンを維持し続ける。これは、下位バージョンで設計した製品に不具合が生じたときのための一種の保険であり、大きなユーザーであれば、そういったことは、ふつうに行われている。
しかしながら、中小規模のユーザーでは、データを読むだけのために、下位バージョンを維持するのは、大きな負担になる。そのようなことから、下位バージョンとのデータ互換は、多くのユーザーから切望されていた。
3次元CADで最大のユーザー数を誇るSolidWorksが、下位バージョンとのデータ互換に踏み切ることは、今後の3次元CAD市場に、大きな影響を与えるだろう。当然のことながら、他社も追随せざるをえないだろうし、それにより、ユーザーにおける新バージョンへの置き換えは、よりスムーズに行われるようになると思われる。
また、サーフェースを用いたソリッドモデルの編集機能については、モデリングにかかわる工数の大幅な削減につながるものとみられる。そういった意味で、新規のユーザーにとっては魅力的であろう。とりわけ、金型など、キャビティ面は自由曲面のサーフェース、金型および金部品はソリッドで設計するユーザーなどにおいては、非常に大きな効果を発揮するものと思われる。

■サブ・モデリング・シミュレーションを発表
ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの、近年における大きな開発テーマとしては、CAE(解析)の強化があげられる。今回、発表されたSolidWorks 2013においても、「サブ・モデリング・シミュレーション」という機能が発表されている。
有限要素法を使った構造解析においては、モデルが大規模になればなるほど、計算時間がかかる。そこで、設計上重要な部分(力が集中する部分など)を取り出して計算する機能が、「サブ・モデリング・シミュレーション」である。全体と整合性を保ちながら、部分的に、シミュレーションを行うことが可能である。
サブ・モデリング・シミュレーション自体は、構造解析分野において、これまでにも提唱されてきた考え方であり、とくに新しいものではない。しかしながら、SolidWorks 2013では、設計者自身が解析を行うことができるよう、操作性を大幅に改善している。
サブ・モデリング・シミュレーションは、鉄骨や橋梁など大規模な構造物、あるいは産業用機械など、複雑な構造を持った製品などにおいて、ニーズが高く、CAE分野においては、今後、成長が期待できる分野である。ダッソー・システムズ・ソリッドワークスとしては、サブ・モデリング・シミュレーションにより、構造解析分野を強化するとともに、今後もCAEに対して積極的に取り組んでいく。

【サブ・モデリング・シミュレーション】
【サブ・モデリング・シミュレーション】

※全体の解析を行い(上図)、それと整合性を保ちつつ、部分的な解析を行うことができる。(下図)

後編につづく
注)本掲載内容は、あくまで筆者がSolidWorks World 2012に参加した感想であり、ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社の公式発表ではありません。

庄司 孝(ショウジ タカシ) 専門研究員
CAD/CAM/CAE、EDA、PLM関連のマーケティングリサーチおよび分析を行っています。業界関係者のニーズに応えるべく、調査活動を行っています。ご意見、ご要望などがありましたら、いつでもお気軽にメッセージをお寄せください。

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