矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2011.03.29

3次元CADは“予測する設計”を実現するための道具に(後編)

米国ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社が2011年1月24日~26日まで、米国テキサス州サン・アントニオにおいて開催した「SolidWorks WORLD 2011」を取材してきた。
本稿は、前回述べたSolidWorks WORLD 2011のレポートと、今後の3次元CADの動向についての後編である。

Prospective Engineering(予測設計)という概念を提唱

SolidWorks WORLD 2011では、SolidWorksの次期バージョンであるSolidWorks 2012の概要が紹介された。今回も操作性の向上など、さまざまな機能強化が実現しているが、とりわけ注目されるのが、Manufactured Part Costing (製造コストの検証機能)である。

Manufactured Part Costingは、設計時の3次元モデルを分析することにより、製造プロセスにおけるコストを細分化していく仕組みとなっており、設計初期段階から製造コストを確認することができる。
具体的には、加工機械のセットアップ・コスト、品質によるコストの増減、あるいは個々の材料、部品コストにいたるまで、さまざまなコスト増減要素を含むテンプレートが用意されており、設計時において、材料や製造方法などを入力することにより、コストの解析を行うことができるというものである。そして、解析結果をレポートするとともに、製品製造にかかるコストを計算し、設計時において比較検討することを可能にする。このような機能は、これまでの3次元CADにはなかった、斬新なものである。

Manufactured Part Costing (製造コストの検証機能) の画面

写真出所:ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社

もうひとつ、注目されるのは、Motion Optimization(機構解析最適化)である。ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの、近年における大きな開発テーマとしては、CAE(解析)の強化があげられる。それは、設計の早い段階においてCAEを行うことにより、製品品質をつくりこむとともに、製造工程における不具合を前倒しして検証することにより、設計期間の短縮とコストの削減にむすびつけていくという考え方である。
昨年発表されたSolidWorks2011では、熱流体解析の強化が大きなテーマであった。今回のSolidWorks 2012では、3次元における機構解析の強化が、大きなテーマとなっているとみることができそうだ。
3次元の機構解析は市場におけるニーズが高く、CAE分野において、今後、もっとも成長が期待できる分野である。ダッソー・システムズ・ソリッドワークスとしては、機構解析にスポットをあてることにより、市場の活性化をはかるとともに、機構解析市場へのより積極的な取り組みをめざすものとみられる。

Motion Optimization (機構解析最適化)

写真出所:ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社

ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの研究開発担当の副社長であるオースチン・オマリー氏は、Prospective Engineeringという概念を提唱している。直訳すると、“予測する設計”くらいであろうか。
製品設計時において、コスト、品質、環境への配慮などを予測することにより、製品開発期間、製造期間、あるいはコストのトータルな削減を行うことができる。それは、ひいては、循環型の社会を実現するうえで、きわめて重要である。

ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、一昨年のSolidWorks 2010において、SolidWorks Sustainability(環境に配慮した設計)を発表した。いま考えてみると、これもProspective Engineeringという概念の実現であった。今回、Manufactured Part Costing (製造コストの検証機能)と、Motion Optimization(機構解析最適化)が加わったことにより、Prospective Engineeringという概念は、さらに具現化された。3次元CADは、設計対象の形状を定義するという従来の3次元CADの概念を大きく超え、予測する設計環境を実現するための道具になりつつあるといえよう。

SolidWorksは、設計時にコスト、品質、環境へのダメージを予測する。それは、製品設計において、革命的な効果を発揮する可能性がある。こういった方向性は、今後の3次元CADにおける新しい潮流を考えるうえで、大きなヒントとなるものと思われる。

日本からの取材陣のインタビューに応じるオースチン・オマリー氏

フィーチャー・フリーズは3次元CADの新しい流れになるか

SolidWorks 2012においては、3次元CAD機能そのものの強化も行われている。そのなかで、筆者が注目しているのは、フィーチャー・フリーズという機能である。
フィーチャー・フリーズとは、3次元CADモデルで定義されているフィーチャーの一部を凍結させることにより、レスポンス・スピードやデータのハンドリングを向上させようという考え方である。

現在、主流となっているフィーチャー・パラメトリック型3次元CADにおいては、穴、フィレット、押し出し量など、さまざまなフューチャーが定義されている。それは、シリーズ化された繰り返し設計や、類似設計が多い製品を持つ企業の場合、大きな効果を発揮する。しかしながら、さまざまなフューチャーが定義されているということにより、データ量が大きくなることから、CADのレスポンス・スピードを損なうことがある。そのようなことから、フィーチャー・フリーズという機能により、フィーチャーを部分的に凍結することにより、レスポンス・スピードの向上をはかろうという考え方である。

フィーチャー・フリーズは、昨年のSolidWorks World 2010において発表されたものの、その後、SolidWorks2011のベータ版に搭載されることはなかった。今回のSolidWorks 2011において、SolidWorks 2012の機能の一部として含まれることが、あらためて明らかになった。
フィーチャー・フリーズは、3次元CADのレスポンス・スピードを向上させるうえで、きわめて効果的であるとみられる。また、iPadやiPhoneなどのモバイル機器により、3Dデータを見る場合など、フィーチャーを全部持っている必要性などないから、そのような機器においても、大きな効果を発揮するものと思われる。

ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、設計者の意図や知識を3次元CADモデルに反映させるためには、フィーチャー・パラメトリック型3次元CADは、大きな効果を発揮するという信念を持っている。その一方で、形状変更の自由度を拡大、あるいはレスポンス・スピードの向上も実現したいというユーザーのニーズにも対応し、今回、フィーチャー・フリーズを発表したとみることができる。このような動きは、クラウド、モバイル時代をむかえた3次元CADにおいて、新しい流れとなるものと思われる。

 

ビジネス・プロセス改革をすすめるツールとして3次元CADを利用

3次元CADは、設計ツールという領域を大きく超え、ビジネス・プロセス全体における改革をすすめるツールとなりつつある。今回、SolidWorks WORLD 2011では、日置電機株式会社の水出博司氏と臼井隆之氏が「200%のビジネス・プロセス改革への挑戦 -SolidWorksを使った生産設備機器の多品種生産」と題した事例紹介を行った。

上:日置電機株式会社の水出博司氏(右)と臼井隆之氏(左)下:日置電機における樹脂流動解析の例

講演の概要を紹介すると、日置電機では現在、設計者全員がSolidWorksを利用しており、デザインレビュー、クオリティレビュー、マニュファクチャリングレビュー、セールスレビューなど、あらゆる工程で3Dデータを活用している。それは、大きな成果をあげており、現在は生産性200%向上の実現に挑戦しているところである。
また、日置電機では、構造・振動・熱流体などの解析ツールを早くから導入している。とりわけ構造解析は、自動試験装置の耐重量性・耐振動性の事前確認に用いられ、作り直しの発生を防止するところで大きな成果をあげている。さらに、現在は樹脂流動解析に取り組んでおり、金型設計において効果を上げつつあるということである。

日置電機において、3次元CADは、もはや単なる設計のツールではない。その効果はビジネス・プロセス全体に及んでおり、付加価値を生み出すマザーツールとして活用が始まっているのである。これも、今後の3次元CADにおける新しい潮流を考えるうえで、大きなヒントとなるものと思われる。
日置電機では、現在、プリント基板設計用のECADとSolidWorksの解析ツールを連携させ、電子機器の筐体内の熱流体解析やEMC設計を行い、品質の高いものづくりを追求しているという。3次元CADの利用もここまで来たか、と思わせるほど、先進的な事例であるが、こういった取り組みは、今後もユーザーにおいて、急速に広まっていくに違いない。

まとめ -SolidWorks WORLD 2011を取材して

  • ダッソー・システムズ・ソリッドワークスのSolidWorksは、140万本以上の出荷実績を達成している。世界で最も多くのユーザーに使われている3次元CADである。
  • 現在、ITの大きな流れは、Windowsからオンライン(=クラウド)、モバイルという方向に向かっているとみている。そのようなことから、従来からのデスクトップに加えて、オンライン(=クラウド)、モバイルという新たなソリューションの提供をめざしている。
  • 今回のSolidWorks WORLD 2011では、POST3D 、SolidWorks n!fuze 、SolidWorks Live Building という3つの新製品が発表された。それぞれの新製品は、すべてオンライン(=クラウド)に対応している。
  • ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、Prospective Engineering(予測する設計)という概念を提唱している。製品設計時において、コスト、品質、環境へのダメージなどを考慮した検証を行うことは、製品開発、製造期間、あるいはコストのトータルな削減を行うことができる。それは、ひいては循環型の社会を実現するうえで、きわめて重要であるといえよう。
  • フィーチャー・フリーズという機能が発表されている。フィーチャー・フリーズは、3次元CADのレスポンス・スピード向上と、iPadやiPhoneなどのモバイル機器等で3Dデータを見る場合において、大きな効果を発揮するものと思われる。
  • 3次元CADは、もはや単なる設計のツールではなく、その効果はビジネス・プロセス全体に及んでおり、付加価値を生み出すマザーツールとして活用が始まっている。

注)本掲載内容は、あくまで筆者がSWW2011に参加した感想であり、DSソリッドワークス社の公式発表ではありません。

庄司 孝(ショウジ タカシ) 専門研究員
CAD/CAM/CAE、EDA、PLM関連のマーケティングリサーチおよび分析を行っています。業界関係者のニーズに応えるべく、調査活動を行っています。ご意見、ご要望などがありましたら、いつでもお気軽にメッセージをお寄せください。

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