矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2011.03.08

3次元CADは“予測する設計”を実現するための道具に(前編)

3次元CAD分野における世界最大のイベントSolidWorks WORLD 2011

米国ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社が2011年1月24日~26日まで、米国テキサス州サン・アントニオにおいて開催した「SolidWorks WORLD 2011」を取材してきた。
今回のSolidWorks WORLD 2011では、3つの新製品が紹介された。また最終日には、SolidWorksの次期バージョンであるSolidWorks 2012の概要が紹介された。SolidWorks 2012には、次世代の3次元CADにむけての、いくつかの示唆があった。
そこで、SolidWorks WORLD 2011の概要を報告するとともに、今後の3次元CADの動向について、アナリストとして考えるところを2回に渡って述べることにする。本稿は、その前編である。

SolidWorks WORLDは、現在、CAD/CAM/CAE分野における世界最大のイベントとなっている。3日間の会期中においては、世界各国から4,500名を超える参加者があり、また、150社を超えるパートナーが製品やサービスを出展した。初日のゼネラル・セッションでは、この1月にCEOに就任したばかりのベルトラン・シコ氏より、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの現状についての説明が行われた。
ここでのポイントは、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスにとって、2010年はきわめて成功裏に終了したということと、世界の各地域とも予算を達成し、今後に明るい兆しをみせているということである。R&Dおよびサポートへの投資についても、過去最高レベルに到達しているとのことである。

ゼネラルセッションで講演する新CEO ベルトラン・シコ氏

ベルトラン・シコ氏は、日本からの取材陣のインタビューに応じ、SolidWorksの世界累計出荷本数が、2010年12月時点で140万本を超えていることと、そのうち、教育用のライセンスが、100万本を超えることを明らかにした。(注:2011年1月26日に、2010年11月末に教育版世界累計出荷本数100万本突破したことが発表された)
SolidWorksは、現在、市場に出ている3次元CADのなかで、最大の出荷本数を誇っている。すなわち、SolidWorksは、世界で最も多くのユーザーに使われている3次元CADである。全世界における本数ベースの推定シェアは30%を超える。
また、シコ氏は現在、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、以下の3つの戦略を推進していると述べた。

  1. 仏ダッソー・システムズ社との連携による成長の継続
  2. 新市場の開拓
  3. デスクトップ、オンライン、モバイルという3つのソリューションの提供

1.のダッソー・システムズとの連携による成長の継続であるが、PLMベンダーとして世界トップであるダッソー・システムズとの連携を積極的にすすめることにより、シナジー効果を追求していく。とりわけ、ダッソー・システムズの提唱するV6プラットフォームをベースとしたシステム開発は、今後のダッソー・システムズ・ソリッドワークスの成長におけるカギを握っているといえる。

2.の新市場の開拓にとって重要なのは、機械分野以外の開拓である。今回は、建築分野向けの新製品(後述)が発表されたが、今後も新たな分野に向けての新製品の発表が行われる見込みである。

3.のデスクトップ、オンライン、モバイルという3つのソリューションであるが、これまでSolidWorksは、Windowsのパソコンをベースとした、典型的なデスクトップのソリューションであった。今後は、これに加えて、オンライン(=クラウド)、モバイルというソリューションを提供していく。モバイルについては、iPhoneやiPadなど、OSを問わず、最新の機器に対応される見込みである。
ご存じのようにSolidWorksは、Windowsを基本OSとしたパソコンベースの3次元CADとして、1995年に発表された。当時の3次元CADは主としてUNIXワークステーションで稼働しており、「Windowsのパソコンで3次元CADは無理ではないか。」という見方もされていた。
だが、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、ITの大きな流れとして、UNIXワークステーションからパソコンへという動きがある以上、3次元CADも、時間の問題でパソコンに移行するにちがいないと予測。Windowsベースの3次元CADを開発したのである。そして、その戦略は市場のニーズに合致し、大成功した。そして、現在、全世界で140万本以上も出荷される3次元CADのベストセラーとなったのである。
そして現在、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、「ITの大きな流れは、Windowsからオンライン(=クラウド)、モバイルという方向に向かっている」とみている。そのようなことから、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、従来からのデスクトップに加えて、オンライン(=クラウド)、モバイルという新たなソリューションの提供をめざしているのである。

オンライン(=クラウド)対応の3つの新製品を紹介

今回のSolidWorks WORLD 2011では、3つの新製品が紹介された。それぞれの新製品は、すべて、オンライン(=クラウド)に対応したものである。

1つめの新製品は、POST3D(ポストスリーディー)である。POST3Dは、ダッソー・システムズ社のコラボレーションツールである3DVIAをベースとして、ウォークスルーなどのプレゼンテーション機能を強化するとともに、オンライン(=クラウド)での利用を可能にした製品である。POST3Dは、設計部門、生産部門、メインテナンス部門、あるいは顧客とのあいだで、3Dデータによる情報の共有を実現する製品であり、きわめて注目される。POST3Dは、現在、テクニカルプレビュー中であり、パブリックベータ版は、2011年末リリースの予定である。

ところで、3DVIAはダッソー・システムズの製品ということで、今回のPOST3Dの発表も、ダッソー・システムズのCEOであるベルナール・シャーレス氏により行われた。しかしながら、現在のダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、ダッソー・システムズとの連携強化することによるシナジー効果を追求していることから、そのことについては、もはや、ほとんど違和感はなかった。
そういった意味では、長年にわたり、独自の事業を展開してきたダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、現在は完全にダッソー・システムズと一体となった運営がされているとみることができる。

POST3Dを発表するベルナール・シャーレス氏(ダッソー・システムズCEO)とベルトラン・シコ氏

2つめの新製品は、SolidWorks n! Fuze(エヌ・フューズ)である。これは、昨年発表された、ENOVIA V6ベースのオンライン(=クラウド)データ共有化システムであるSolidWorks PDS又はSolidWorks CONNECT(ともに仮称)が製品化されたものである。
SolidWorks n! Fuzeは、離れた拠点にいる設計者同士が、共通のワークスペースを作成し、データを共有化するという仕組みになっている。考え方としてはオンライン・ストレージであるが、履歴管理、構成管理、あるいはビューイング機能をサポートし、PDMライクな簡易管理機能をサポートしているところが特徴である。利用料は未定ではあるものの、月額70ドル程度を予定しており、小規模な事業者におけるデータ共有とコラボレーションに最適なシステムであるといえよう。今後は日本語化など、日本市場に向けた製品開発も進められる予定である。

また、SolidWorks n! Fuzeの紹介において、試験的にモバイルでの情報共有やビューワも紹介された。
ダッソー・システムズが無償で提供している2次元CADであるDraftSightも、Windowsだけでなく、Mac及びLinux、さらには試験的だがiPadの上で稼働するデモも紹介された。SolidWorks n! Fuze は、SolidWorks製品だけでなく、ダッソー・システムズ製品のDraftSightも含めて、さらにはモバイル環境においても、データ共有化をすすめることができるツールである。

上:SolidWorks n! Fuseの発表  下:SolidWorks n! Fuseのデモ

3つめの新製品は、SolidWorks Live Building(ライブビルディング)である。ダッソー・システムズ・ソリッドワークスとしては、初の建築・建設分野向けの製品である。この製品もオンライン(=クラウド)に対応している。
これまで、一貫して機械分野の製品を出してきたダッソー・システムズ・ソリッドワークスが建築分野向けの製品を出したことは、多くの関係者にとって意外であり、紹介と同時に、会場にはどよめきがひろがった。
実際には、建築分野において機械系3次元CADが利用されるケースは多い。よく知られているところでは、北京オリンピックのメイン競技場となった北京国家体育場(鳥の巣)は、ダッソー・システムズのCATIAを使って設計されている。近年増えている自由曲面が多い建造物を設計するためには、梁、柱、壁といった基本要素を組み合わせていく、従来の建築系CADでは無理があり、機械系3次元CADでないと設計が不可能であるからである。そういった意味で、ダッソー・システムズ・ソリッドワークスが新市場開拓のターゲットとして建築分野を選んだのは、それなりの根拠がある。

また、サッシやドア、門扉などのエクステリア関連や、鉄骨など、建設資材関係のメーカーにおいては、SolidWorksが多く使われている。そういったメーカーにとっては、SolidWorks Live Buildingが紹介されたことは、朗報であるにちがいない。
SolidWorks Live Buildingは、あくまでコンセプチャルな建築・建設分野のオンライン設計ツールであり、コミュニケーションツールである。しかしながら、建築設計においては、構造設計、躯体設計、設備設計など、専門的な設計機能が必要だし、また、それぞれの工程ごとに、専用の図面を作成しなければいけない。ダッソー・システムズ・ソリッドワークスが、今後、そのための機能強化をどのようにして実現していくのか。その点については、未知数である。

SolidWorks Live Buildingの紹介画面

後編につづく

注)本掲載内容は、あくまで筆者がSWW2011に参加した感想であり、DSソリッドワークス社の公式発表ではありません。

庄司孝

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庄司 孝(ショウジ タカシ) 専門研究員
CAD/CAM/CAE、EDA、PLM関連のマーケティングリサーチおよび分析を行っています。業界関係者のニーズに応えるべく、調査活動を行っています。ご意見、ご要望などがありましたら、いつでもお気軽にメッセージをお寄せください。

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