矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2025.01.20

拡大なるか!給与デジタル払い

2023年4月に労働基準法が改正されたことにより、給与デジタル払いが可能となりました。これにより、労働者が同意すれば、銀行口座に加えて、資金移動業者の口座へ給与を支払うことが出来るようになりました。

参入企業をみると、2024年12月現在で、賃金のデジタル払いが認められる、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者は、PayPay(PayPay給与受取:上限20万円)とリクルートMUFGビジネス(COIN+(スタンダード):上限30万円)の2社となっています。また、導入に向けて、人事・労務管理システムや給与計算システム事業者が、給与デジタル払いに対応するための機能追加や連携を進める動きが出てきています。

現状では、導入に二の足を踏む事業者も多く、下記のような要因が導入障壁となっています。

<給与デジタル払いの導入障壁>

  • 業務負担の増加 : デジタル払いと口座振込の二重運用や労使協定の改定など、企業側の業務負担が増加する
  • 制度やサービスへの理解不足: 制度の詳細や運用ルール、セキュリティ対策など、企業側の理解が十分でない
  • コストの増加: 人事給与システムの改修など、導入に伴うコストの増加
  • 従業員のニーズの低さ : デジタル払いのニーズが高くはなく、従来の銀行振込で十分と考える企業が多い

参入障壁はあるものの、給与のデジタル払いには以下のようなメリットもあります。

<給与デジタル払いのメリット>

  • 従業員の利便性向上: チャージや資金を動かす手間が省ける、銀行口座開設が難しい外国人労働者にとって有効な手段となる
  • 企業の事務効率化: 振込手数料の削減や事務手続きの削減につながる可能性がある。
  • 日雇い労働者への対応: 日払いや前払いなど、柔軟な給与支払いが可能になるため、日雇い労働者への対応ニーズが高まる可能性がある。

今後の拡大に向けては、従業員への制度・サービスの丁寧な情報提供とニーズ喚起、セキュリティ対策の強化と情報共有、企業向け導入支援などが重要になると考えられます。
すでに導入を進めている事例としては、「PayPay給与受取」サービスがソフトバンクグループ各社の従業員から導入が進められています。今後、グループ外企業への導入が進むことで、給与のデジタル払いが普及することが期待されています。

給与のデジタル払いは、現在黎明期ですが、従業員と企業双方にとってメリットがある制度になる可能性が高いサービスです。特に、日雇い労働者への対応や外国人労働者の受け入れのほか、約1,400億円(弊社推計)とみられる給与前払いの市場など、特定の領域でニーズが高まることが期待されています。それに加えて、一般企業に何処まで浸透していくか、にも注目が集まっています。

後、2社程度が厚生労働大臣の指定を受ける見通しとなっており、競争環境が徐々に形成されつつあります。これにより、コード決済の経済圏が給与支払いにまで拡大することで、私たちが日常的に利用しているお金の流れに大きな変化をもたらす可能性があります。このような背景から、給与デジタル払いの今後の動向に多くの注目が集まっています。今後の展開を注視していきたいと思います。

高野淳司

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高野 淳司(タカノ ジュンジ) 主任研究員
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