「貯蓄から投資へ」のスローガンの下、投資を促進する動きがある。投資を促進していく上で国は金融リテラシーを高めることも重要として、金融経済教育に力を入れ始めている。投資や資産運用などに注目が集まるものの、金融教育の中には当然ながら「保険」も含まれている。「保険」に関する教育状況はどうなっているのだろうか。生命保険会社による金融教育の取組状況と当社が生活者向けに行ったアンケート結果から保険に関する学びの機会の現状を見ていきたい。
国が金融経済教育に力を入れ始めている。老後2,000万円問題が取り上げられ、投資の有用性が話題となった。さらに岸田政権では、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させている。岸田総理は2023年6月に「資産所得倍増元年-貯蓄から投資へ」をタイトルにしたメッセージを発信している。メッセージ内には資産形成を促す考えが記載されており、以下に参考として該当部分を抜粋のうえ掲載する。
“今年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトを大胆かつ抜本的に進めていきます。「人生100年時代」。個々人の生き方、働き方も多様になり、それぞれのライフプランにあわせた資産形成が重要になっています。皆様が、ご自身のライフプランにあわせた資産形成を進められるよう、政府一丸となって取り組んでいきます。”
実際、岸田総理はNISAの抜本的な拡充やiDeCoの加入可能年齢引き上げなどに取組むことで、多くの人が資産の形成に取組めるよう体制を整備している。しかし、より多くの人に資産の一部を投資に振り向けてもらうために、今まで以上に国民が正しい金融リテラシーを身に着けるための環境を整える必要があろう。
2024年1月から新NISAが始まり話題となったことで、投資経験がない人もまずはやってみるという機会となっているだろう。しかし、金融リテラシーを持ち合わせていなければ運用は難しい。実際に8月に令和版ブラックマンデーと呼ばれた株価の乱高下が発生した結果、資産形成や投資に関する経験の少ない個人投資家たちは処分売りに走るなどパニックに陥った。
本来、投資の基本は「長期・積立・分散」であり、事が起こった際に冷静に経済情勢を見極めるために必要な知見を身に着けておかなければパニックに陥ってしまう。そこで重要になるのが金融経済教育である。実際に政府は民間企業と協力し、2024年8月に「金融経済教育機構(J-FLEC)」を設立、資産形成をはじめとした金融に関する知識を普及させるための取組みを開始した。
さて、資産の形成や投資などが注目されているが、金融教育の中には当然ながら「保険」も含まれている。多くの場合、投資や資産運用などに注目が集まるものの、保険について学ぶ機会は提供されているのだろうか。
実は生命保険会社の一部で、金融経済教育が注目される前から独自で出張教育などに取組んでいる。少し各社の取組について概観してみたい。
【図表:生命保険会社の取組状況】
公開情報を基に矢野経済研究所作成
上記表以外にも、例えばジブラルタ生命では2024年4月に吉本興業と金融リテラシー教育分野での協業を発表している。協業を通じて、幅広い年齢層に「笑って楽しくお金のことを学ぶ」機会を提供していきたいとしている。
具体的には、特に若い世代の方々に、お金のことをもっと身近に感じてもらうことを目的として、今夏に金融教育イベント「開校!笑金スクール!」を BS よしもと並びに両社のオウンドメディアにて配信や吉本興業の所属タレントとジブラルタ生命が協同して、中学生をおもな対象とした金融教育コンテンツの開発に取組むとしている。各生命保険会社の取組や今回のジブラルタ生命と吉本興業の協業などから、生命保険会社は若年層への教育を強化していることが分かる。
生命保険会社が中心となって保険に関する学びの場を提供しているものの、実際に保険について学ぶ機会はどの程度あったのだろうか。実際に検証すべく今回、弊社が8月末に発刊したレポート「2024年版 生命保険とお金に関する意識調査-購買行動や価値観から読み解くZ世代の特徴-」において、18歳~29歳/30歳~39歳/40歳~49歳の3世代を対象に生命保険に関する興味・関心度合いや加入意向などを問うアンケートを実施した。アンケートの中で、保険について学ぶ機会の有無を問う設問を用意し回答してもらった。
【図表:生命保険を教わる機会(世代別)】
出所:矢野経済研究所『2024年版 生命保険とお金に関する意識調査-購買行動や価値観から読み解くZ世代の特徴-』(2024年8月発刊)より抜粋
その結果、保険について学ぶ機会がなかったとする回答が各世代とも7割となった。余談であるが、筆者自身も保険については社会人まで特に学ぶ機会はなく、当社の仕事のために勉強を始めたというのが正しい。
話を戻そう。現在、貯蓄性の高い外貨建ての保険商品なども話題となる中で、「保険について学ぶ機会がなかった」とする回答が約7割と、一部の生命保険会社が学ぶ機会を提供しているものの、実際には多くの国民には届いていない状況にある。
金融経済教育の重要性が求められるなか、保険について学ぶ機会が乏しいままでは、本来はポテンシャルがあったとしても、「知らない」という理由だけで保険は敬遠されてよいのだろうか。
今は新NISAが始まったことで投資による資産の形成が注目され始めている。生命保険会社でも、学校の出張教育だけではなく、新社会人やこれから社会人となる高校生や大学生などに対しても学ぶ機会を積極的に提供してみてはどうだろうか。
また学習指導要領の改訂により学校の授業で金融に関することを教えるようになってきている。しかし教鞭をとる先生は保険について詳しいわけではないだろう。不安な形で教えることがないようにするためには、やはりまずは大人たちへの保険に関するリテラシーの向上が必要なのではないだろうか。
先生だけではない。親の立場である大人もなんとなく保険に加入しているだけで実際子どもと会話できるほど詳しくないケースもあるだろう。周囲の大人が保険について詳しくない状態では、子どもも保険について身近でないまま成長してしまうだろう。「資産の形成や金融について話題となっている今こそ、保険についても学ぶ機会を増やしていってほしい」と保険に関する調査に携わる者として切に願う。
(小田沙樹子)
■レポートサマリー
●生命保険の加入意識に関する消費者アンケート調査を実施(2024年)
■アナリストオピニオン
●日本における金融教育の在り方とは
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