矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.08.23

AI技術の進化によりEC市場が変わる

矢野経済研究所では、2024年7月に『2024 AIで進化するECサイト構築支援サービス市場の実態と展望』を発刊した。
2020年のコロナパンデミックをきっかけにECの利用が急増し、ECサイト構築支援サービスの需要も増加している。コロナ禍において、ライトなSaaS型で新規参入した事業者の間では、コロナ禍が収束した後、EC事業から撤退する事業者と、事業規模が拡大して本格的にEC事業に取り組む事業者の二極化が進んでいると見られる。
最近ではAI技術の進化に伴い、AIを活用して顧客体験の向上やEC事業者の業務効率化、収益の最大化が図られている。例えば、AIチャットボットによる接客や、よりパーソナライズされた商品レコメンド、商品説明文の自動作成、SNSやCRM運用の自動化、需要予測による在庫管理の最適化などが試されている。ECサイトの運用においてAI技術は、単純な作業の業務効率化だけではなく、クリエイティブ領域でもその活用が期待されている。

主要ECサイト構築支援サービス事業者のAIを活用した取り組み

主要事業者のほとんどがAIを活用し、様々な研究開発を行っていると見られる。自社開発のAIサービスを提供したり、パートナー企業と連携してAI関連機能を顧客に提供する事業者が増えている。また、社内の業務効率化を図るためにもAIの活用が進んでいると考えられる。

(1)生成AIを活用した商品説明文の自動生成
AI技術を活用した顧客向けサービスとして最も利用されている分野は、商品説明文の自動生成である。例えば、ECサイト上の商品掲載文の自動生成やSNSへの自動投稿、SEO対策などがある。業界全体においてEC人材が不足している中、このようなツールを活用することで、リテラシーが低い人でも簡単に商品説明文を作成することができ、EC事業者の業務負担が軽減される。さらに、AIがブランドイメージやスタイルを学習することで、ブランド独自のクリエイティブの提案・作成も可能になる。
(2)AIチャットボットによる接客およびEC運用サポート機能
AIチャットボットによる接客およびAIによるEC運営サポート機能が提供されている。EC事業者にとって、ECサイトのユーザーからの問い合わせ対応は、サイト運営上の大きな課題となっている。AIチャットボットを活用することで、顧客対応を自動化し、業務効率を向上させることができる。
また、ECサイト運用において、各事業者にパーソナライズされたFAQとその回答をAIが推奨する機能も提供されている。具体的には、送料の設定や在庫の追跡など、あらゆる業務に対して迅速なサポートと具体的な指示を受けることができる。さらに、各事業者のビジネス展開において最適な判断を支援するレポートを即座に作成するサービスなどもある。
(3)AIによる高精度な商品レコメンド機能
ECユーザーの属性や購買履歴、閲覧履歴をAIが分析し、ユーザーそれぞれの好みに合った商品をおすすめする機能が提供されている。過去にもECサイトでレコメンド機能は使われていたが、AIを活用することで、よりパーソナライズされた高精度なレコメンド表示が可能になっている。その結果、コンバージョン率が向上し、EC事業者の売上拡大につながっている。

その他にも、セキュリティ関連ではAIを活用したクレジットカードの不正検知や、商品情報処理(収集・項目設定・加工)の自動化サービス、生成AIによる対話型コマース(AIとの対話を通じて希望の商品を検索・注文する)や、説得力のある件名や魅力的なコンテンツでメール文を瞬時に生成し、最適な配信時間を判断してメールを配信するサービスなども提供されている。
さらに、ショップの将来の売上を予測し、それに基づいて資金調達を行うサービスや、需要予測により在庫管理を最適化するサービスなど、様々なソリューションが提供、あるいは研究開発されている。

AIの進化がEC市場に与える影響

2023年頃から今年にかけて、AIを活用した取り組みが増えており、月数万円程度のAI接客サービスなどが市場に多く提供されている。ECサイト構築支援事業者各社は試行錯誤しながらチャレンジしている状況と見られる。ただし、EC業界においてAI技術の活用はまだ十分に浸透していないとの意見が多い。
過去においてもEC業界では検索ロジックなどにAI技術が活用されてきたが、最近ではクリエイティブ領域での生成AIの活用が注目を集めている。今後、主にサイト構築やデザイン制作、単純作業のオペレーション業務などにAIの活用が広がり、業務効率化が図られると予想される。一方でそれと共に、サイト制作事業者やデザイン制作を主な業務とする事業者の中には、淘汰される企業が出てくる可能性がある。
また、生成AIの進化が加速することにより、マーケティングのパフォーマンスがさらに向上すると予想される。その他、対顧客とのコミュニケーション(接客など)分野やパーソナライズレコメンドによる販促の自動化、さらにはアパレルや食品などの小売分野において、AIを活用して生産前に需要予測を行うことで、在庫管理の最適化が図れると予想される。多様な場面でAIが業務を補完し、市場成長にポジティブな影響を与えると考えられる。
一方で、生成AIによって制作されたコンテンツに対する責任問題や、AIコンテンツの増加に伴いブランドとしての差別化が難しくなるといった懸念も多く存在する。

金貞民

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■レポートサマリー
ECサイト構築支援サービス市場に関する調査を実施(2024年)

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