矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.04.17

[シリーズ] 水素エネルギーバリューチェーンを巡る事業者の最新動向【第2回:日本エア・リキード】

昨今、水素社会の実現に向けて再生可能エネルギーを活用した水素の製造から利用に至るまで取組むべく、福島水素エネルギー研究フィールドやYamanashi Hydrogen Energy Society(H2-YES) 、あきた次世代エネルギーコンソーシアムなど、さまざまな実証事業が進められている。そこで今回、3回にわたって製造から供給、利用に至るまでの一連のバリューチェーンにおける事業者の取組み動向について発信したい。第2回目は日本エア・リキードの取組みである。

1.事業戦略

日本エア・リキード社は産業ガス会社として酸素や窒素、アルゴンなどを供給しており、その1つとして水素も扱っている。特に水素は、石油や半導体などの事業者に供給しており、60年以上の歴史を持つ。そうしたなか、近年脱炭素社会実現の一つの手段として、水素をエネルギーとして活用するマーケットが勃興してきており、エネルギーとしての水素にも注力している。
供給先としては、電力やガス会社、製鉄、モビリティなどが考えられる。ただし、既存エネルギーの代替となるため既存燃料との価格差が重要なポイントであり、同社はこの値差が比較的小さいモビリティ分野に注目している。
モビリティ分野で水素を供給するためにはインフラの整備が不可欠であり、2015年から水素ステーション事業を進めている。

水素基本戦略のロードマップに基づき、一般FCV向けに水素の供給をはじめているが、FCVの普及が遅いことから現在は乗用車に加え、水素充填量の多いトラックやバス、タクシーといった商用車をターゲットとして事業拡大を図っている。そうしたなか、商用車は現在ディーゼルを燃料としており、既存燃料との価格差が商用車FCが普及する上での一つの課題である。
ディーゼルは、ガソリンや水素よりも安価であるため、商用車ユーザーとしては、水素を選択しにくい状況にある。こうした状況を打開すべく、現在、商用車における需要創出のために更なる補助金の導入に向けて業界全体として国に要望している。

2.水素ステーションの整備

(1)商用車対応の大型水素ステーション
2023年より商用車メーカーCJPTを中心にFCトラックの普及に向けた取り組みが進んでおり、同社は福島県本宮市に日本初の24時間365日稼働する商用車対応の大規模水素ステーションを整備した。
ステーションの中長期的な運営にあたっては、商用車ユーザーの意向なども踏まえながら整備を進めていくことが重要なポイントと考える。

(2)タクシー会社と連携したマルチフューエルステーションを展開
2023年6月にMKタクシーを運営する神戸エムケイと連携し、「エア・リキード MK神戸空港前水素ステーション」を開設。同ステーションは、タクシー用マルチ燃料補給ステーション内に設置している。
同ステーションは、兵庫県や神戸市が推進する同地域でのカーボンニュートラルの実現に向けた取組みと同調しているとする。

【図表:エア・リキード MK神戸空港前水素ステーション】

出典:日本エア・リキード、ニュースリリース「エア・リキード、MKタクシーと連携し、水素ステーションを開設」より抜粋(2023年6月2日)

3.水素ステーションにおける取り組み

(1)遠隔監視に関する取組み
①概要
日本は高圧ガス保安法により水素ステーションの運営に際して保安監督者の専任を義務付けているため、水素ステーションを作るほど人件費がかかる。そうしたなか、日本エア・リキードが現在運営している19か所の水素ステーションのうち、2か所で無人の遠隔監視を実施している(スタッフが充填する有人時間帯と遠隔監視でドライバー自身が充填する無人時間帯がある)。なお、同社による簡単な講習を受け安全を担保したうえでドライバーが自身で充填できる環境を実現している。

②無人での遠隔監視によるメリット
遠隔監視により営業の拡大が可能である。また、規制緩和が進んだ場合、無人遠隔セルフ充填をすることで人件費の削減が可能となる。
ただし、規制緩和は早急に実現できるものではないため、業界のコンセンサスを得ながら進めていく必要があるとしている。

山口泰裕

関連リンク

■アナリストオピニオン
[シリーズ] 水素エネルギーバリューチェーンを巡る事業者の最新動向【第1回:東京都交通局】

■同カテゴリー
[ICT全般]カテゴリ コンテンツ一覧

山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422