昨今、水素社会の実現に向けて再生可能エネルギーを活用した水素の製造から利用に至るまで取組むべく、福島水素エネルギー研究フィールドやYamanashi Hydrogen Energy Society(H2-YES) 、あきた次世代エネルギーコンソーシアムなど、さまざまな実証事業が進められている。そこで今回、3回にわたって製造から供給、利用に至るまでの一連のバリューチェーンにおける事業者の取組み動向について発信したい。第1回目は東京都交通局の取組みである。
2014年5月、東京都の水素社会の実現に向けた東京戦略会議での方針を受けて実証実験をスタート。FCバスの車両自体の開発は2003年8月からトヨタ自動車が開発してきたプロトタイプを営業路線に投入して実証実験を行った。
2019年には、東京都として、2050年までに、世界のCO2排出実質ゼロに貢献するため、「ゼロエミッション東京戦略」を策定、同戦略において水素エネルギーの普及拡大に向けた取組の1つとして、2030年までに都内におけるゼロエミッションバスの導入を300台以上とする目標を掲げた。
一方、2013年に東京オリンピックの開催が決定し、FCバスを東京2020大会までに最大70両を目標に導入を進め、大会において選手及び報道関係者の輸送を行った。
「ゼロエミッション東京戦略」の目標の達成に向けて東京都交通局(以下「交通局」という。)だけでなく、都内を走る民間バスを含めて取り組むべく、現在、導入に向けて各社が取り組んでいる状況にある。
(1)概要や導入メリット
交通局では、トヨタ自動車が販売する FCバスを導入している。通常の都営バス車両と長さ、定員ともに同じである。ただし、タンクが搭載されている分、高さは20~30cm程度、通常よりも高い仕様となっている。また、充填する水素は、水素サプライヤーの水素を利用して いる。
導入メリットとして、走行時のCO2削減に加えて、ディーゼルと比べて静かであり、乗り心地が良い点を挙げる。また、乗務員からは、最初のトルクが力強いとの評価を得ているとする。
(2)導入計画
現在、交通局ではFCバスを75両導入しており、営業所によっては最大28両導入済。2024年度末までに80両に拡大する計画である。また、EVバスについては、2023年9月に東京電力ホールディングスと連携協定を締結し、EVバス導入モデルの構築に向けた取組を検討している段階にある。
(3)民間企業からの寄付も
三菱UFJフィナンシャル・グループのグループ5社からの寄付を受け、同グループのコーポレートカラーでデザインされた燃料電池バス1両を2022年2月17日より東京駅丸の内発着の都営バス路線において導入・運行している。
出典:株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京都交通局、ニュースリリース「MUFGデザインの燃料電池バスを東京駅丸の内発着の都営バス路線に導入」(2022年2月16日)より抜粋
(1)現状
FCバスへの水素充填は、バス営業所近隣の水素ステーションにて行っており、水素ステーションでのバスへの水素の充填は、運営事業者が対応している。
また、メンテナンスについては 、車検や点検、タンクのチェックも含めて直営の資格保有者が実施している。
(2)有明自動車営業所に新たに整備
燃料電池バスの導入を更に拡大していくため、国内初となるバス営業所内ステーションを有明自動車営業所に整備することとし、整備・運営する事業者を公募により選定し、令和7年4月に開所予定である。運営開始当初は、15両程度の充填、将来的には25両程度まで充填車両数の拡大を予定している。水素ステーションは、基本的に都営バスで利用するが、他の水素ステーションが稼働停止した場合等は、他のバス事業者のFCバスも受け入れる。
(山口泰裕)
■アナリストオピニオン
●[シリーズ] 水素エネルギーバリューチェーンを巡る事業者の最新動向【第2回:日本エア・リキード】
■同カテゴリー
●[ICT全般]カテゴリ コンテンツ一覧
YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。
YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。