矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2023.07.31

アンケート結果からみる生命保険の営業職員の実態

生命保険の営業職員を取り巻く環境の変化

生命保険の主たる販売チャネルは、営業職員である。公益財団法人生命保険文化センター「2021年度生命保険に関する全国実態調査」によると、2021年の生命保険(かんぽを除く)の加入チャネル状況について、「生命保険会社の営業職員」が55.9%と最も多かった。しかし営業職員チャネルを取り巻く環境は変化している。生命保険業界特有の課題であるターンオーバーをはじめ、人口減少/少子高齢化による新規保険加入者の先細り、銀行窓口販売の解禁や来店型保険ショップの誕生、保険比較サイトの登場などのチャネルの多様化、新型コロナウイルス感染症流行によるライフスタイルの変化など、営業職員チャネルを取り巻く環境に変化を与えている。

販売チャネルの多様化

現在も営業職員チャネルは伝統的な生命保険の販売手法であるものの、販売チャネル自体は多様化している。まず大きな動きとして、1996年に金融ビッグバン構想における保険業界の規制緩和がある。保険業法の改正で、従来の専属代理店の他に、新たに乗合代理店が認められた。乗合代理店とは、2社以上の保険会社の保険商品を販売する代理店である。その後2000年前後になると、店舗へ集客し、店舗にて保険商品を販売する「来店型保険ショップ」が誕生する。さらに2001年からは保険の銀行窓販(銀行窓口販売)が段階的に解禁され、2007年12月に全面解禁された。
直接的な販売チャネルではないが、顧客が保険商品を知る機会として「保険比較サイト」も存在感を増している。保険比較サイトとは、様々な保険会社の保険商品の内容や保険料などが具体的に掲載、比較できるWebサイトである。より詳細に知りたい場合は、保険商品をクリックすることで、その保険会社や商品を取り扱う保険代理店のWebサイトに遷移する仕組みを採っている。このため、保険会社や保険代理店から見た場合、保険比較サイトは加入見込みユーザーを集客する媒体と位置付けられる。

多様化する生命保険の販売チャネルであるが、今回矢野経済研究所では生命保険の営業職員の実態を把握するため、生命保険の営業職員400名を対象にアンケート調査を実施した。なお、当社ではこのアンケート結果を分析したレポート「2023年版生命保険の販売チャネル戦略と展望-営業職員アンケート調査編-」を2023年6月に発刊している。
アンケートでは、「コロナ禍が営業活動に与えた影響」「DXツールの利用動向」「顧客ターゲット」「新規or既存顧客 優先状況」「会社の制度」「チャネルの変化」「仕事の継続意向、その他」と7つのパートに分けて営業職員に尋ねている。本稿では「DXツールの利用動向」パートの結果から営業職員チャネルの実態について考えていきたい。

ITツールの導入は業務効率化に貢献

DXの推進やコロナ禍による営業手法の変化によって、営業職員にノートPCやスマートフォン、タブレットなどのデバイスの導入が進んでいる。各デバイスの使いこなしに関して、デバイスを導入している営業職員の8割以上が使いこなしていることがわかった。営業活動の効率化に関しても半数以上が効率化していると回答していることから、ITツールの導入は営業活動に一定程度貢献していると言える。

【図表:営業活動でデバイスを使いこなせているか】

【図表:営業活動でデバイスを使いこなせているか】

矢野経済研究所調べ

Web面談ツールにおける顧客接点強化の効果は限定的

それではデバイスに入っているアプリケーションの活用度合いはどうか。アプリケーション別では、コロナ禍で顧客接点を持つための手段として、非対面営業を実現するZoomなどのWeb面談ツールの導入が大手生保や準大手を中心に進んでいる。しかし、アンケート結果によると、全体的な傾向として約4割がWeb面談ツールを使いこなしていないと認識している結果となった。また、Web面談ツールに限らず、営業職員の年代が高くなるにつれ、アプリケーションを使いこなせていないと認識する割合が増える傾向にあった。

【図表:会社で導入しているアプリケーションを使いこなせているか】

【図表:会社で導入しているアプリケーションを使いこなせているか】

矢野経済研究所調べ

Web面談ツールを使いこなしていない層にとっては、ITツールの導入が営業活動の負担増にも繋がっている。一方で使いこなしている層にとっては、顧客接点の機会創出に活用できている。コロナが5類に移行し、今まで通りの対面の営業活動に戻るかもしれない。しかし、顧客によっては隙間時間などを活用し、Web面談でのコミュニケーションを希望する可能性もある。その際に使いこなせていない4割が顧客接点の機会損失になるかもしれない。生保各社が今後もWeb面談ツールを利用した非対面営業の手段を活用していくのであれば、年代別に応じた使い方の講座の実施や習熟度別の活用方法、Web面談における話し方講座など、営業職員のスキル向上の機会を提供するといいのかもしれない。

小田沙樹子

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■レポートサマリー
生命保険の営業職員アンケート調査を実施(2023年)

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小田 沙樹子(オダサキコ) 研究員
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