矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2023.06.26

生成AI、XR、メタバース……DX時代における先端技術の事業化戦略

AI・生成AI、XR(VR/AR/MR)、ブロックチェーン、メタバース、Web3、量子コンピュータ、IoTなど、技術が注目される機会が増えている。特に2023年6月現在、ChatGPTをはじめとする生成AI(Generative AI)の話題を聞かない日はない。メタバースは2022年のバズワードとなった。
ユーザ企業ではDXの機運が高まっており、これらの先進技術、注目技術を活用することへの関心は高い。日本は米国とは異なり、IT人材はSIerを中心とするIT業界に多く在籍している。ユーザ企業でも、DXの進展とともにITの内製化を強化しようとする動きが強まっているものの、これまで企業のITを担ってきたSIerが企業のDXパートナーとなることは間違いない。同時に、SIerは従来受託開発、つまりユーザ企業が望む通りのシステムを開発し、安心安全に運用することを最重要としてきており、ユーザ企業はSIerにITを任せるというベンダー依存が長年の慣習となっていた。DXにおけるビジネス変革支援や共創はSIerにとってもチャレンジとなる。

【図:DX推進におけるユーザ企業とSIerの変化】

【図:DX推進におけるユーザ企業とSIerの変化】

出所:矢野経済研究所作成

矢野経済研究所では2023年3月にSIerによる先端技術の事業化についての事例調査を行ったレポート「2023 ITベンダーの先端技術活用事例研究レポート」を発刊した。

先端技術の事業化はどの企業にとっても課題が多い。ソリューション企画、提案、PoCなどに手間や時間がかかる上に、失敗もあり得るためトライ&エラーを繰り返す可能性もある。ユーザ企業側も、DXの関心がレガシーのリプレイスやオペレーションのデジタル化に向いているケースが多い中で、先端技術を使った新事業など変革に意欲的な企業をパートナーとする必要がある。
また、人材も重要なテーマとなる。現在エンジニアの人材不足が深刻である。IT企業のみならず、ユーザ企業でもIT人材を求めているため、人材獲得競争は激化している。とりわけ、先端技術を扱えるエンジニア、扱いたい意欲のあるエンジニアは多くの企業が求めており競争率が高くなることが想定される。SIerは収益源となる既存事業が安定している点は魅力だろうが、尖った技術に関心のあるエンジニアを惹きつけられるかは課題となるだろう。

本稿では、事例調査を行ったSIer各社での先端技術を事業化に繋げるための取り組み事例を紹介する。全体的な傾向として、先端技術の事業化や技術を使ったDX支援の重要性は高まっており、組織改編や新組織設立を行い体制強化に取り組む企業は多かった。顧客に直接接している現場部門が技術を理解し活用のアイデアを持つためのイベント開催、技術部門と現場部門が一体となってDX支援事業を推進するための仕組みづくりなど、様々な工夫を凝らしていることも指摘できる。

■SCSK株式会社
2022年に當麻社長が就任し、中期経営計画に「事業改革(S-Cred+を活用したものづくり革新)」「DX事業創出(重点領域はモビリティ、金融、ヘルスケア、CX)」を掲げ、事業に直結する技術開発を強化している。そのための施策の一つに組織改編があり、2023年4月から組織を改変し、新たに技術戦略本部を設けた。SCSKには3月までR&D部門としてR&Dセンターがあったが、2023年度からは技術戦略本部に統合された。
技術と市場ニーズのマッチングの成功率を高めるには、顧客と接点を持つ事業グループの現場に、新しい技術の理解を促すことがポイントとなると考えている。そのための施策として、研究活動の社内発表、事業グループとの協業による事業化、社員への啓蒙活動、ワークショップやハッカソン開催など、様々な取り組みを行っている

 

■NECソリューションイノベータ株式会社
NECグループとしてR&DやOSSなど新しい技術に関わる取り組みを行っており、グループでの補完関係にあるという位置づけとなる。その一方で、NECソリューションイノベータとして独自に技術戦略を検討し、得意とする分野のR&Dを行うなどして競争力を高めている。同社は、デジタル化が進む中で「リアルとデジタルの間を埋める技術」の重要性が高まるとみており「人間系」にフォーカスした独自のR&Dとしては、大学との共同研究による行動変容技術、人の能力拡張、睡眠研究などがある。
先進技術の事業化においては、CTOをオーナーとした技術戦略会議を定期開催し、現場部門から持ち込まれた技術課題というボトムアップ型、CTOや本部側からの新技術の提案などのトップダウン型双方で、技術テーマの検討やディスカッションを行っている。技術は手段である、という考えに基づき、R&Dで研究した技術の出口として適用先を見つけるという技術起点だけでなく、事業部門が実現したいテーマに対して必要な技術とマッチングする双方向の戦略をとっている。

■NECネクサソリューションズ株式会社
NECネクサソリューションズの顧客は中堅企業(SMB)が中心である。そのため、事業部門がすぐ顧客企業に提案できる技術の探索に重点を置いている。AIであれば、NEC(親会社)側では中長期のトレンドの把握や技術そのものの研究開発なども行っているが、NECネクサソリューションズでは顧客のニーズに基づき外部の技術や製品を活用しながらSMBで活用しやすいソリューション開発を中心的に行う。
NECが主催するデータ分析に関するアイデアコンテスト「NEC Analytics Challenge Cup」に参加するなどの活動を通じて、社員のレベルアップや顧客提案の機会増加を図っている。2022年の同イベントでは、同社の参加チームが、データ活用コンテスト部門で最優秀賞を獲得した。

■株式会社NTTデータ
2022年度からの中期経営計画において、戦略の柱の1つに「先進技術活用とシステム開発技術力の強化」を掲げている。そのための組織として、2022年8月に、技術革新統括本部技術開発本部の中にイノベーションセンタを設立し、日本・米国・イタリア・ドイツ・中国・インドの6カ国に拠点を設置している。国内では、コネクテッドカー基盤で共創R&Dをしているトヨタ自動車をはじめ、NTTデータとの関係が強固で、先進技術活用に意欲的なユーザ企業をパートナーとし、共同で技術研究や実装に向けた取り組みを進めている。
2023年現在、注力技術にはデジタルツイン、量子コンピューティング、ブロックチェーンなどがある。LLM(大規模言語モデル)も顧客と共に検討を進めている。

■TIS株式会社
大学との共同研究などの産学連携を中心とした研究開発を行っている。大学での研究を日本企業が活かしきれず、海外企業が事業化して成功するといった状況は日本の課題の一つであるとみており、大学の良い研究成果を積極的に取り入れたい考えである。
技術研究の進め方として、着手したのがテクノロジーポートフォリオの作成である。国内外の技術のトレンドと、TISの事業領域や保有プロダクトを照らし合わせ、短期~中期~長期の時間軸とも組み合わせながら、強化すべき技術、新たに取り入れる技術などを整理し、事業部門やグループ会社とも共有する。TISとグループ会社のインテックそれぞれで作成し、共通するテーマに対しては共同で取り組むこともある。テクノロジーポートフォリオを元にコア技術を選定し、R&D戦略を立案する。遂行する上ではOKR(Objectives and Key Results)を活用する。四半期ごとに目標を見直し、迅速に改善を図ることで、研究開発の成果を実用化へと導いている。

■株式会社日立ソリューションズ
日立ソリューションズのR&D部門の機能は3つある。1つ目は技術への投資方針の決定、2つ目は扱っている技術の投資予算や進捗管理などの取りまとめ、3つ目は実際のR&Dの実施である。1つ目に関しては、自社事業に影響が大きい技術、その使い方、投資タイミングなどの検討・企画などを含む。
AIとクラウドについては、CoE(センターオブエクセレンス)を設置しており、部門横断でノウハウの共有を行っている。注目する技術の一例としては、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」「XR」、開発手法として提案を進めているマイクロサービスパターン活用などがある。

■BIPROGY株式会社
先端技術、普及している技術含め、技術を活用した新規ソリューション創出などを担う組織としてTechマーケ&デザイン企画部がある。扱う技術には、業界横断の技術としてクラウドやデータ利活用などがあり、新しい技術としては量子コンピュータ、AI、XR・メタバース、ブロックチェーンなどに注目している。
技術によってもフェーズが異なる。AIは既に金融、公共、流通など各業界で実装が進んでおり、用途としてもデータ活用はもとより、インフラの点検、小売業店舗向けの自動発注などのソリューション化を行っている。AI技術を使ってソリューションの付加価値を向上させるという位置づけである。一方でXR・メタバースのように、これからビジネス用途を探索し業務適用していく技術もある。

■ユニアデックス株式会社 2018年よりAI・IoT・ロボティクスなどの最新技術を用いた価値提供をするというメッセージを打ち出し、具現化を進め、新たなサービスや事業の創出を行ってきた。
同社のDXビジネス推進の役割は2つあり、1つがビジネス創出、もう1つが技術の実装である。ビジネス創出は営業の立場で顧客への提案などを行い、技術の実装はエンジニアの立場でビジネスに組み込む技術の探索や実装支援を行う。営業と技術が同じ組織に所属する製販一体の体制となっていることで、PoCの実施や効果検証などを迅速に実施できる効果を発揮している。現状では、開発したビジネスを吟味し社内外に大きく拡大し、スケールアウトを実現するため、2023年4月にさらなる組織再編を行った。
また、2020年1月から共創スペース「ACT+BASE」を東京有楽町で開設し、ユーザ企業とのワークショップなどを行っている。

関連リンク

■レポートサマリー
ITベンダーの先端技術活用に関する調査を実施(2023年)
国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2023年)

■アナリストオピニオン
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