矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.05.12

IoT関連ビジネスへの参入では、成果を可視化しやすい領域へのアプローチを目指せ

IT/IoT関連ビジネスへの参入動向調査の全体イメージ

日本でインターネット元年と言われた1995年度以降に設立、且つ資本金10億円未満のIoT関連事業者を対象として、IT/IoT関連ビジネスへの参入動向を調べた。ここで、収集情報が資本準備金を含む場合や連結/グループベースの場合には、その都度判断した。また実質的な事業スタートが1995年度以降の場合には、設立が1994年以前であっても対象としたケースがある。
今回の総調査対象事業者数は392社で、その内訳は下表の通り。尚、各事業者の参入領域は、Web情報や文献調査などから、矢野経済研究所にて独自に以下の4領域に分類している。

※調査対象事業者(392社)の業態もしくは展開事業領域を「参入領域」とした。但し、参入領域別の出現数には重複分が含まれる(1社で複数領域に参入するケースがある)。

【図表:IT/IoT関連ビジネスへの参入動向調査の全体構成】

図表:IT/IoT関連ビジネスへの参入動向調査の全体構成

矢野経済研究所作成

自社業務の効率化や自社製品・サービスでのAI/IoT活用を目指した新規参入が6割程

1990年代のITバブル以降、IT新規参入事業者が拡大。その後、新規参入ブームは一段落したが、2000年代中頃からは再度新規参入が拡大。2010年代に入ってからは、IoTやAIブームに乗って大学発ベンチャーや事業会社からの異業種展開も増えた。
全体動向としては、自社事業(自社業務の効率化/精度向上などを目的としたIoT/AI活用)や自社製品・サービスへのAI/IoT活用型の参入が多く、本調査対象392社のうち234社(構成比59.7%)がこれに該当する。

IoT関連ビジネスでは近年、製造業や金融業、商社などからの異業種参入も増えている。この場合、単体参入もあるが、M&Aや事業買収、アライアンス(IT事業者、SIer、デバイスメーカーなど)を活用したアプローチも少なくない。特に製造業では、元々の製造技術や制御技術、工程管理技術などをベースにして、これにIT技術を融合したソリューションを開発し、外販を狙う動きも見られる。これに連動して、前述した自社事業型(自社業務の効率化/精度向上などを目的としたIoT/AI活用)から発展した外販型の新規参入も増えている。

他には、IoTベンダーとしての展開を行うケース(他領域展開との重複を含み187社)も多い。さらにAIベンダーとしての展開を行うケースも125社(同上)あった。

ターゲットが明確なケースでは「マーケティング/サービス業」向けアプローチがトップ

今回の調査では、汎用用途(例えば、企業の情報システム部門向け/人事・総務向け/社内研修向けなど業種は問わないケース)でのターゲット設定が多かった。

ターゲット業種が明確なケースでは、「マーケティング/サービス業(広告、宣伝、人材サービス含む)(出現率42.1%)」がトップで、以下「小売/流通業(同37.2%)」、「製造業(同35.7%)」が続く。この3業種は、元々IoT活用が進んでいる分野であり、その分、新規参入事業者も多い。逆にターゲット業種の設定が少ないのは、「農業・畜産(同5.4%)」、「自動車(同16.6%)」、「建設(同17.9%)」など。この背景には、農業・畜産ではIoTの実装自体が遅れているため、逆に自動車ではIT活用が進んでいるため(技術的に高すぎる)だと思われる。

出現数が100件を超えるのは、汎用用途とマーケティング/サービス、小売/流通、製造、インフラ/エネルギー/防災(同25.8%)のみであった。

【図表:ターゲット業種別の新規参入動向】

図表:ターゲット業種別の新規参入動向

矢野経済研究所作成
※1.出現数は重複を含む(1社で複数業種をターゲットにするケース)。
※2.全体比は、「各業種での出現数÷出現数の計(上表では1,480社)」で算出。
※3.出現率は「各ターゲット業種の出現数÷調査対象数(392社)」で算出。

成果を可視化しやすい3分野での新規参入が進む

団塊世代が70代に突入した2015年前後から(多くの現場作業者が離職すると想定される年齢)、様々な産業分野で人手不足が顕在化したが、特に「勘と経験」による部分が大きな現場作業でこの傾向が強まった。

現在、国内での就業者数自体は拡大しているが、これは女性及び65歳以上の前期高齢者の就業が伸びているためで、現場作業者の中心となる「15~64歳の男性就業者数」は、ここ10年では微減基調が続いている(総務省統計局:労働力調査)。
今回のコロナ禍により、一時的には人手不足の緩和(有効求人倍率の低下)が見られたが、基本的には少子高齢化を背景とした日本の人口動態は不変で、中期的には人手不足は避けられない。この点は日本経済のアキレス腱となっている。

これらの点を踏まえて近年、企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを進めている。しかし急拡大するDXニーズに対して、従来のIT業界だけでは対応が難しく(人的リソース不足、システム開発の柔軟性の欠如、イノベーション創出力の限界、多様なニーズへの迅速対応など)、ここでIoT関連マーケットへの新規参入の拡大がある。

従来は、システム化や見える化自体がターゲットであったが、DXでは収集データを基にした価値創出や収益向上がターゲットになる。そのため、より成果を出しやすいマーケティング/サービス(売上向上、利益向上を可視化しやすい)や小売/流通(売上向上、利益向上を可視化しやすい)、製造(保全業務の高度化ニーズが大きい、省人化ニーズが高い)において、特に参入動向が活発化している。つまりIoTマーケットへの新規参入では、従来のような‘デジタル化’自体を目的としたアプローチよりも、より‘具体的な成果’を提供できる領域へのアプローチかポイントになる。

AI系での新規参入では、製造をターゲットとする傾向

注目度の高いAIベンダー系の新規参入事業者では、「製造(出現率52.0%)」をターゲットとした割合がやや抜けており、AIベンダー系でのターゲット設定が明確化している様子が伺える。
ここでは、予防保全などに代表される維持管理・保全業務、外観検査・検品などの品質保証、さらには全体最適化(稼働率向上など)などにフォーカスしたアプローチが顕著である。

尚、AI系(AIベンダー)での参入は125社で、本調査対象392社の約1/3が該当した。参入事業者では、「ABEJA」や「Preferred Networks」といったAI分野で確固たるスタンスを確立した有力ベンダーや、「トウキョウ アーチザン インテリジェンス㈱」や「㈱GAZIRU」、「Mantra㈱」のように2020年以降に設立された新興ベンダーもある。全体としては、圧倒的に2000年以降に設立された事業者が多い。

★本稿は、弊社資料「IoTマーケット参入動向の徹底調査~ITベンチャー・中小IT企業の取り組み実態~」から抜粋。

早川泰弘

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■レポートサマリー
IoT関連市場への新規参入動向調査を実施(2022年)

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早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 主任研究員
産業調査/マーケティング業務は、「机上ではなく、現場を回ることで本当のニーズ、本当の情報、本当の回答」が見つかるとの信念のもと、関係者各位との緊密な関係構築に努めていきます。日々勉強と研鑽を積みながら、IT業界の発展に資する情報発信を目指していきます。

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