矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.12.22

RPA市場に見るDXの理想と現実

この度RPA市場の調査結果のプレスリリースを行った(2020年12月7日)。RPA市場は、コロナ禍による投資抑制などの影響は避けられないながらも好調に推移している。

取材中、RPAソリューション提供側(製品開発元、SIer、コンサルティングファーム)からは「コロナ禍でユーザ企業ではDXを加速させる、それに伴ってRPAの利用は拡大する」という期待の声を多く聞いた。
この先、ニューノーマル時代への対応と、RPA活用による業務自動化が進み、日本の労働生産性は向上していくのか。それは理想的なシナリオではあるが、そう簡単ではない。ユーザ企業の実態からは「DXの流れから取り残されている企業がほとんどだ」という現実も浮かび上がる。
矢野経済研究所が、ユーザ企業のIT投資について毎年行っているアンケート調査(2020年の調査期間は2020年7~9月)では、IT投資の目的を「戦略的なコスト」「システム維持運営のためのコスト」「業務効率化のためのコスト」に分けて比率を聞いている。結果はおよそ2:6:2となり、経年の変化はほとんどない。DXはまさに「戦略的なコスト」に含まれることになるが、横ばいである。新型コロナウイルスを経験後に回答した2020年の最新調査でも比率が上がっているわけではない。日本企業は欧米企業と比較して「システム維持運営のためのコスト」の比率が高いと言われるが、その実態が調査結果にも現れている。
「業務効率化のためのコスト」は若干増加している。コロナ禍で景気悪化、先行き不透明となった結果、業務効率化やコスト削減の意欲は高まっていることが伺える。RPAは業務効率化にも貢献するツールであるため、RPAへの投資には繋がる可能性はある。IT投資に関する調査結果の詳細は「国内企業のIT投資実態と予測 2020」(2020年10月発刊)をご参照いただきたい。

多くの企業は、自社の業務、ビジネスのどこにどのような技術を活用し、どのような価値を生み出せば良いのか、について答えを見出せないでいる。そのため、テクノロジーと実際の現場における課題が結びついておらず、DXは思うようには進んでいない。世間で喧伝されるほどDXは身近なテーマではない。DXへの道のりはまだ遠く、一足飛びにそこへ到達するのは困難であろう。

それでも、コロナ禍によって、日本全体でデジタル化の遅れが認識されたことはDXの足がかりになる。テレワークの利用拡大、非接触・非対面のニーズ拡大や巣ごもり需要といった消費者の行動変容など、様々な変化が加速している。これまでも、日本企業の紙・FAX・捺印などアナログな業務慣習の多さや、定時出社を基本とする硬直化した働き方は問題になっていたが、社会の大きな変化は企業努力や世代交代などによってではなく、世界的なパンデミックという「外圧」によってもたらされることとなった。
RPAは人が行っていた業務をソフトウェアロボットが代行する技術であり、テレワークでも出社せずにリモートで業務を遂行できる、業務がデジタル化することでロボットの利用範囲が拡大するなど、これらの変化はRPAにとっては好材料となり得る。RPAの利用はあくまでDXの手段の一つであり、RPAの利用が目的となっては本末転倒だが、RPAによる省人化や自動化はDXに取り組む下地になり得る。より多くの企業が、業務のデジタル化、自動化に取り組み、成功体験を蓄積することこそが、本質的なDXへの突破口となるだろう。来たるべき2021年がDX進展の年となることを祈念する。

ここで筆をおいてもよいところだが、さらに未来に思いを馳せよう。日本企業・日本社会が本質的なデジタル化に進化を遂げた際には、ロボットが代行すべき単純作業やアナログ業務自体が減少し、RPAの活躍の場は逆に減るのかもしれない。しかし、現状や日本企業の改革のスピードを考えると、そこまで到達できるのは、5年がかりかそれ以上といった長期スパンになると想定する。また、長期的には、画像認識・音声認識・自然言語処理・AI対話など各種AI技術との組み合わせで、高度な自動化とともにRPAを活用するという、新たな用途が開発される可能性も高い。

関連リンク

■レポートサマリー
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場に関する調査を実施(2020年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2020年)
DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する動向調査を実施(2020年)

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