矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.07.03

電力CIS市場の概況【後編】

2016年4月の電力小売全面自由化から4年が経過し、小売電気事業者として登録されている事業者は、2020年5月1日時点で652に上る。これらのうち、登録のみで稼働していない事業者、Excelで顧客管理が可能なレベルの事業者を除き、約半数が電力CISを導入しているものと推測される。

電力CISの規模感は様々であり、数万~数十万需要家レベルを主要ターゲットとするベンダとして、TISと日本ユニシスの取り組みを前編で紹介した。後編では、アイテック阪急阪神とNTTデータの事例を紹介していくこととする。

アイテック阪急阪神

■定期課金する様々な事業に対応可能
阪急阪神東宝グループのケーブルテレビ局であるベイ・コミュニケーションズの情報通信部門をアイテック阪急阪神が担う形で、BtoBおよびBtoCの顧客管理システムを1992年より手がけており、そこで培ったノウハウをエネルギー小売事業者向けにも展開しているのがi-PLAT CISである。「ケーブルテレビのユーザーに対して、テレビ、インターネット、電話に加え、水なども販売する」という発想の下、開発当初からセット売りを想定した作りになっており、定期課金する様々な事業に対応が可能である。

■細部まで行き届いた使い勝手の良さ
i-PLAT CISは、電力小売全面自由化に向けてゼロから立ち上げたものではなく、25年に渡って実績を積み重ねてきたことにより、課金システムとしての完成度が高まっている。検針データが間違っていた場合を除けば、電力で誤課金したケースは一度も見られないのがその証左である。その他にも、督促管理を自動化することによって顧客の業務負担を軽減したり、他社システムからの乗り換え時の負担を軽減したりと、細部まで行き届いた使い勝手の良さが好評を博している。

【図表:i-PLAT CISの主な特長】

図表:i-PLAT CISの主な特長

矢野経済研究所作成

■顧客ニーズに応じて料金計算エンジンの選択が可能
i-PLAT CISは、契約・請求情報、ポータル、料金計算エンジンで構成されており、計算エンジンは自社製の他、三菱電機製とIBM製もラインナップしている。需給管理には自社対応しておらず、他社製品と連携することになる。三菱電機のBLEnDerの他、TISのエネLink Balance+との連携実績もある。
提供形態としては、オンプレミスとクラウドの双方に対応可能であるが、実績は殆どがクラウドである。クラウド基盤は、計算エンジンに合わせて自社・三菱電機・IBMの選択が可能である。
導入実績で見た場合には、数万~数十万需要家レベルの事業者が中心ということになるが、数千需要家レベルにも対応が可能である。

NTTデータ

■事業ステージに応じた機能追加が可能
ECONO-CREAは、AWSを基盤とするクラウドサービスであり、NTTデータが提供するサービスプラットフォーム上でCISと需給管理の機能を提供している。CIS部分は、協和エクシオの顧客管理パッケージABS(Adaptive Biz Service)がベースとなっており、需給管理部分は富士電機のEnergyGATEがベースである。数十万規模の需要家を抱える事業者に対応していく傍らで、新たな取り組みとして小規模な事業者にも対応する製品展開をしており、数千規模から数十万規模まで幅広い事業者において数多く導入されている。従来の電力企業のように投資余力があるケースを除き、新規ビジネスとして電力小売を立ち上げる際には初期投資を抑えたいというニーズがあり、ECONO-CREAは事業ステージに応じて機能を追加できるメニュー構成とすることにより、利用料金のフレキシビリティを高めている。

■NTTデータグループの強みを活かしてコンサルティングサービスも提供
新電力よりも事業のスコープを広げたところでは、「自社サプライチェーンの中で電力をどのように確保していくか」「地方創生に絡めて地域における電力需給を検討する」といった課題を持つ企業に対し、NTTデータ経営研究所やクニエを交えてコンサルティングサービスを提供するなど、NTTデータグループとしての強みを活かすことが可能である。

■新ビジネス創出のプラットフォーム構築を志向
NTTデータではサービスプロバイダとの協業により、需要家向けに付加価値サービスを提供する『ECONO-CREAマーケットプレイス』を展開。提供するサービスはデータ分析に止まらず、優待特典サービス、家電レンタル、保険、ホームセキュリティなど、生活関連の様々なサービスをラインナップしている。
今後の展開としては、現在関わりのある新電力、代理店、需要家のみに限定することなく、系統運用事業者、自治体、各種のサービスプロバイダなども巻き込んだ新ビジネス創出のプラットフォームを構築していきたいと考えている。新電力に対するサービス提供から、「電力をキーワードとする異業種横断的なサービス提供」「エネルギー&ユーティリティ分野における新サービス創造」といったステージに進むことをイメージしている。

今後の市場動向

電力小売全面自由化スタート時の特需から5年経過する2020年から2021年にかけては、更新需要の盛り上がりが見込まれる。加えて、従来はExcelで顧客管理を行ってきた中小事業者においても、事業成長に伴う新規導入の余地が残されているものと考えられる。 こうした市場環境に対する電力CISベンダの事業展開としては、先ずは自社顧客のリプレイス需要を手堅く押さえていくのが基本方針となる。その上で、中小事業者にまで手を広げていくことも選択肢となり得るが、この点については中小規模にもフィットする電力CISであるか否かで方向性が分かれることとなる。比較的安価なパッケージプランを用意し、顧客層を広げていくような動きも模索されているが、中小事業者をターゲットとする既存ベンダと競合する可能性もあり、どのようなアプローチで顧客を取り込んでいくかが課題となる。他方、電力CISのみに限定して事業の成長を捉えるのではなく、再生エネルギーを有効活用できるようなプラットフォームを構築してエネルギーの地産地消を促進したり、電力をキーワードとする新たなサービスプラットフォームを開発したりするような取り組みも想定される。

坂田 康一

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坂田 康一(サカタ コウイチ) 専門研究員
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