矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.06.25

電力CIS市場の概況【前編】

電力CIS(Customer Information System)は、電力小売事業の基幹業務である顧客管理部分を担う情報システムであり、顧客管理、料金計算、請求・入金管理などの機能を備えている。もうひとつの基幹業務である需給管理の情報システムも、CISと同シリーズにラインナップしているベンダも見られる。その他の機能としては、電力広域的運営推進機関(OCCTO)や送配電事業者などとのデータ連携が必須であるのに対し、CRMやSFAといった周辺システムとの連携はケース・バイ・ケースであり、データ活用ソリューション(収支管理、分析、レポーティング、BI/DWHなど)と連携させる事例はさほど多くないのが実情である。

電力CIS自体のスケールは、数千程度の需要家を対象にしたものから、数十万の需要家を抱える事業者に対応するものまで様々であり、比較的規模の大きな事業者向けの製品を手がけるベンダとしては、TIS、日本ユニシス、アイテック阪急阪神、NTTデータ、富士通、オプテージ、ユニファイド・サービスなどが挙げられる。これらベンダの中でも、参入経緯や得意分野などによって電力CIS関連の事業展開には違いが見られる。

前編では、TISと日本ユニシスの取り組みを紹介する。

TIS

■情報プラットフォームベンダとしてエネルギー業界にも取り組む
最適なフィードバックを行う情報プラットフォームのベンダを標榜しており、キャッシュレス、ロボティクス、ヘルスケア、エネルギーの4分野を注力分野として掲げている。エネルギー関連の事業全般について言えば、30年以上にわたってシステム構築・提供を行ってきた、案件単価の高い従来の電力・ガス業界がメインターゲットということになる。
新電力に対しては、エネルギー業界全般で培ってきたシステム構築技術・ノウハウを活かしてプラットフォーム提供に取り組んでおり、スクラッチ開発が可能なレベルのIT投資予算を持たないケースにも対応すべく、短納期・高品質・低コスト・柔軟な対応をキーワードとしたエネLinkシリーズを手がけている。
ただし、エネLinkの顧客層はIT投資予算が少ない新電力に限定している訳ではない。従来電力事業者が小売で他地区に進出したり、ガス事業者が電力小売に参入したりする場合には、本業よりも事業規模が小さくスピード感が求められることから、それら企業においてもエネLinkが採用されるケースが見られる。

■小売電気事業者のビジネス拡張を見据えたアーキテクチャを採用エネLink 電力小売基盤ソリューション(旧称:エネLink CIS+)は、B to B to Cモデルにも対応する電力CIS機能を有している。代理店・販売パートナー向け機能を充実させていることが特徴のひとつとして挙げられ、料金メニュー設定を例に取れば、電気料金制(基本料金、従量料金)と料金単価(電気量・季節・時間帯・曜日等)の部品群を備えることから、同ソリューションユーザーの代理店がかなり細かな料金設定を行っているケースも見られる。また、運用人員に乏しい傾向のある新電力の実情を踏まえた上で、チェック機能の強化によるスイッチング時のエラー率低減も実現している。技術面で特筆すべきはマイクロサービスアーキテクチャを採用している点であり、同アーキテクチャによって「保守性」「拡張性」といった優位性を実現している。この施策は、「小売電気事業者が電気以外の商材をも扱う総合エネルギー事業形態へ転換することが今後のトレンドになる」という見立てに基づくものであり、スピーディかつスムーズな商品新規追加や顧客単位の管理を実現することを可能にしている。また、CISを単なる顧客管理システムと捉えず、VPPやエネルギーマネジメントのような「事業者が次世代エネルギーサービスを実現するためのプラットフォーム」へと進化させていきたいという思いも、この施策の背景となっている。
CIS以外については、需給管理、ポータルサイト、課金・請求代行業務、対面営業ツール、スマートフォンアプリ、電力データ活用といった機能をエネLinkシリーズ配下にラインナップ。導入形態としては、いずれもオンプレミスとクラウドの双方に対応している。

■顧客ニーズに応じてカスタマイズ
ターゲットを特に絞り込んでいる訳ではないが、実態としては、大規模な事業者において導入されるケースが多い。テンプレート化されたモジュールを組み合わせたり、アドオン開発したりして顧客ニーズに合わせるケースが多いため、パートナー販売には馴染み難く、自ずと直販が主体となる。他方、需給管理機能を持たないCISベンダから協業を持ちかけられ、需給管理部分にエネLink 発電・小売事業対応クラウド型需給ソリューション(旧称:エネLink Balance+)が適用されるようなケースも見られる。
システム部門の人員数が少なく、導入の際の要件定義にまで手が回らない場合には、標準的な業務フローに対応したシステム構成をたたき台として提示し、顧客の要望に応じて取捨選択できるような形で商談を進めることもある。

日本ユニシス

■他社に先駆けて卒FITに対応
日本ユニシスは、電力業界におけるシステム構築ノウハウをベースに、一括受電事業者に対するMEMS(Mansion Energy Management System)提供を2013年に開始しており、2016年4月の電力小売完全自由化を見据えて、2014年にEnability CISの販売を開始した。Enabilityシリーズには、CISに加えて、Enability Order(契約申込、スイッチング連携、応対履歴の管理)、Enability Portal(情報提供ポータルサービス)がラインナップされており、2017年には高圧需要家向け機能を追加、2019年には他社に先駆けて卒FITに対応すべく、発電契約対応(申込受付、契約管理、料金計算)の機能強化を実施している。

【図表:卒FIT対応で拡張した機能】

図表:卒FIT対応で拡張した機能

矢野経済研究所作成

■顧客との密なコミュニケーションを重視
Enabilityシリーズはクラウドサービスであるが、カスタマイズが可能であり、顧客のビジネスモデルに応じて個別対応していくケースが殆どである。このスタイルにおいては、Enabilityシリーズの仕様を細部まで熟知した上で、顧客と密にコミュニケーションを取りながら提案を行っていくことが肝要であり、チャネルは自ずと直販になる。自社顧客のリプレイス需要を手堅く抑えつつ、他社から乗り換えにも対応していくのが基本方針となる。

非化石証書の実証実験に携わってきたノウハウを活かす
再生可能エネルギー電源を中心として非化石証書を発行し、環境価値を取引する非化石価値取引市場が2018年5月に創設され、小売電気事業者は非化石証書を購入することにより、エネルギー供給構造高度化法に定められる非化石電源比率の目標達成に利用することができる。また、非化石証書を組み合わせた電気は、実質再エネ電気として需要家に販売することができる。更に、トラッキング付非化石証書を組み合わせた電気を小売電気事業者が販売し、需要家が購入した場合、RE100(事業運営に使う電気を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げるイニシアチブ)の取り組みにも活用できる。
日本ユニシスは経済産業省の委託を受け、このトラッキング付非化石証書の実証実験に2018年より携わっており、そのノウハウを何らかの形で活かしていきたいと考えている。CISの機能面での差別化が難しくなっている状況を踏まえ、その他の法改正にも他社に先んじて対応することにより、差別化を図っていきたいと考えている。

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坂田 康一

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坂田 康一(サカタ コウイチ) 専門研究員
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