矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.04.15

働き方改革最前線~ITベンダの先進事例4選~(後編)

2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、時間外労働の制限や年次有給休暇の取得など、各企業が法規制への対応に追われた。また、直近では新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、在宅勤務を実施する企業が増加している。世間ではテレワークが注目を集めており、働き方改革の取組みが加速する可能性も考えられる。

前編では、日本マイクロソフトとSCSKの取組みを紹介した。両社とも中長期的な取組みの中で制度を確立させ、社内での普及に努めてきた。後編では、TISとNTTデータの事例を紹介する。

TIS株式会社

TISでは、多様な人材が活躍できる企業風土の醸成や環境整備に取組むため、「多様な人材活躍」「働き方改革」「健康経営」を主軸にダイバーシティ&インクルージョンを推進している。場所や時間にとらわれず、自分に合った働き方を従業員一人ひとりが選択できるよう、テレワークやフレックスタイム制度の導入、フリーアドレスの構築など制度と設備の両面で環境を整備している。

■テレワークの取組み
2008年より、育児や介護を必要とする一部社員を対象に在宅勤務制度を導入した。その後、徐々に対象を拡大させ、現在では全社員を対象にテレワーク勤務制度を適用している。
営業部では以前より、顧客先にデバイスを持って行きそのまま働くモバイルワークが広がっており、テレワークポリシーガイドラインに沿った運用がなされていた。そうした中で、制度がわかりにくい状態になっていたため、実態に合わせて制度を一本化するよう整備を行い、現在の運用方法になった。
テレワークを実際に活用しているのは全社員のうち8割ほど。テレワークにより従業員の自由度が高まった一方、マネージャ視点では業務状況や勤怠面を管理しにくい点が課題として挙がってきている。また、テレワーク制度を確立しても現場ですぐに活用が進む訳ではなく、広く普及するには時間を要している。

■フリーアドレスの全社運用に向けた課題とは
現在、一部部署を対象に「グループアドレス」の名称でフリーアドレスを運用している。部署ごとに範囲が決まっており、フロアを超えて勤務することはない。
グループアドレスによりFace-to-Faceのコミュニケーションが当たり前ではなくなったことで、会議や打ち合わせの密度が濃くなったというメリットがある。Face-to-Face以外のコミュニケーションには社用iPhoneを活用し、メールやZoomを利用して連絡を取っている。

一方、全社でのフリーアドレス運用に向けて、(1)固定電話、(2)開発用ネットワーク回線(専用線)、(3)PCの3点が課題となっている。固定電話や有線のネットワークは場所を制約するため、フリーアドレスを阻害する要因の一つとなる。TISでは、グループ会社であるアグレックスのBPOを活用することで固定電話を廃止し、また、社内技術を活用してネットワークを無線化することで解決を図っている。ただ、PCは、テレワークやフリーアドレスを実施する上ではノートPCが適するものの、システム開発の環境としてスペックが不足する課題があるため、解決策を検討している状況である。

■2021年度の新拠点開設に向けて
新拠点ではABW(Activity-based working)のワークスタイルを導入すべく、様々なスペースの設置を検討している。
また、テレワークが普及する中で出社する目的を考えると、Face-to-Faceのコミュニケーションやコラボレーションが重要だという結論に至った。新拠点では、コミュニケーションが活発になるような動線の設定、部屋の配色、什器等の配置を検討している。

■目指すゴールはダイバーシティ&インクルージョン
TISでは、上記の他にも「勤務間インターバル制度」や「スマートワーク手当」など、多くの取組みを実施している。これら取組みの最終的な目的は、多様な人材が活躍できるダイバーシティ&インクルージョンの実現である。法規制等に追われるようにして「働き方改革」自体を目的とし、制度の見直しとITツールの導入がゴールになっている状況が散見される中、TISでは働き方改革を手段として従業員の労働環境を整備し、選択肢を増やすことで、多様な人材が活躍できる環境を構築している。

NTTデータ

NTTデータは、1988年の発足以来、フレックスタイム制度や介護休職、裁量労働制度など多様な人材が活躍できる環境の整備に取組んできた。近年では、総労働時間の削減や一人当たりの労働生産性向上など、働き方改革を通じた定量的な成果に目を向けて先進的な取組みを続けている。

■場所にとらわれない働き方のために
テレワークは2018年4月より全社員に適用、全社シンクライアント化は2012年より順次適用しており、社員が場所を問わず自由に働ける環境を整備している。
コミュニケーションツールではMicrosoft Teams等を活用し、Face-to-Face以外でも円滑なコミュニケーションが取れるように整備。また、モバイルアプリケーション管理サービスを活用することで、外出先でもメールチェックや予定表の確認、決済、資料の確認などがスマートフォンで実行できるようにしている。

■フリーアドレスの最適解とは?
「Sustainnovative Work Place」をコンセプトにし、袖机の廃止や個人ロッカーの設置、書庫の削減などを通じてフリーアドレスを運用できるオフィス環境を構築している。ただ、環境は整っていながら、フリーアドレスを適用するかどうかは各部署に委ねられている。フリーアドレスには、コラボレーションの促進やコミュニケーションの活発化といったメリットと、チームとしての結束しづらさ、在席確認の不便さといったデメリットの両面がある。各部署がフリーアドレスの最適解を試行錯誤した結果、グループアドレスの規模感に辿り着いた。特に開発部署では指揮命令系統が明確であるため、同じグループ内でフリーアドレスを適用することで、デメリットを最小限に抑えながらもメリットを生かせる取組みを実施できている。

■総労働時間の削減と生産性の向上
労働環境を整備するだけでなく、効果検証まで行っている点に同社の取組みの特徴がある。2018年度の一人当たりの労働生産性は、2013年度と比較して22%向上しており、2007年度に2,066時間だった一人当たりの総労働時間は、2018年度に1,889時間にまで削減している。こうした改善の背景として、労働環境の変革はもちろんのこと、業務へのRPAやAIの活用がある。ITベンダとして顧客にソリューションを提供しながらも、自社で活用することで定量的な成果をあげている。

※社員一人あたり労働生産性=売上高÷(一人あたり総労働時間×社員数)

■従業員が選択できる環境こそが働き方改革の本質
NTTデータでは、数々の取組みを経て従業員一人ひとりが自分に合った働き方を選べるようになっている。これまで日本では、決まった席で決まった時間に働くことがスタンダードとされてきた中で、NTTデータではテレワークやフリーアドレス、裁量労働制などを運用しながら働く場所、働く時間を多様化させてきた。その結果として、生産性の向上と総労働時間の削減を実現している。従業員一人ひとりが、自分に適した環境下で最も高い生産性を発揮できる状況こそが働き方改革で目指すべき姿の一つだろう。

働き方改革の先にあるものは?

TISとNTTデータの事例では、従業員の労働環境を整備することに主軸を置き、結果として働き方改革に繋がっている点が共通する。働き方改革に取組む企業の中には、目の前の課題に追われるあまり、ITソリューションの導入や残業時間の管理が目的となっている企業もある。しかし、働き方改革の本来の目的は、個々の事情に応じた多様な働き方を自分で選択できるようにし、従業員一人ひとりの生産性が向上することである。TISとNTTデータは、手段と目的を明確に設定し、目的に向けた手段を適切に講じている点に学ぶべきポイントがある。

また、近年の働き方改革を見ると、制度の制定により従業員の選択肢を狭め、ITソリューションの活用が結果として従業員の自由を制限している事例が散見される。従業員一人ひとりが自分に合った働き方を選択し、最も生産性が高い状態で働けることが働き方改革の目指すべきゴールである。働き方改革への取組みが急務とされる潮流の中で、各企業は一度自社の取組みを見つめ直し、施策の妥当性や働き方改革の最終的なゴールを検討する必要があるのではないだろうか。

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