2019年5月1日から、元号が令和となる。時の流れは連続したものであるはずなのに、不思議なもので、一つの区切りを実感させる。おそらく元号には、個人にも、社会にも、時代の終わりと始まりを告げる役割があるのだろう。
「平成の終わりを迎えて」として野間がアナリストオピニオンを書いている。そこにある通り、ITの観点では、平成はまさにネットの時代であった。Windows95の登場(1995年)は、企業や一般社会人にPCを普及させ、iPhone(2007年)の登場は、個人レベルにまで情報端末を行きわたらせた。まるで神経網が末端へと伸びていくように、インターネットの網はどこまでも長く伸びていく。
こうしたインターネットの発展をバックボーンとし、平成最後の10年間で起きたのが、クラウドコンピューティングの勃興だった。インターネットでつながり、クラウドに膨大なデータが蓄えられ、それはビッグデータとしての意味を持ち、いまではデータは価値を生む源泉、貴重な資源という扱いになっている。
そしてIoTとして、インターネットはモノにも触手を伸ばすと宣言され、データ量は無限に増殖していく。人では手に負えない量になったデータは、AIを進化させ、ついにはビッグデータとAIが雇用を奪うとまで言われるようになってしまった。
さらに将来、シンギュラリティを超え、AIが人を脅威に陥れるだろう・・・などとも言われるようになった。
平成の終わりに起きたこうした動きをみていると、まるで出来損ないのテレビドラマのようにも思える。「平成の世は、人を脅威に陥れるAIを作り出してしまいました。果たして人類はどうなるのでしょうか。続きは令和でお楽しみください。To be continued…」といったところだろうか。
続きの番組を楽しめるか否かは、令和の時代にいかに向き合うかにかかっている。しかし向き合うべきは、本当にAIなのであろうか。
今更述べるまでもないが、高齢化・人口減少は、令和が進むほど加速度的に進展する。
1世代=30年というが、30年後の令和31年(2049年)には、日本の人口は、1億人を割り込むと予測されている(国立社会保障・人口問題研究所資料、出生低位推計の場合)。2015年の人口が1億2,709万人だったので、1億人を割り込むとは、すなわち2,700万人が消失するということだ。
東京都の人口が約1,400万人なので、ざっと東京2つ分の人口が、30年で失われるイメージとなる。国でいえば、オーストラリアが2,500万人程度。それが30年間で消え去るわけだから、想像してみると背筋が凍る縮小スピードだ。
金融政策にともなう日本国債の発行残高も令和時代の重荷となる。政府の借金(国債残高(地方債含む))は既に1,000兆円をこえており、長期金利が上昇すると凄まじいインパクトを与え、税金は国債の利払いのみに費やされるようなことになるかもしれない。平成においては、幸い低金利が続いており問題とならなかったが、いつまで持ちこたえられるかは誰にも分からない。
そして、その対策として、未来投資戦略2018などが発表されているわけであるが、それらの資料を読むと、AI・ロボット・IoTで解決する、というような言葉がちりばめられている。矢野経済においてIT分野を担当しているものからすれば、期待が高いのはうれしいことではあるのだが、本当に、そんなことで解決するのだろうか。
人口減少も国債残高増加も、AIやロボット、IoTとは全く関係していない。つまるところ、政策のミスは政治家と選んだ国民のミスであり、分かっていた時代が、結局避けられずに来てしまった、というだけのことのようにも思える。
そして、AI・ロボット・IoTも、それを活かすのは人間であり、われわれ人間の意思決定なくして、未来を築くことはない。当然のことだが、日本の未来を決めるのは、今および過去の我々であり、令和の時代もそれは変わらない。変革が求められるのは、常に、人間なのである。
今後、確かにAI・ロボット・IoTは社会を変える原動力になるだろう。令和はそれらの機能が社会へと実装されていく時代となるのは間違いない。そのとき求められるのは、それらに変えられるのではなく、それらを使って変えようとする能動的な生き方なのだと思う。
あと数日を無事に生き抜くことができれば、私は昭和、平成、令和と生きることになる。令和生まれの新人が入社する頃には、さすがに引退しているだろうか。平成は昭和の遺産でどうにか遣り繰りした印象が強いが、平成を生きた者として、せめて令和時代の足を引っ張らぬよう、変革に対し挑戦者の気持ちで対峙していきたいものである。
(忌部佳史)
■アナリストオピニオン
●平成の終わりを迎えて
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