矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.07.18

楽しむニッチが、カメラ映像の未来を創る

日本人の生真面目さ、画像解析普及には逆風

5月に調査レポート「2013年度版 ネットワークカメラ/VCA画像解析システム市場-ビジュアル・コミュニケーション調査シリーズ-」を発刊した。ネットワークカメラ(=IPカメラ=デジタル監視カメラ)とはIP機能を内蔵し、アナログ監視カメラのようにパソコンに接続する必要なく、単独でインターネット網に接続して使用可能な監視カメラを指す。
既に先進国における監視カメラ市場にはアジアメーカーの低価格製品が参入してきている。したがって単純な価格競争になったのでは、人件費の高い日本メーカーはとてもかなわない。そこで何らかの付加価値により、価格以外のところで差別化しなければ世界で生き残れないという厳しい現実に直面しているのが日本の監視カメラ業界だ。

その次世代をになう付加価値として注目されているのが、VCA画像解析システム(VCA=Video Content Analysis=画像解析システム)である。同システムの機能はHDDに記録されたテラレベルの大容量カメラ映像の中から、必要な部分だけを瞬時に取り出して人間に見せることの出来る「映像検索エンジン」だ。
この機能により、監視員はこれまでのように何時間もビデオを見続ける必要はなく、立入り禁止エリアへの侵入者がありブザーが鳴った場合のみビデオを見ればよくなった。さらに進歩した画像解析アプリとしては、DBに登録されている犯罪者の顔と認識された場合のみ拡大映像が記録される顔認証がある。店舗内の男女・年齢層を踏まえた上で人の流れを解析する人流計測がある。駅のホームでもみ合う人間の動作からいち早く喧嘩を察知して駅員に伝える異常行動検知がある。FA製造ラインから大幅にはずれた場所を移動する工員を検知して無駄な動作をチェックする工場向け動線解析もある。このような多彩な画像解析システムが開発されてきた。

単なる監視カメラとしての需要ばかりでなく、店舗でのマーケティングとして、効率的な生産活動を推進させる目的として、カメラは進化してきた。こうしたVCA画像解析システムのニーズは、とりわけ米国で拡大している模様。「多少の誤認があっても全体的に役立てばいい」「面白い!」という米国人の大まかさや、面白がり具合が導入の追い風となっているという。
比べて日本ではなかなか売れない。どうやら日本人は完璧な「画像解析・画像認識技術」を生真面目に追求しすぎ、それが災いしているようだ。「少々でも誤認があるとダメ」「何か間違いがあってはいけないので使えない」ということで、導入が進まない。日本人の生真面目な気質は、自動車やデジカメ等の製品を高いレベルに押し上げるためには有意義だったが、画像解析システム普及のためには逆風となってしまった。

もうひとつの逆風「個人情報保護」

ここにきて監視カメラ普及において、「個人情報保護」というさらなる逆風が吹き始めている。カメラ映像はプライバシーを侵すもの。ましてや顔認証で個人が特定されてしまうのでは、自分の行動が全て筒抜けで、しかも記録されてしまう。もしも悪意のある第三者に利用されたらとんでもない、これはまさに「監視社会」ではないか…という考えかただ。
米国や英国では一方でプライバシー保護が叫ばれながらも、もう一方では「テロから市民を守る」という明確な目的があり、市民は「監視カメラにより守られている」と感じることができる。しかし社会的な安全度の高い日本では、カメラはひたすらプライバシーを侵すものとして見られがちだ。
小説や映画の世界では、国家がハイテクを駆使して市民を監視する際の象徴として「監視カメラ」が扱われるやすい。例えば小説では伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』やジョージ・オーウェル『1984年』。映画では『未来世紀ブラジル』や『トータル・リコール』といった具合だ。

将来、私達の暮らす世界が監視社会にならないよう個人情報保護を徹底させることは必要であると思う。しかし、それをこれ以上語るためには、法律や政治の世界にまで踏み込まねばならない。またその方向に進むことは筆者の素養を活かすものではない。市場調査会社の研究員である筆者は別の感じ方をしており、それを書いていこうと思う。

楽しむ先に見えてくる カメラ映像の可能性

筆者が感じたのは、「もっとカメラ映像を面白がっても良いのではないか。面白がる先に可能性が見えてくる」ということだ。
実は筆者は秋葉原駅のホームにて、顔認証機能を搭載した飲料自販機を使ったことがある。その自販機は正面に立った人間をカメラで画像解析し、男女・年齢層識別を行い、各層にフィットする飲料を正面に備え付けた大きな液晶に映してレコメンド(おススメ)するというシステムであった。筆者(当時53歳)が正面に立ってみると「リポビタンD」的お父さんガンバレ栄養ドリンク剤が映し出された。ところが同行していた後輩(当時31歳)が正面に立つと「コカコーラ・ゼロ」的スカッとさわやか清涼飲料が映し出されたではないか。「これはイカンな」と思い、自販機のカメラに向かい、さわやかに笑ってみせたり(本人談)体の向きをナナメにしたり色々工夫したのであったが、やはりレコメンドは栄養ドリンク剤のままだった。翌週に3.11東日本大震災があり、その後訪れた秋葉原駅のホームでは、同自販機は既に撤去されており、「電力消費量の多いものは撤去されるのだな・・・」と感じた次第である。非常にくやしい経験であったが、それはそれで最先端技術を身をもって体験できたためほぼ満足で楽しかったのを覚えている。

また毎年夏と冬に開催されている画像処理システム関連の展示会(「画像センシング展」「国際画像機器展」)も楽しいものである。この展示会では主にFA製造ラインで活用するカメラ、画像処理システム、照明などが展示される。200社近くある個々のブースの小間は小さいが、しかしそれぞれの展示に工夫がなされている。高速カメラにより走っている鉄道模型を美しい静止画に落とし込んだり、色とりどりのFA用照明がまばゆく輝いていたり、筆者は市場調査のために最新技術情報収集に出かけているにもかかわらず、いつの間にか初詣とか、祭りとか、「祭りの夜店」を歩いている気分で、次の路地を曲がると何が出てくるのか等と、つい子供のようにわくわくしてしまう。最先端の技術展示であるにもかかわらず、コンパニオンがほとんどいないにもかかわらず、素人にも楽しく感じられるのは、各社の技術にかける熱い思いが伝わってくるのと、カメラ画像・映像が人間に与えるインパクトが強烈だからであろう。またFA製造ラインで活用するカメラ画像システムは、「PETボトル製造用」とか「錠剤製造ロボット用」とか非常にニッチな市場に向けたカスタマイズ製品であるのだが、それゆえにユーザーの思いを徹底的に汲み取った製品の持つオリジナリティが楽しい。

ロボットといえば、ホンダ「ASIMO」も複数のカメラと画像処理システムを搭載している楽しいものだ。13年に実施された実証実験では、客に対して、ASIMO自身に備わっている機能を自ら説明。その際、ASIMOが質問を投げかけて客の挙手による返答を見て意向を推定したり、身振りを交えてわかりやすく解説をしたりするなど、人とASIMOがインタラクティブにやりとりできるようになった。また客の行動をネットワークを介してセンシングすることで、ASIMO自らが数十人の客の反応を瞬時に認識し、オペレーターが逐次指示することなく、判断を繰り返して説明の進行を自律的に行うことができる。エンタメ的な需要に応じた製品だが、こうした機能の随所にカメラ画像処理システム技術が生かされている。

高齢者向けにカメラ映像の可能性

ロボットといえば、高齢者向けの介護ロボットの中には、被介護者を抱きかかえ運ぶなどの物理的な支えだけではなく、カメラを内蔵しスマートフォンと無線LANでつないで高齢者のいる室内の様子を遠隔地に伝えることのできる見守りロボットがあり、ロボット介護機器の一つとして今後が期待されている。これからますます進む少子高齢化の中で、ロボット介護機器は、介護の現場における人手不足を緩和しながら、介護の満足度を上げていく役割を期待されている。経済産業省は、介護・福祉ロボットの市場規模を2015年は167億円、35年には4,000億円強に増えると推測している。

高齢者向けという意味では、リアルタイムなカメラ画像ではないかもしれないが、ホログラム映像による癒しの需要があるときく。ホログラムによる亡き妻の映像を見近かに置くことにより、独りになってしまった高齢な夫を精神的に癒すことができるかもしれないというものだ(これは逆効果の可能性も否定できないのだが…)。
これからの日本では高齢者も重要な労働力として期待されている。高齢者の労働力といえば、よく熟練技能が例に上げられるが、これからの高齢者はむしろ新しいものを創造していくかもしれない。高齢な将棋の棋士は体力が衰えたため長時間の対局には耐えられないが、局面の分析力においては若手をしのぐという話をよくきく。亡き妻のホログラム映像により癒された高齢者は何を生み出してくれるのであろうか。

逆に高齢者向けの自動車を考えると、そこには安全運転のためのカメラ画像処理システムが多数搭載されることは間違いない。クルマのフロント、リアばかりでなく、車室内向けにもカメラが搭載されるようになる。車室内向けカメラが高齢者ドライバの顔の表情、視線、まばたき、手の動き等を捉え、居眠りしそうならば大きなブザー音で覚醒させ、緊急の発作が生じたら安全に支障がないようにクルマを道路脇に停止させる。
たとえ80歳を超えていたとしても、高齢者夫婦だけの地方の家庭では買い物にも、病院にも、美容院にもクルマで行かねばならない(個人宅向けサービスを受ければ別だが)。高齢者向け自動車用のカメラ画像処理システム需要は間違いなく存在すると考えられる。

ネットで広がるか、小さなニッチ需要

もしも日本が高齢者向けカメラ画像需要を掘り起こせるようなシステムを開発できたなら、それは中国のように今後高齢化社会を迎えるはずの海外諸国に向けて輸出することが可能となるはずだ。
高齢者向けといっても多岐にわたるであろうが、そのニッチさゆえに、まだ高齢者社会に遠い米国の企業はなかなか手出しができないものと思われる。画像解析システムの導入が進む米国ではあるが、高齢者対策においては現実味を感じている日本にはかなうまい。FA製造ラインで活用するカメラ画像システムのように、ニッチな需要をひとつひとつ掘り起こしていくような細かいビジネスは、日本のほうが強いのではないか。
もっともインターネットの力をもってすれば、日本でのニッチ製品は、欧州における似たようなニッチ需要、アジアやアフリカの似たニッチ需要を掘り起こせる。それらを合計した市場はそこそこのボリュームに達するであろう。
かつて国内の巨人であったiモードは世界需要に受け入れられず日本国内だけで留まってしまった。だが国内ではニッチでも、世界市場には同じようなニッチが10倍、20倍いるかもしれず、うまくつながれば案外大規模になるのではと考えられる…というビジネスに発展していければ面白いのだが。

関連リンク

■レポートサマリ
世界のネットワークカメラ(IPカメラ)市場に関する調査結果 2013

関連マーケットレポート
森 健一郎(モリ ケンイチロウ) 主席研究員
市場の分析は、数字だけには留まりません。得られた数字の背景には、開発担当のパッションや、販売担当のため息、消費者の感覚の変化・・・など様々な人間くささがあります。こうした背景を踏まえたコメントを丹念に拾い、市場の将来像を予測分析していきたいと考えています。

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