まず想定されるのは、従来は目視や打音といった人手による監視/モニタリングが主体であった業務を代替することであろう。具体的ターゲットとしては、「橋梁、トンネル、上・下水道、鉄道、高速道路、ダム、建物ヘルスモニタリング」などの公共・社会インフラ分野で、その維持管理/モニタリング業務の省力化・省人化及び自動化・効率化が想定される。これらのターゲット分野では、維持管理/モニタリングに膨大なコスト(主に人件費)が掛かることから、設備投資後の業務効率化/コスト削減効果が期待されるWSN導入に対するハードルは低いと判断される。但し、既存の仕組みを代替する機能・性能(実効性)を担保することが必要条件となるほか、既設事業者の存在(既得権/雇用問題など)も考慮する必要がある。いずれにしても、‘状態監視’といった機能に関しては、WSNは大きな可能性を秘めていると評価できる。
ほかに導入効果が期待される分野としては、医療・健康/ヘルスケア、防犯・セキュリティ、防災、農業・畜産、自然・環境などの、‘広域監視’や‘検知・特定’‘多数の人/動物を対象としたデータ収集業務’などが想定される。
このように、現在ではかなり広範な領域においてWSNの導入が期待されており、日本においてもいくつかの実証実験やパイロットプロジェクトが稼動している。
ワイヤレスセンサーネットワーク(WSN)の導入で期待される効果をまとめると以下のようになる。
矢野経済研究所作製
ターゲット分野別にみたワイヤレスセンサーネットワーク(WSN)導入効果(予想される効果も含む)は下表の通り。
矢野経済研究所作製
注:予想される効果も含む
国家財政が逼迫する中、公共投資の抑制には社会インフラの長寿命化が必要不可欠である。例えば、ここ数年で多数の橋梁が同時期に劣化する危惧が指摘されている。具体的には2020~2030年にかけて、国内の主な橋梁のうち、半数以上が建設50年以上になると言われており、その更新(架け替え)や維持・管理コストは総額で150~200兆円との試算も出ている(単年ではなく、トータルでの更新及び維持・管理にかかる総費用)。
このように、現在のスキームによる公共インフラの維持・管理では膨大なコストが必要になると見られ、持続可能な社会を実現する上では、大幅な管理コストの低減が必要となる。この命題に対して、WSNは有効回答を示す可能性のある仕組みの一つであり、その意味からも公共インフラ分野での利活用は期待される。
こうして見ると、今後はワイヤレスセンサーネットワーク(WSN)が新たな社会インフラになってくるとも判断される。そしてWSNを基盤とした新たなサービスやビジネスの創出も期待される。
WSNの展望を行うと、当面は一次産業や公共インフラ/エネルギー管理、防災分野などを中心に浸透していくが、中・長期的には一般産業分野やヘルスケア/健康管理、さらにはパーソナル向けサービス/ビジネスにも拡大していくと予想する。
(早川泰弘)
■レポートサマリー
●社会インフラIT市場に関する調査を実施(2021年)
●社会インフラIT市場に関する調査を実施(2019年)
■アナリストオピニオン
■アナリストオピニオン
●2018年はIoT元年になるか?
●IoT社会はセンサーネットワークによって実現する
●センサーネットワークは社会インフラ化する
●ワイヤレスセンサーネットワークに対する考察
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