矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.04.10

情報システム子会社は「ソリューション提案力・コンサルティング力」を強化せよ!

企画プロセスへの参加が増えた情報システム子会社

2009年に著者が執筆した情報システム子会社に関するアナリストオピニオンで「情報システム子会社は、企画プロセスを強化せよ」と述べた。
今回、4年ぶりに情報システム子会社のレポートを作成したが、調査結果を見ると状況は4年前とは変化してきているようだ。

今回、情報システム子会社63社に対して、アンケートを実施した。同アンケートにおいて、「内販(親会社やグループ会社からのシステム業務受託)における企画プロセスにどの程度参加しているか」を質問したところ、「親会社の主導だが、自社メンバーも企画に参加」が50.8%で最も高い比率になった。次いで、「主に開発プロセス(設計・開発)から参加」が20.6%、「自社主導だが、親会社メンバーも企画に参加」が7.9%、「自社のメンバーだけで企画プロセスを遂行」が6.3%であった。

2009年調査に比較すると、情報システム子会社が企画プロセスに参加しているとした回答である「親会社主導だが、自社メンバーも企画に参加」の比率は4.6ポイント、「自社の主導だが、親会社メンバーも企画に参加」の比率は3.3ポイント、「自社のメンバーだけで企画プロセスを遂行」の比率は4.8ポイント、それぞれ増加した。
一方で、企画プロセスに参加しないとする回答である「主に開発プロセス(設計:開発)から参加」は22.5ポイント減少した。
これらの結果からは、情報システム子会社は以前よりも企画プロセスに参加するようになってきたことが伺われる。

【図表:情報システム子会社の企画プロセスの参加の程度について】
情報システム子会社の企画プロセスの参加の程度について

矢野経済研究所推計
注: 調査時期:2012年11月~2013年3月(2013年調査)、2008年12月~2009年1月(2009年調査)
注: 2013年調査の集計対象数は63社、2009年調査は65社、単数回答、いずれも不明を除く
注: 調査方法:郵送および電話によるアンケート調査を併用

親会社の主導である「親会社主導だが、自社メンバーも企画に参加」の回答が50%以上を占めているのは少々残念だが、情報システム子会社が企画プロセスに参加するようになってきたことは「情報システム子会社は企画プロセスに参加すべきだ」と述べてきた著者としては嬉しい限りである。
著者は、企画プロセスへの参加は情報システム子会社の経営戦略上非常に重要なものの一つと考えている。企画プロセスへの参加は、親会社情報を早期に取得できるようになるため、社内の人的リソースを効率的に配置することができ、営業効率を高めることが可能になる。前回のオピニオンでも述べた通り、実際に「営業利益率」と「企画プロセスへの参加の程度」の関係のアンケート結果では、企画プロセスに参加している情報システム子会社の方が参加していない情報システム子会社よりも営業利益率が高いという傾向が見られた。

また、内販における企画プロセスへの参加は、外販拡大を進める際に必要になる企画力・提案力を養う機会でもある。親会社が企画したものを開発しているだけでは、企画力・提案力が不足し、外販を拡大しようにも厳しい競争環境下で常にしのぎを削っている外部のIT事業者に勝つことは難しい。

外販へのリソースシフトが次のステージ

今回の調査では、情報システム子会社だけではなく、情報システム子会社にシステム業務を委託している親会社に対して、「情報システム子会社の現在の評価」を「1.コンサルティング力(ニーズの整理・把握等)」「2.ソリューション提案力(1.を踏まえた提案)」「3.技術力(実際の構築・運用等)」「4.サポート体制」「5.コスト」「6.対応のスピード」の6項目に分けて、質問した。
「大変満足」についてみると「サポ―ト体制」が26.8%となっており、「コスト」が16.4%、「技術力」と「対応スピード」が14.3%で続いている。サポート体制に対する評価が高かったのは、情報システム子会社が、親会社の業務を熟知しており痒いところに手が届く対応をできるためと推測する。
一方、「大変不満」の比率が最も大きくなったのは「対応のスピード」で3.6%、「コンサルティング力」が1.9%、「ソリューション提案力」が1.8%であった。情報システム子会社は親会社優先で動いているはずなので、「対応のスピード」への不満が高かったのは意外だったが、「大変不満」の比率が高くなった理由は、突発的な事象に対応できるだけのリソースやノウハウを持ち合わせていない情報システム子会社が存在しているためと推測する。
また、「大変不満」と「不満」を合計して考えると、比率が最も大きくなったのは「ソリューション提案力」の41.1%で、次に「コンサルティング力」が40.8%、「技術力」が26.8%と続いた。

【図表:親会社の情報システム子会社に対する評価】
親会社の情報システム子会社に対する評価

矢野経済研究所推計
注:調査時期:2012年11月~2013年3月
注:集計対象企業数は、コンサルティング力が54社、ソリューション提案力56社、技術力56社、サポート体制56社、コスト55社、対応のスピード56社、各項目ごとに単数回答、いずれも不明を除く
注:調査方法:郵送および電話によるアンケート調査を併用

「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」は企画プロセスにおいて必要となる能力である。先程見た結果では、情報システム子会社は企画プロセスに以前よりも参加するようになってきているという結果であったが、一方では、親会社からは、企画プロセスに必要な「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」への評価は高くないという結果になった。ここからは、情報システム子会社は、企画プロセスに参加するようにはなってきたものの、まだ「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」は養われていないことが伺われる。

もちろん「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」の2つを強化するのは、口で言う程簡単ではない。企画プロセスへの参加は自らの意志で親会社に働きかければ実現可能性は高いが、「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」は、強化しようと決めても、実践の中から学んでいかなければそう簡単に身に付くものではない。だからこそ、まずは内販において企画プロセスに参加して実践の中から学んでいかなければ、次の展開である外販市場では戦っていけないと述べてきた。
また、一方で、著者は、「外販に中途半端に取り組みどっちつかずの状態に陥るぐらいであれば、内販にリソースを集中させるべきだ」とも述べてきた。まずは内販における業務量などの処々の課題を解決し、余裕が出たリソースと蓄積したノウハウを活かして外販に取り組んでいく方がリソースの分散を防ぎながら効率的に事業を拡大していけると考えているためである。闇雲に外販拡大に取り組み中途半端な状態に陥っている情報システム子会社の話をこれまでに多く聞いたこともあり、このようなことを強調して述べてきた。
但し、これは、アーリーステージにいる情報システム子会社だけの話で、内販における処々の課題解決にある程度取り組んできた情報システム子会社は、いつまでも内販にリソースを集中させているのではなく、半ば強引にでも外販にリソースを割いていくべきだ、と一方では考えている。外販での提案経験は、例え受託に結び付かなったとしても、ノウハウは蓄積されていくはずであり、無駄にはならないだろう。内販の課題解決にある程度取り組んだ情報システム子会社は、内販に影響のない範囲で外販に向けた目標予算を設定し、それに合わせて外販へのリソース配分を増やしていくべきである。
外販に参入して経験を積めば、「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」が実践の中で磨かれ、親会社に対してもその能力を還元することができるようになってくるだろう。内販にリソースを集中させ、ある程度内販の課題解決が見えてきたところで、このステージに思い切って進んでいきたい。このステージに進むことができなければ、親会社に外部ノウハウを還元することができないため、親会社主導の状態から脱しきれず、「ソリューション提案力」や「コンサルティング力」の評価は低いままだろう。内販における課題解決にある程度取り組んできた情報システム子会社は外販へのリソース配分を増加させ、次のステージに進んでいくべきと考える。

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