矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2008.10.01

情報システム子会社の目指すべき経営戦略とは

情報システム子会社の変遷

1980年代に、グループ事業の多角化の一環として、情報システム子会社が数多く設立された。親会社のコアコンピタンスへの集中と子会社の外部での収益確保および専門家集団としての能力アップを期待された船出であった。1990年代に入ると、バブル景気の崩壊によって、親会社のリストラクチュアリング策が進められるようになる。親会社からコスト削減や短納期など無理難題を要求される一方で、同時に外販の展開による自立という、相反する要求を突きつけられる情報システム子会社が相次ぎ、厳しい経営を余儀なくされるケースが増加した。
2000年代になると、親会社でITアウトソーシングなどの外部リソースを利用する動きが活発化するとともに、SIベンダが情報システム子会社に対して資本参加するケースも増加し、情報システム子会社の存在意義が問われるようになった。

情報システム子会社の抱える課題

1990年代に情報システム子会社で発生したこうした課題は、現在もなお残っているといえるだろう。情報システム子会社の課題としては、表1の6つが挙げられる。さらにこの6つの課題をまとめると、(1)~(2)は「内販に関する課題」、(3)は「外販に関する課題」、(4)~(6)は、「企業体質の強化に関する課題」となる。

表:情報システム子会社の課題
表1 情報システム子会社の抱える6つの課題

図解:情報システム子会社の課題
図1 情報システム子会社の抱える課題

「内販に関する課題」とは、親会社との間における価格や業務量の調整が難しいという課題である。
親会社から受ける業務においては、優先的かつ臨機応変な対応が求められるにもかかわらず、価格の引き下げは継続的に求められ、対応に困っている情報システム子会社が多い。親会社がもっとも売上高の大きい顧客であると同時に、もっとも手の掛かる顧客となっているのだ。外販による自主独立を求められながらも、親会社への対応ばかりに追われるという矛盾が情報システム子会社のなかで発生している。

一方、親会社から見れば、情報システム子会社の設立目的のひとつに、自社のスリム化があったため、価格の引き下げを要請することも当然ではある。また資本を入れている子会社なのだから、業務に臨機応変に対応してもらおうと考えても何ら不思議ではない。
「外販に関する課題」とは、外販拡大を目指す上での障壁のことである。親会社業務に追われている情報システム子会社が、競合の多い一般市場でシェアを確保していくことは簡単ではない。親会社が企画・発注したものを請け負う場合と違い、外販では自ら顧客に提案し、受注を確保していかなければならないからである。

「企業体質の強化に関する課題」とは、企業の内部における課題のことである。情報システム子会社は、親会社が企画・発注した業務を請け負うことが多く、自ら企画・提案を行なう機会が少ないため、企画力の強化が課題のひとつとなっているケースが多い。また内販だけでは、技術の幅を広げにくい面があるため、技術力の強化も情報システム子会社の抱える課題のひとつといわれる。その他、親会社業務の比率が高いと、独立系のSIベンダと比較して扱う業務範囲が狭くなるため、自社の業務範囲に関心を持つ人材が少なく、人材の採用や定着に苦労するケースが多い。

課題の優先順位

これらの各課題の解決方法は、状況によって多様であるためここでは触れないが、これら3つの課題を取り組む上での優先順位を考えてみたい。理想をいえば、情報システム子会社はすべての課題に同時並行で取り組むべきである。それは、すべての課題が相互に関連しているため、同時に解決していくことで、相乗効果を発揮しながら経営を行なっていくことが可能となるからである。 

内販で培ったノウハウを外販で活用し、外販で培ったノウハウを内販に還元する。内販・外販のそれぞれで培ったノウハウの蓄積が企業体質を強化することになる。また、強化した企業体質で内販・外販に取り組んでいくことで実績アップに繋がる。このような好循環を生み出していくことが、情報システム子会社の経営を成功させる方法であると考えられる。
しかしながら、経営リソースには限界があるため、すべての課題に同時並行で取り組むことは、当然難しい場合もある。そのため、リソースに限界があると仮定した場合での、取組みへの優先順位を考えてみる。結論から書くと、優先順位の高い順番に以下のようになるといえるだろう。

1.「内販に関する課題」
2.「外販に関する課題」
3.「企業体質の強化に関する課題」

経営リソースに限界がある場合、まずは安定受注を確保できる親会社業務が優先されるべきであろう。親会社業務を確実に確保しながら「内販に関する課題」の解決を進めていくことで、まずは内販ビジネスの成功を目指す。これができれば、外販に取り組む余裕が生まれてくるとともに、内販で培った業務ノウハウを外販で活かすことができるようになろう。また内販でのノウハウを蓄積することで、企業体質の強化にも繋がってくる。

次に「外販に関する課題」に取り組むべきであると考える。情報システム子会社にとって、なれない外販の拡大は容易ではないため、安定受注を確保できる「内販に関する課題」よりは優先順位を下げるべきであろう。しかし、外販への取り組みは、長い目で見れば企画力・技術力の強化に結果的に繋がると考えられるため、取り組むべき優先度は低くない。

「企業体質の強化に関する課題」は優先順位としては最後となったが、それは内販・外販に優先して取り組んでノウハウを蓄積することで、企画力・技術力を強化していくことが可能になると考えたからだ。内販・外販ビジネスで成功すれば、企画力や技術力の向上はもちろん、採用強化やモチベーションアップによる定着率の向上など、人材確保における課題の解決にも結びつくと思われる。
とはいえ、情報サービス業は、人に依存する割合の高いビジネスであり、「企業体質の強化に関する課題」は、その取り組みそのものが、企業の方向性を左右する重要な課題でもある。社内ビジョンの設定や人事制度の改革など、意識して取り組まないと解決できない課題でもあり、決しておろそかにしてもいいという意味ではない。

上記はあくまでリソースに限界があると仮定して考えたものであり、それぞれを同時並行して解決していくことで、相乗効果を発揮させた経営を行なっていくことが望ましいことは前述した通りである。また、各課題の状況や各社の属している企業グループの状況などにより、注力すべき課題はもちろん違ってくるであろう。
ここであえて優先順位を付けてみたのは、近年、親会社が外部リソースの活用を積極化するなど、情報システム子会社の存在意義が改めて問われはじめたことで、自社の立ち位置を見失ってしまったケースが多いためである。内販に課題が山積した状態で、自主独立を求めて外販の拡大に取り組んだものの、それも順調ではないという状況に陥っている情報システム子会社は、もう一度自社の立ち位置を見直してみることが重要であろう。

情報システム子会社は、多様な課題を抱えているが、それらを一足飛びに解決できる方法は残念ながらない。本来の立ち位置をもう一度見直し、着実に各課題の解決を進めていくことが、もっとも確実でかつ効果的な戦略であると考える。情報システム子会社は、親会社という大口安定顧客を抱えた特殊な存在であり、そのメリットをうまく活用できるかどうかで、業績が大きく左右される。いい換えれば、着実に目の前の課題を解決し、前述したような相乗効果を発揮する好循環を生み出すことができれば、一般企業よりもよほど大きな飛躍を期待できる存在であるといえるだろう。

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