矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.12.14

改めて考えたい「組織」と「個人」との関係 ~カギを握る環境適応力~(前編)

早期離職問題にみる「組織」と「個人」との関係の変化

先日、現役の大学生とマーケティングに関するセッションを実施する機会があった。普段は接することの少ない学生たちと色々と意見交換できたことは貴重な機会であった。
セッションの内容もさることながら、特筆すべきは今回のセッションが、学生側からの申し入れによって実現したものである点である。このように学生が主体的に企業にアポイントをとって、セッション開催までをアレンジできるというのは、自身の学生時代と比較して、素晴らしい行動力であると感心しましたし、刺激も受けました。

しかしその一方で、若手社員の早期離職という問題を耳にする機会も増えている。
厚生労働省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」をみると、大学卒の3割以上が3年以内に離職している。それも以前は2割台だったものが2000年以降、その割合がコンスタントに35%前後で推移しており、かつ1年目での離職率の高さが目立っている。
離職理由は様々ではあるものの、他の機関などによるアンケート調査なども踏まえると、近年の特徴として、

「自分に合った仕事ができる会社に転じたい」
「自分の技能・能力が活かせる会社に転じたい」
「将来性の感じられる会社に転じたい」
 

などの離職理由が上位に挙がっている点が挙げられる。
背景には、転職サイトや人材紹介会社などの台頭による人材の流動性が高まっていることが挙げられよう。特に近年は、入社3年目までの人材を新卒入社組とほぼ同条件(ポテンシャルを重視)で行う「第二新卒採用」が一般化しており、より現実的に「転職を理由とした離職」を検討しやすい環境が整っていることも要因のひとつではあると考える。
しかしながら、上記はあくまで外部環境の変化に過ぎず、若年層の早期離職増加は「組織(企業)と個人(従業員)との関係性が変化している」ことを象徴している事象ではないかと考えている。

今回は、「組織と個人との関係の在り方」と「現代の組織と個人に求められる力」という切り口で少し検証していきたい。

「共通目的」と「貢献意欲」によって、組織と個人は結びつく

組織とその構成メンバーである個人との関係性を考えるフレームの代表として、「組織成立の3要素」が挙げられる。経営学者であるチェスター・バーナードが『新訳 経営者の役割』の中で、「協働する組織」が成立するためには、①共通目的、②貢献意欲、③コミュニケーションが必要だとしたものである。以下に簡単に説明する。

【組織成立の3要素】

①共通目的
公式な組織が成立するためには、構成メンバー間に共通目的が必要である。共通目的は、協働する目標でもあり、メンバー個人の目的とは必ずしも一致はしないが、少なくともメンバーの同意が得られていることを前提とする。具体的には「経営理念」「経営目標」「長期ビジョン」などであり、経営トップによる社員への説得、納得、理解への取り組みが必要となる。
②貢献意欲
貢献意欲(協働意欲)とは、個人の努力を組織が持っている共通目的の達成に寄与させようとする意欲であり、協働体系に貢献しようとする意欲のことをさす。わかりやすく言えば「モチベーション(動機づけ)」や「モラール(士気)」である。組織からの報酬や誘因(組織→個人)と個人が組織に対する貢献(個人→組織)との比較により、貢献意欲の大きさが決定されるとされる。
③コミュニケーション
組織内メンバー間における各種情報伝達の必要性を示している。組織が個人の活動の集まりである以上、それを全体として統合し調整するコミュニケーションがなければ、組織のまとまりが維持できないということである。コミュニケーションは「社員間」だけではなく「経営陣から社員に対するコミュニケーション」と捉えるべきである。

矢野経済研究所作成

以上のように、組織と個人は、共通目的と貢献意欲を共有することを前提とし、継続的なコミュニケーションを図ることを通じて「協働する関係」として結びついているのである。
これらの考えを、先の離職理由にあてはめて考えてみる。「将来性が感じられない」背景には、企業の将来ビジョンや経営理念などの共通目的が明確に伝わっていない、またはメンバーからの同意が得られていないことから「絵に描いた餅」になっているなどが考えられる。また、「自分に合った仕事ができる会社」および「自分の技能・能力が活かせる会社」を求める背景には、組織に対しての貢献意欲が醸成されていない、または十分に満たされていないことからモチベーションが低下していることなどが考えられる。

このように、若年層の早期離職の問題の根底には、組織の成立に不可欠である共通目的、貢献意欲、コミュニケーションを通じた両者の「結びつき」が希薄になっていることが影響していると考えられる。高度成長時代以降、長きに渡って組織と個人には「成長と豊かさの実現」という明確な「協働する意義」が存在していた。一方で、低成長時代に入った現代においては、年功序列や終身雇用の維持が困難になる中、組織と個人がお互いに「協働する意義」を感じにくくなっており、その結果として、共通目的と貢献意欲とのバランスが崩れてしまい、それを補うコミュニケーションも十分になされていないということが要因ではないかと考える。

不透明な時代と言われる今こそ、改めて「組織」と「個人」それぞれが、何を目指し、何を期待し、どのようにお互いに貢献できるのかを考えることで、「協働する意義」を見つめ直す時期に来ていると考えている。

不透明な時代を生き抜くには、環境適応力が必要

では次に、不透明な時代を生き残っていくためには、組織と個人にはそれぞれどのような能力が必要となるのかについて考えたい。
これまでの多くの日本企業は、年功序列・終身雇用を前提に「業務の標準化」を追及し、誰もが同じ品質で業務を遂行できる仕組みを構築することで、国際競争力を高めてきた。
しかし、近年、成果主義への移行が進展する中においては「コンピテンシー評価」が広まりつつある。コンピテンシーとは「好業績者の行動様式」などと訳される概念で、単純な業績数値などの成果だけで評価するのではなく、高い成果を「継続的に生み出せる行動や姿勢」までを評価対象とするものである。

それでは、現代において求められるコンピテンシーとはどのようなものかを考える時に、ダーウィンの言葉が用いられることが多い。
進化論を唱えたダーウィンは「生き残る種とは、最も強いものでもなければ、最も知的なものでもなく、最も変化に適応できる種である」と述べている。企業においては「ゴーイング コンサーン」が最大の使命であり、企業活動を継続し続けていく社会的責任があるとされる。かのドラッガーも著書『現代の経営』の中で「企業は、環境適応業である」とも記しており、環境の変化に対する「適応力」こそが、厳しい時代の変化の中で生き抜いていくための必須条件としている。
そう考えると、企業と協働する存在である個人においても、同様に「環境に適用する能力」をその根本に備えておくことが必要であり、常にその能力を磨き続けられることこそが重要なコンピテンシーであると考えられる。

そのような環境適応力を磨き続ける組織の在り方として、代表的な理論に「学習する組織」が挙げられる。この理論の概要とどのように取り込んでいくべきかについて、次回(後編)でお伝えしたい。

関連リンク

■同アナリストオピニオン
改めて考えたい「組織」と「個人」との関係 ~学習する組織とゲーミフィケーション(後編)

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