矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2019.10.16

AIにできない仕事⑱ AIは新たな異物との出会いを演出できない

AI(人工知能)がやがて人間の仕事の多くを代替していくって本当でしょうか。でも、AIにもできない仕事があるのでは? 

 

最近、町を歩いていて、すれ違う人と目を合わせないことが増えた気がします。スマホながら見歩きのせいでしょうか。リアル歩道を歩いていても、意識はバーチャルなスマホのモニタの中の世界に行ってしまっているのです。すれ違う人がどのような人物であっても興味はなく、スマホでの既知の人物との交歓、既知の知識の周辺データ収集にのみ心が向いているのでしょうか。 

 

スマホは人間から新たな異物との出会いの機会を奪ったといえます。テレビが中心の時代では、特に家族と一緒にお茶の間で見る時は、嫌いな番組でも家族の手前否応なしに見たので、自分の知らなかった世界(=異物)に触れる機会がありました。が、スマホを一人1台持つようになってからは、関連コンテンツばかりがレコメンドで送られてくるため、もともとあった自分の興味の世界の中だけで閉じてしまいがちになったのです。 

 

70年代、筆者が高校生の頃、すれ違いざま目が合うと「この野郎」ということで、ちょっと顔かせということで、ちょっと痛い思いをしたりしましたが、今はそんなことあるのでしょうか。男女の目が合った場合はまた違った意味になるのでしょうが・・。(イメージイラスト有り)

 

先月参加した日経XTECH主催「DTTF2019」におけるDENSO International America Inc.・鈴木万治氏のセミナーでスマホ位置情報アプリ「Zenly」の紹介がありました。友人や家族の今の位置が24時間リアルタイムで分かってしまうというアプリです。10代後半から25歳くらいまでのZ年代層ユーザに大人気だそうです。

(注;Z年代層とは1995年~2009年生まれの世代。日本ではゆとり・さとり世代とも呼ばれ、中学生の頃からソーシャルメディアに触れ、高校生の頃からスマートフォンを持つ)

 

このアプリを見ながら歩いていると、どこにいっても既知の人の情報だけが途切れなく入ってきます。どうやら現在のITは、既知の人、既存の知識に上乗せするものを倍増させる傾向が強く、逆に自分の知らなかった世界(=異物)に触れる傾向のアプリは少ないように感じます。

 

たしかに筆者も通常の生活では、既知の人、既存の知識に上乗せメディアの傾向が強い気がします。けれど、海外に行った時は別です。語学力の弱さ故、地図に載っていないところで道がわからなくなると、一番優しそうな人を見分けてつかまえて、今の場所と、これから行く場所について聞くのがいつものスタイル。その場合、当地の言語がわからなくても、相手の目を見つめて、答えているときの表情から推し量ったり、確信をもって答えているか、あいまいなまま答えているか、調子を合わせているだけか、第六感を思い切り働かせながらやりとりします。そうしたやり取りを通して、むしろ相手の国の人の印象や、日本人に対する思いや、様々なものが透けて見えてくる(様な気がする)のです。 

 

異文化との付き合いは、結局こういうシーンがおもしろいのではないかと思います。もしも既知の人物や知識のみを追いかける事だけが強調されると世界が小さくまとまってしまうのではないか…という気がします。

しかし、「Zenly」がこれからのマーケットの中核となるZ年代層ユーザに大人気なら、ベンダ側としてはここを攻めればいいのでしょう。

 

逆に目が合うと「この野郎」ということで、ちょっと顔かせということで、知らなかった世界(=異物)が動き出すようなアプリは本当にもうニーズが無いのでしょうか。 

 

AIにできない仕事のヒントは、この辺りにもあるかもしれません。(森健一郎)

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