矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2026.11.05

「時給400ドル、AIを教える専門家たちのアルバイト」

AIの学習を支える仕事に、高度な専門知識を持つ人材の参加が増えている。従来、AIの学習に使うデータの作成は、画像内の物体を分類したり、音声を書き起こしたりする比較的単純な作業が中心だった。しかし最近では、医療画像の読影や法律上の判断、高度な数学など、専門知識を要する業務へと対象が広がっている。Bloombergによると、AIの学習に携わるソフトウェアエンジニアには時給最大120ドル、一部の法律専門家には最大400ドルの報酬が提示されている。一方、従来の単純なデータ作業では低賃金や不安定な仕事の供給が続いており、同じAIデータ関連の労働市場でも報酬や就労環境に大きな差が生じている。
 
こうした変化は、AIの学習に使われるデータの性質とも関係している。インターネット上の膨大な情報を基に発展してきたAIモデルは、より専門的な問題に対応するため、各分野の専門家が持つ知識や経験も学習に取り入れるようになっている。例えば、医療画像から異常のある部分を特定するなどの作業には、専門的な判断が欠かせない。AIの高度化に伴い、学習データの量だけでなく、その内容を評価・検証する専門家の役割も重要になっている。
 
一方、専門家にとっては新たな収入の機会であると同時に、ジレンマでもある。一度限りの報酬を受け取って提供した成果が、AIモデルに活用され、長期的に経済的価値を生み出す可能性もある。また、個々の専門家が参加を断っても、別の専門家が同じ仕事を引き受けることは考えられるため、個人の選択だけで専門知識のAIへの活用を制御するのは難しい。ただし、AIがこうした知識を学習することが、その専門職の業務全体を代替できることを意味するわけではない。
 
根本的な悩みは、AIが専門職をどこまで代替するかという点に限らない。専門家の業務のうち、何をAIが学習できる形に標準化し、どのような判断を適切と認め、その基準を誰が決めるのかという問題もある。さらに、学習に参加した専門家とAI開発企業の間で、経済的価値がどのように配分されるかも関わってくる。こうした基準や報酬の仕組みについては、社会てな合意を通じ、専門職団体やAI企業、関連制度の間における調整が必要となる。AIの学習に必要な専門知識の確保や評価基準が重要な競争要素となれば、その基準を定め、活用できる主体とそうでない主体との間に、新たな格差が生じる可能性も考えられる。
 
参考:Bloomberg "Doctors and Lawyers Are Joining AI’s $400-an-Hour Gig Economy"

曺 銀瑚(ゾ ウノ) 研究員
AIが第4次産業革命を牽引すると言われています。その最前線で、日々膨大な情報と技術革新に直面している分野がまさにICT・金融です。このような急速に変化する時代の流れの中でも、揺らぐことなく成長し続けるビジネス洞察力を培えるよう、正確かつ鋭い知識情報を提供するパートナーとしてこれからも最善を尽くします。

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