2024年11月、戦争犯罪などを扱う国際刑事裁判所(ICC)は、ガザ地区での戦闘を巡り、民間人への食料供給の制限など、戦争犯罪と人道に対する犯罪の容疑を元に、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を発付した。米政府は、同盟国イスラエルの指導者への逮捕状発付に反発し、2025年8月、これに関与したフランス人判事ニコラ・ギユー氏を制裁対象に指定した。ところが、制裁の影響はギユー判事が暮らす欧州での日常生活にも及んだ。
まず、VisaやMastercardによるカード決済が利用できなくなった。Expediaを通じて予約したフランスのホテルからは、数時間後に予約取り消しの通知が届いた。Amazon、Airbnb、PayPalのアカウントも閉鎖され、米国企業ではない銀行でも一部の口座が閉鎖された。さらに、フランスの保険会社による医療費の払い戻しも停止された。なぜ米国の制裁が、欧州でのホテル予約や銀行取引にまで影響したのだろうか。
米国の制裁対象者に対しては、米国企業は原則として取引を行うことができない。しかし、欧州で利用されるサービスの多くも米国企業のシステムとつながっている。フランスには独自のカード決済網(CB)があるものの、実際に発行されるカードの多くはVisaやMastercardにも対応している。さらに、米国企業以外の事業者も、法的リスクを避けるために取引を制限する場合がある。こうした仕組みにより、米国の制裁は欧州域内の金融取引にも影響を及ぼす。
同様の依存関係は、業務用のデジタルサービスにもみられる。GoogleアカウントやMicrosoftの業務用ソフトウェア、米国企業のクラウドサービスが利用できなくなれば、個人だけでなく企業や公的機関の業務にも支障が生じかねない。実際、ICCも2025年10月、Microsoft Officeからドイツ製のオープンソースソフトウェア「openDesk」へ移行する計画を明らかにした。国際機関でも、米国企業の業務用ソフトウェアへの依存を見直す動きがある。
もちろん、当事例は特定の個人を対象としたものであり、欧州全体の金融・デジタルサービスが停止したわけではない。また、米国も欧州の技術やサプライチェーンに依存している。米国の半導体産業にはオランダのASMLが手掛ける先端製造装置が欠かせず、NokiaやEricssonなどの欧州企業も世界の通信インフラで重要な役割を担っている。双方の技術と市場が密接に結び付いているだけに、取引が制限されれば両者とも影響を受ける可能性がある。こうした相互依存関係の中で、欧州は従来の協力関係を維持しつつ、特定の国や企業への依存を減らすための対応を模索している。
参考:Financial Times "Life without US tech" 他
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