矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2026.10.23

「最後発のコード決済『teppay』、JR東日本は改札の外で勝てるか」

2026年10月20日、JR東日本はモバイルSuicaアプリにおいて、コード決済サービス「teppay(テッペイ)」の提供を開始した。モバイルSuicaの利用者はアプリを更新するだけで利用でき、新たなアプリの導入や登録が不要な点が特徴となっている。
 
最大の変更点は「2万円の壁」を超えた支払いが可能になる点である。これまでSuicaの残高は2万円が上限であったが、「teppay」では、マイナンバーカードで本人確認をすると残高から最大30万円までの支払いが可能となる。さらに、JR東日本グループのクレジットカード「ビューカード」を連携すれば、カードの利用限度額まで支払える仕組みも提供する。これにより、これまでSuicaでは困難であった高額決済にも対応している。
また、個人間送金にも対応し、受け取った残高はモバイルSuicaへチャージして、鉄道運賃の支払いや定期券購入などに活用できる。2027年春には、モバイルPASMOへのサービス展開も予定しており、異なるアプリ間での送金にも対応する。
 
市場の状況を見ると、JR東日本がコード決済市場に参入した理由が窺える。モバイルSuicaの発行枚数は2026年10月時点で4,500万枚を超え、「移動・少額決済のデバイス」として確かな地位を築いている。他方、経済産業省が発表した2025年のキャッシュレス決済による決済額162.7兆円のうち、交通系を含む電子マネーによる決済額は6.0兆円となっており、コード決済(16.6兆円)に大きく差をつけられている。「teppay」は、この状況に対するJR東日本の打開策と言える。
 
一方で課題も多い。コード決済市場において先行するPayPayなどは、すでに多くの人の日常の支払いに定着している。「teppay」はそこに最後発として加わる立場で、シェアの獲得は容易ではない。また、サービス開始直後には、SNSで「ビューカードの登録でエラーが出た」「アプリの起動から支払い画面までが遅い」といった声も投稿された。JR東日本は11月4日から、20%ポイント還元などの大規模なキャンペーンを実施予定としているが、キャンペーンで集めた利用者を定着させられるかは、UI/UXの改善をはじめとした使い勝手の向上にかかっている。
 
今後のシェア獲得の鍵は、「日常的なユーザー接点」にあるだろう。4,500万枚超が発行されているモバイルSuicaの利用者には通勤・通学で毎日アプリを開く習慣があり、さらにPASMOへの展開が実現されれば、首都圏の交通利用者の多くを取り込める可能性がある。このユーザー接点をいかに日常生活まで拡大し、移動と消費のシームレスな接続を実現できるかが重要になると考える。

都築 励(ツヅキ レイ) 研究員
ICT・金融分野は技術革新と規制の変化が絶えず、常に新しい可能性と課題が生まれる領域と感じています。調査を通じて最新かつ信頼性の高い情報を提供し、皆さまのビジネスにおける意思決定や課題解決をご支援できるよう、精進して参ります。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422