矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2026.07.30

「銀閣寺の拝観料支払いがキャッシュレス対応、今後の市場では『業界固有の価値観』への適応が鍵に」

2026年7月25日、キャッシュレス決済サービスを展開するバリューデザインは、京都仏教会と共同開発した寺院・神社専用決済サービス「おまいりPay」が拝観料の支払いに対応し、京都の東山慈照寺(銀閣寺)での運用を開始したと発表した(取扱い決済手段は、Visa、Mastercard、JCB、American Express、DinersClubブランドのクレジットカード)。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000510.000004318.html
 
訪日外国人旅行者の増加に伴い、寺院・神社でもキャッシュレス決済に対するニーズは高まっている。人気の観光寺院では、拝観受付に多くの来訪者が集中するため、現金の受け渡しや釣り銭の用意、売上集計などが業務上の負担となる。キャッシュレス化は、拝観者の利便性を高めるだけでなく、受付時間の短縮、混雑緩和、現金管理に伴う作業やリスクの軽減にもつながることが期待される。
 
また、今回の取り組みで注目すべき点は、一般的な決済サービスをそのまま導入するのではなく、宗教法人特有の考え方や運営実態に合わせて仕組みを設計したことにある。「おまいりPay」では、寺院・神社での決済を一般の商用決済と分ける「聖俗の分離」を掲げている。加えて、各寺院・神社の個別名称を決済事業者へ開示しないことで「信教の自由」に配慮するほか、加盟先や利用額を限定し、過大な決済の抑止を図るとしている。
 
近年は宗教以外に、医療、教育、福祉といった領域でもキャッシュレス化が徐々に進んでいるが、これらの利用者の属性や行動に関する情報が機微性を持つ分野では、利便性だけでなく、プライバシーや制度、業界固有の価値観を踏まえた仕組みが求められる。汎用的なサービスでは導入が進みにくかった領域に対し、業界特化型の決済基盤を提供することは、今後のキャッシュレス市場における有力な方向性のひとつと言えるのではないだろうか。

都築 励(ツヅキ レイ) 研究員
ICT・金融分野は技術革新と規制の変化が絶えず、常に新しい可能性と課題が生まれる領域と感じています。調査を通じて最新かつ信頼性の高い情報を提供し、皆さまのビジネスにおける意思決定や課題解決をご支援できるよう、精進して参ります。

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