矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2025.11.18

「JPXのAWS活用 金融業に求められるレジリエンスの獲得」

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は2025年11月5日、日本の金融商品市場の国際競争力強化に向けた取り組みに関する説明会を開催した。米AWSからはグローバル金融事業統括責任者のスコット・マリンズ氏が来日し、グローバルでの先進事例を踏まえ、金融業のミッションクリティカルなシステムをAWS上で稼働させる信頼性や拡張性の高さを強調した。

また、日本取引所グループ(JPX)の常務執行役CIO田倉聡史氏が登壇し、AWSを活用した事業改革やAWSとの連携について説明した。JPXは長期ビジョン「Target2030」で、「グローバルな総合金融・情報プラットフォーム」になることを掲げ、現在はAIやクラウド等の技術による改革に取り組んでいる。その一環として、データ利活用基盤であるデータレイク「J-LAKE」をAWS上に整備し、株式売買システム「arrowhead」やデリバティブ売買システム「J-GATE」等の取引所が擁する多様なシステムのデータを統合する計画を進めるという。さらに、CCoE(Cloud Center of Excellence)の活動基盤として、JPXが定めるガバナンスやセキュリティ、監査などの統制要件を組み込んだ「J-WS(AWS共通基盤)」を構築した。これにより、各業務部門はJPXの統制に準拠した基盤を迅速に利用でき、本来注力すべき業務内容や機能の検討に集中することが可能となった。

JPXがAWSとの連携で特に重視したのは、レジリエンスと説明責任の確保である。金融市場インフラとして、万一インシデントが発生した際には、金融庁や市場利用者に対して詳細な事象報告が求められる。しかし、ブラックボックスとなりがちなクラウドでは、開示可能な情報とJPXが必要とする情報の間にギャップが存在した。そこで両社は情報開示の範囲や要件について協議を重ね、サポートレベルの規定や米国本社とのコンセンサスを得る等、レジリエンス・説明責任の確保に取り組んだ。その結果、JPXはミッションクリティカルシステムの一つであるTDnetをAWS上で構築する道筋が立ち、2027年度にはフルクラウドでの稼働を予定するに至った。今後も、J-LAKEに広範なデータを集約して社内外のデータ利活用を促進していくとしている。

 

今回のAWSとJPXの取り組みは、金融インフラに求められる厳しい要件と向き合い、クラウドがその信頼性に応えられることを改めて証明したものと言える。金融業界は規制対応や新規参入など環境変化が激しく、既存のシステム維持にIT投資を費やすだけでは競争力を失ってしまう。そのため、最新技術を迅速かつ柔軟に活用する土台としてクラウドは不可欠である。今後の金融業界でプレゼンスを発揮するためには、ミッションクリティカル領域でのクラウド活用に伴う課題と正面から向き合う覚悟が求められる。(宮村 優作

宮村 優作(ミヤムラ ユウサク) 研究員
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