矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2025.11.04

【今週の"ひらめき"視点】待ったなし。疲弊する地方公共交通網の再構築を

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。

 

10月27日、JR東日本は平均通過人員が1日あたり2000人に満たない“ご利用の少ない線区”の経営情報を開示した。対象となった36路線71区間の収支はすべてが赤字であり、総額は789億円に達する。コロナ禍後の移動需要の戻りやインバウンド効果もあって24区間で改善が見られたものの、54区間で営業費用に対する収入比率が10%を下回った。

航空業界も国内路線は実質赤字状態だ。燃料費、資材の高騰、新幹線やLCCとの競合、利益率の高いビジネス客の減少が収益を圧迫、国際線の利益でこれを補う。路線バス会社の経営も深刻だ。コスト高と運転士不足を背景に2023年度には総延長2496㎞ものバス路線が廃止に追い込まれた(2025年版交通政策白書)。道路、橋梁の老朽化も進む。離島振興法の対象となる254の離島と本土を結ぶ286の定期航路(2022年4月時点)の苦境は言わずもがなである。

採算のとれない地方の公共交通はどうあるべきか。長年この問題に取り組んできた両備グループ(岡山)を率いる小嶋 光信氏は、“補助金に依存しない欧州型の公設民営化が有効”と訴える。この4月、滋賀県の近江鉄道は上下分離方式による公有民営方式の鉄道として新たなスタートを切った。存続ありき、廃止ありきではない。鉄道、バス、BRT(Bus Rapid Transit)、LRT(Light Rail Transit)、それぞれについて費用便益分析を行った結果である。10月1日には両備グループ傘下の両備バスの2路線の公設民営化も実現した。市民、行政、事業者が一体となった取り組みを応援したい。

さて、JR東日本が“ご利用の少ない線区”の経営情報を発表する意図はどこにあるのか。同社は「地域の方々にご理解いただき、建設的な議論を進めるため」と説明する。とは言え、“モビリティと生活ソリューションの二軸によるヒト起点のライフスタイル・トランスフォーメーション”を掲げる同社の経営ビジョン「勇翔2034」のトップメッセージに「地方」というワードは見当たらない。20の赤字路線を7つの黒字路線で支えることで岡山県内の路線バス網を維持し続けてきた小嶋氏の覚悟と凄みは感じられない。公共交通は文字通り公共財であり、社会資本である。地方の縮小が急速に進む今、一企業、一業種、一自治体を越えた次元で国土の未来を構想し、国全体のシステムとして公共交通ネットワークを再設計する必要がある。JRグループこそ、その主役であって欲しい。


今週の“ひらめき”視点 10.26 – 10.30
代表取締役社長 水越 孝

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