矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2025.09.22

【今週の"ひらめき"視点】上場会社の非公開化、経営陣は一般株主に対して誠実であれ

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。

 

9月16日、芝浦電子は台湾の電子部品メーカー国巨(ヤゲオ)によるTOBへの“賛同”を表明した。当初、芝浦電子はヤゲオからのTOB提案を拒否、ヤゲオは“同意なき買収”に踏み切る。これに対してミネベアミツミが友好的買収者(ホワイトナイト)として名乗りをあげ買収合戦となる。しかし、ミネベアミツミへの応募は設定したTOB成立の下限50.01%に届かず撤退、ヤゲオはもう1つのハードルであった外為法もクリア済みだ。ヤゲオのTOB期限は10月3日、芝浦電子はヤゲオ傘下となり、上場廃止となる公算が高い。

今年は年初から春先にかけて牧野フライス製作所に対するニデックによる“同意なき買収”の成否が注目を集めた。牧野フライスは買収防衛策の発動とアジア系投資ファンドをホワイトナイトとして擁立、なんとかニデックから逃げ切ることに成功した。これまでホワイトナイト側が負けた事例は記憶にない。それだけに芝浦電子を巡る攻防でのミネベアミツミの敗退は上場会社に対するM&Aの在り方に一石を投じたと言っていいだろう。

昨年は94社の社名が東京証券取引所のリストから消えた。ここ数年、株式の非公開化が止まらない。目立つのはMBOだ。上場維持コストの増加や“物言う株主”からのプレッシャーなど上場ゆえの負担と制約から逃れ、経営の自由度を取り戻したいとの経営陣の思惑がある。ただ、株価算定においてはそもそも利益相反の懸念が残る。7月、東証はMBOや支配株主による完全子会社化等に関する上場規定を改正、一般の投資家や少数株主に不利益が生じないよう公正な手続きと合理的な株価算定を義務付けた。

12日、旧村上ファンド系の投資ファンドはソフト99コーポレーションのMBOによるTOB価格が「PBR1倍を下回っており少数株主の利益を損なう」として対抗TOBの実施を発表した。12月からはトヨタグループの再編も始まる。狙いはグループ各社の大株主である豊田自動織機の非公開化だ。TOBの実施主体はグループ15社を株主に持つトヨタ不動産、豊田章男氏、トヨタ自動車が設立するSPCであり、形を変えた“持ち合いの強化”との批判も燻る。いずれにせよ利益相反を伴うM&Aにおける手続きの透明性と株価の公正性はこれまで以上に厳しく問われるはずだ。言い換えれば、日本の上場会社も既にグローバルM&A市場の只中にあって、もはや身内に閉じた助け合いは通用しないということである。

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代表取締役社長 水越 孝

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