矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2025.06.24

「Q-STARとPlug and Playの量子スタートアップ向けアクセラレータープログラム、一部支援に疑問あり」

一般社団法人量子技術による新産業創出協議会(略称Q-STAR、会員数:114社)とPlug and Play Japanは、日本国内の量子技術に関連するスタートアップ育成を目的とした新たなアクセラレータープログラムを共同で開始すると発表した。
両者は、量子分野のエコシステム強化すべく、国内外の量子スタートアップ向けに資金調達や事業開発、パートナー連携の面から事業拡大支援を実施。また、スタートアップの成長に必要なVCとの接点やQ-STARの会員である大手企業とのビジネスマッチング等を通じて、量子関連スタートアップの成長を後押しするとしている。

https://qstar.jp/archives/7403
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本リリースに触れる前に簡単に現状を振り返っておこう。現在、量子コンピュータ領域は、ハードウェアについて、超電導やイオントラップ、中性子をはじめ、さまざまな方式間で開発競争真っ只中。使い手であるユーザー企業による活用事例として、直近では2025年3月にコーセーがFTQC(Fault-Tolerant Quantum Computer)と思われる量子コンピュータを活用しクレンジング美容液を発売するなどの事例はあるものの、大半はPoCに留まる。
他方、ソフトウェア面では、ハードウェアの方向性が不透明である以上、量子化学や量子金融、量子機械学習をはじめ、量子コンピュータを活用したソフトウェアの開発は進みずらく、一部の企業を除き日本に限らずグローバルでも量子ソフトウェアに関するスタートアップの動きは鈍いのが実情だ。

さて、本リリースについて、評価したい点と疑問符が残る点がある。まず評価したい点として、資金調達がある。先述したように不透明な状況を量子コンピュータ関連のスタートアップが勝ち残る上では、研究開発に際して莫大な調達が必要となる。
資金調達を巡っては、日本において技術評価できるVCは非常に限られており、政府や研究機関と連携したQ-STARのような存在がVCと連携し資金調達を担うことが期待される点で本取り組みを評価したい。

次に、気になる点として事業開発に係る支援がある。ハードウェアの方向性が不透明である以上、ユーザー企業側としてはPoCに留めるのが通常であり、まだまだ多くの企業は量子コンピュータの使い道について考えあぐねているのが実態であろう。ユーザー企業の足が重い状況において、実効性のある事業開発支援ができるかは疑問符が残る。
そうした意味では、個人的にはスタートアップの資金調達支援と併せて、「そもそもどのような業務において量子コンピュータが利用できるのか」を含めた利用環境づくりを進めていく必要があるとみる。例えば、環境構築に向けてQ-STAR内でのアイデアソンやハッカソンなど、ユーザー企業における活用探索に向けた取り組みも並行して実施し、本リリースにあるビジネスマッチングに繋げていくといった事業開発支援が必要ではないだろうか。(
山口 泰裕)

山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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