2025年3月、大日本印刷、日本加除出版、Hexabaseは、自治体窓口を三次元仮想空間で再現したメタバース役所において、AI相談員が住民の悩みに応える実証実験を実施した。期間中に105名が来場し、計75件の相談が寄せられた。調査では約85%がAIとの対話を自然と評価し、約65%が心理的負担の軽減を感じた。AI相談員は家庭・離婚分野を強みにしていたが、今後は対象領域を拡大し、幅広い生活課題へ対応する方針である。また、複雑な案件では内容をAIが職員へ引き継ぎ、人とAIの"ハイブリッド"な運用の実現を目指す。
https://www.dnp.co.jp/news/detail/20176724_1587.html
自治体職員の減少は深刻な課題になっている。そうした中でも現状のサービスを維持・向上させていくためにはデジタルの活用は必須になっている。国も自治体に対して窓口DXの推進を促しており、徐々にデジタル化が進んできている。申請書類の記載をなくす「書かない」、オンライン申請で完結する「行かない」、予約やキャッシュレスによる「待たせない」、案内を分かりやすくする「迷わせない」がキーワードになっている。本実証実験は住民からの相談をAIが仮想空間上で対応するという内容になっており、これらのキーワードを実現する方法になっている。
こうした利便性という点以外にもAI相談員の価値はあると考えている。AIが一次対応を担うことで相談の敷居が下がる場合があるのではないか。例えば、職員に直接打ち明けにくいプライベートな悩みでも、まずAIに相談できれば心理的負担を軽減しやすいということもあるだろう。
また、アンケートではAIカウンセラーによる空間内での相談はどう感じたかという設問を設けている。最も多い回答だったのが「実際のカウンセリングルームのような心地よさを感じた」(40%)だった。これも興味深い点である。相談だけならばチャットで十分だと思っていたが、メタバース上で実施することが利用者の安心感を高める役割を担っているようだ。これはメタバースの強みであり、将来的には内容に応じて空間や相談員のアバターを変化させることで、より相談しやすい環境を提供することも可能だろう。
職員減少が加速している現在、こうした先端技術を活用して住民サービスを向上させることが不可欠になっている。しかし、活用すればよいというものではなく、職員負担の軽減も併せて検討しなければならない。本リリースでも今後の展開として職員への相談内容の引き継ぎについて言及されている。窓口業務において住民から聞き取った内容をデジタル化しても、支援を開始するために職員が別のツールに入力し直していては負担が増えるばかりである。自治体DXではフロントヤードからバックヤードまで一貫したデジタル化という点もポイントになっていく。
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