矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2025.05.19

【今週の”ひらめき”視点】知財の黒字幅、前年割れ。知財で稼ぐ未来の実現に向けて基盤研究の強化を

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。

5月12日、財務省が2024年度の国際収支状況の速報を発表した。モノの輸出額から輸入額を引いた貿易収支は4兆480億円の赤字、サービス収支は2兆5767億円の赤字、配当や利子所得など海外との投資取引を示す第1次所得は41兆7114億円の黒字、経常収支の総計は30兆3771億円(前年度比116.1%)の黒字となり、昨年に続き過去最大を更新した。

経常収支の押上要因の1つが円安を背景としたインバウンドである。39百万人(前年度比134.7%)に迫る訪日外国人旅行者からの“受取”は8兆8805億円、一方、その1/3に留まる出国者による“支払”は2兆1940億円、結果、旅行収支の収支尻は対前年度比158%、6兆6864億円の黒字となり、サービス収支の赤字幅の縮小に貢献した。まさに“観光で稼ぐ日本”の姿が見えてくる。円安は海外直接投資からの収益増にも貢献、第1次所得収支の黒字は4年連続で拡大、41兆7114億円となった。こちらも“海外で稼ぐ日本”が数字に反映されている。

経常収支から読み取れるトレンドは肌感覚で感じる日本経済の構造変化そのままである。ただ、気になる点もある。コロナ禍の2020年、当社は上場会社の経営企画担当者に向けて「アフターコロナにおける日本経済の成長ビジョン」を問うアンケートを実施した。そこで支持された日本の将来像は“研究開発型の科学技術立国”であり“文化、コンテンツ、ソフト立国”である。つまり、“知財で稼ぐ日本”が日本の目指すべき未来となる。ところが、知的財産権等使用料の受取は7兆9495億円、収支は3兆3739億円といずれも“旅行”の数値を下回るとともに、収支は前年を割り込んだ(前年度比97.6%)。

2024年3月、科学技術振興機構(JST)は日本の研究力の低下を警告した緊急シンポジウムを開催した。会議は「論文数は多いが“トップ10%被引用論文数”が少ない」という事実から出発、「論文引用率の低さは特許と相関する」として、「研究テーマそのものが遅れている」と結論づける。そのうえで「基盤研究における競争的資金への極端な偏りが問題であり、海外の大学並みに競争的資金の5倍程度の公的資金による経常的な研究費の予算化が必要である」と提言した。インバウンドへの過度な依存を押さえ、自立した未来を築くためにも基盤研究に対する国レベルにおける投資の在り方を早急に見直す必要がある。


今週の“ひらめき”視点 5.4 – 5.15
代表取締役社長 水越 孝

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