矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

2025.05.22

量子コンピュータ時代に備え、安全かつ高速な電子署名技術が登場(NTT)

日本電信電話株式会社(NTT)は、スイスETH Zurich、米UC Berkeley、フィンランドAalto University、イタリアBocconi University、米JPMorgan社との共同研究により、わずか2ラウンドの通信で複数関係者による署名を安全に実現する世界初の耐量子閾値署名(しきい値署名、threshold signature)方式「Ringtail」を開発した。本技術は、管理者が一人である場合に起こりうる「単一障害点リスク」の排除や、電子投票システム、政府機関における行政サービス、企業システム・財務管理、暗号資産ウォレット、分散型金融(DeFi)、分散型自律組織(DAO)など、次世代Web3.0インフラにおける中核的なセキュリティソリューションとなることが期待される。

 

耐量子(Post-Quantum)とは、今後迫りくる量子コンピュータのアルゴリズムによって解読されないように設計された暗号アルゴリズム的特性を指す。量子コンピュータは、現在の公開鍵暗号方式を従来の古典的アルゴリズムと比べ高速で解読できるため、これに対抗可能な新たな暗号技術が数学的な安全性を担保する形で設計されている。(曺 銀瑚)

 

暗号インフラは一度導入されると後から変更することが極めて困難なため、量子コンピュータの実用化を見据えた事前対策が不可欠である。特に企業や政府システム、金融産業における重要機能を担う閾値署名においては、分散環境と多数承認の要件を満たす必要があり、2ラウンドで高効率・高安全性を実現する「Ringtail」技術の登場は注視すべきだ。

 

従来のシステムでは、単一管理者が全権を握る電子署名方式が持つ限界が指摘されてきた。承認システムの分散化、暗号資産ウォレットにおける単一鍵の分散管理や盗難対策といったニーズに応える手法が閾値署名だ。閾値署名では秘密鍵を複数に分割し、あらかじめ定めた数以上の協力があって初めて有効な署名が生成される仕組みである。

 

今回、NTTが開発したRingtail技術は ▲高い安全性:将来の量子コンピュータによる攻撃に対する耐性を確保 ▲効率性:署名プロセスにおいて関係者間の通信を2ラウンドで完結させて応答遅延を克服し、通信量を最小化することで実用的な速度を確保 ▲グローバル実証:アジア・欧州・北米・南米・オセアニアの5大陸にまたがる環境における署名生成を実証し、分散環境下における高い実用性を確認した。

 

本次世代分散署名技術は多人数承認を必要とするあらゆるセキュリティシステムや、脱中央集権型Web3.0インフラへ適用できると見込まれる。なお、単なる暗号化手段にとどまらず、ネットワークアーキテクチャ全体の信頼性を根本から強化する分散型暗号技術サービスとして、行政・金融・ブロックチェーン分野における基盤インフラとして活躍することが期待される。(曺 銀瑚)

 

https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/05/12/250512a.html

 

曺 銀瑚(ゾ ウノ) 研究員
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