今年2月初旬、アジア取材を終え日本への帰路につく中シンガポール空港で、チェックイン後にコートをホテルに忘れたことに気づいた。ホテルに戻るわけにもいかず、帰国後に送り返してもらうしかない。その時ふとホテルのテレビで「東京は3センチの積雪で明け方は氷点下の寒さです」とやっていたのを思い出し、30度のアジアからコート無しで羽田空港に降り立つと凍えるのではないかと不安になった。(写真はイメージ)
海外で不安になった時は日本人に話しかけるに限る。たまたま近くでにぎやかに話していた30代の若者(60歳の筆者から見れば若者)と、なぜか高齢の画家がいたため、話しかけてみた。どうやら若者は人材コンサルタントでありASEAN各国の日本企業に現地人材活用ノウハウをコンサルしてきた帰りらしい。高齢の画家はお腹がすいてカップヌードルを購入したもののお湯が無いので困り、カップヌードルを食べられないことの悲しみを、若者に切々と訴えかけていた。若者は画家のためにお湯を探して空港内を聞きまわっていたがやはりお湯はなく自分のお土産のなかから何やらクッキーを取り出し画家に与えていた。
若者は憤っていた。「お湯の設備がないのにカップヌードルを売るとはけしからん。この空港は何を考えているのだ!」。コート無しで不安になり既に自分のことしか考えられなくなっていた筆者からすれば、他人のことで怒ったりできるなんてすごい!という感じ。思い切ってコートを忘れてきたことを話してみると、わざわざスマホでチェックして「現在の東京の気温は●度で雪がつもっておりコートなしでは無理ですよ。空港内マップではユニクロがあるからで何か買ったほうがいい。」とのこと。筆者は早速防寒パーカーを購入した。
若者を見ていると、周囲にいる人々全体を俯瞰し、憑依するかのようにひとりひとりの気持ちを感じ取り、何が問題なのかを考え、自分に何ができるかを提示していた。それは人材コンサルタントという職業により鍛えられた脳の運動神経とでもいったものかもしれない。おそらく人材コンサル業においても、彼はこのように多くの人々から頼られているのであろう。
AIは膨大な量のDBから、人間よりもすぐれた解決策を提示することが可能だ。しかし、他人のために憤ったり、他人の悲しみを聞き癒したり、コートを忘れた筆者のためにユニクロに行けと勧めたり、それ以前に、不安だった筆者が思わず話しかけてしまうような雰囲気をかもしだしたり・・・というのはできないのではないか。
以前から「サービス産業におけるフェイストゥフェイスの接客業はAIに変わられにくい」と言われていたが、その意味を実感できた。AIにできない仕事のヒントはこの辺りにもあるかもしれません。
(森 健一郎)
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