株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、国内の APN(オール光ネットワーク)市場を調査し、将来展望を明らかにした。ここでは、APNの3つの普及シナリオについて、公表する。
【図表:APN普及シナリオ】
APN(All Photonics Network:オール光ネットワーク)は、光電変換を極力なくすことで、大容量・低消費電力・低遅延な情報伝送を実現しようとする技術コンセプトである。政府は、APNを今後増大が見込まれる大容量のデータを低消費電力・低遅延で伝送させるための基幹的なインフラとして位置付けており、今後、Society 5.0に向けた我が国の社会を支える基盤になることが期待されている。
本調査では、横軸に時間軸、縦軸にAPN拠点設置数を置いたイメージ図を作成し、3つのAPN普及シナリオを作成した。
シナリオ①(低位予測)は、ハイパースケーラー等大手データセンター事業者を中心とした普及に留まるシナリオである。現在、生成AIへの旺盛な需要により、ハイパースケーラーと呼ばれる大規模クラウドサービス運営事業者において、APNは活用され始めている。今後は、ワット・ビット連携といった動きもあり、APNはデータセンター間を繋ぐ通信回線として導入されていくと想定できるが、シナリオ①では拠点数の広がりは一定規模にとどまる見通しとなる。
シナリオ②(中位予測)は、モバイルフロントホールや通信キャリアの拠点等に実装されるシナリオである。まず、APNの共通基盤技術が開発されれば、複数の通信キャリア間をシームレスにつなぐ光回線ネットワークが構築できるようになる。また、APNは5G回線基地局等のモバイルフロントホール(アンテナ部と制御装置を結ぶ光回線)へ展開していく見込みで、順調にいけば通信キャリアの局舎等全国的に普及していくものと想定される。しかし、このシナリオでは、主に通信キャリア自身のインフラとして活用され、一般企業や一般消費者にとって、APNは間接的な利用にとどまる見通しとなる。
シナリオ③(高位予測)は、一般企業におけるサービス需要が喚起され、APN機器の標準化・小型化・低廉化につながり、広く普及につながるシナリオである。シナリオ③では、APNのトランシーバーを収容したマイクロデータセンターなどが街中に整備され、一般企業等にもAPN拠点が設置されていく。全国にAPN拠点が整備されれば、拠点付近のIoT端末(例えば自動車等)から送信される大容量データをクラウドに送り、クラウド上でAIが解析し、IoT端末へ戻すといったことが実現できる。シナリオ③が実現していくことで、Society 5.0が目指すインテリジェンスな社会が成立していくものと考える。
■APNの普及には、ユースケースを見出すことが重要
広く普及することが期待されるAPN(オール光ネットワーク)であるが、その普及動向を決定づけるのはユースケース(Use Case)の発掘というのが業界関係者の一致した意見である。
現在、ユースケース確立に向けた取組みは通信キャリア主導で行われているものの、回線を利用する一般企業など多くのユーザー企業では、大容量・低消費電力・低遅延な通信回線を利用したビジネスイメージはほとんど検討されていない。
APNは普及に向けた初期段階の技術コンセプトとはいえ、既に商品化されている。今後の社会変化に備え、多くの一般企業においても、来るべき未来を想定した事業イメージを検討すべき時期にきていると考える。
■NTTドコモビジネス株式会社
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調査対象:通信キャリア、光伝送装置等関係企業など
調査期間:2025年6月~9月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
※APNとは:APN(All Photonics Network:オール光ネットワーク)とは、有線ネットワークや情報通信装置・デバイスに光電融合技術を活用し、通信網の全てにおいて電気信号と光信号との変換を極力なくすことで、大容量・低消費電力・低遅延な情報伝送を実現しようとする技術コンセプトである。
APNは段階的に開発が進められている技術であり、既に一部では商用化されている。政府は、APNを今後増大が見込まれる大容量のデータを低消費電力・低遅延で伝送させるための基幹的なインフラとして位置付けている。
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