矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.08.07

スマホ&クラウド連携で、乗用車テレマティクスは一段上のステージに

スマホとクラウド普及が変えるテレマティクス

国内のテレマティクスサービスは大きな変革の時期を迎えている。これまでのテレマティクスサービスは、トヨタ「G-BOOK」のように、各OEM(=自動車メーカ。Original Equipment Manufacture)の閉じられたネットワーク内で行なわれてきたが、今後はこれの一部をオープンなネットワーク上でやろうとしている。それはスマートフォンの車載利用が始まること、外部のサーバと車載機を連携させるためのクラウド環境が整備されてきたこと、の2つの変化による。

スマートフォンの場合、アップルの「アップストア」やグーグルの「グーグルプレイ」といった2大OSベンダの配信プラットフォーム上でほとんどのコンテンツが供給される。この2つの配信プラットフォームに向けて世界中から新しいアプリが集まってくるため、スマートフォンの車載利用が進めば、これまでの自動車業界では考えられないような斬新なビジネスが誕生する可能性が高い。

特に2012年に入り、これまで車載アプリに対して口を閉ざしていたスマートフォンやIT業界のプレーヤ達が、自社の「車載戦略」を発表するようになってきた。たとえば12年6月にアップルは、次期スマートフォン用OS「iOS6」において、OS内部に地図機能を付加したことを発表している。こうした動きは、自動車業界側からすれば「テレマティクスサービス市場への挑戦状をたたきつけてきたもの」と考えられる。地図機能をもつ「iOS6」搭載のスマホを車内で利用すればカーナビやPNDといった車載機にたよらなくてもナビアプリを活用できるためだ。スマートフォン/IT業界のプレーヤにとって、「自動車」というプラットフォームは、非常に魅力的に感じられたのであろうか。PC、携帯電話、ゲーム、TVに続く重要分野に位置づけられた印象だ。

OEMと車載機メーカも変革の道を模索

こうしたスマートフォンやIT業界のプレーヤ達からの挑戦状を受けて、まずOEMが、むしろこの変化を積極的に取り入れようと図っている。SNS事業者や情報提供系のクラウドサービス事業者と協業しながら、ユーザに解放されたクラウドサービス基盤を利用して、OEM独自のテレマティクスを展開しようとしている。トヨタ自動車におけるマイクロソフト、セールスフォース・ドットコムとの提携がこれに該当する。

下記の図は、OEM(自動車業界のプレーヤ)とスマートフォンやIT業界のプレーヤとの関係性を図示したものである。乗用車向けテレマティクスサービス市場においては競合関係にある両者だが、その一方でクラウドシステムの構築&運営、SNSの構築&運営については提携関係にある。こうした矛盾した関係性を、有効に活用すべく動き出したことこそが、OEMにおける変革といえるのではないか。

【乗用車向けテレマティクスをめぐる2業界の関係図】
【乗用車向けテレマティクスをめぐる2業界の関係図】

矢野経済研究所作製

変革を模索しているのはOEMばかりではない。車載機メーカも変革の道を模索している。これまで車載機メーカは、自社で苦心の末開発・製造したハードウェアにサービスを付加して販売することで、直接の対価を得ていた。たとえばパイオニアの「ドライブレポート」のようなものである。ところがスマートフォンとクラウドサービスの普及によってテレマティクスサービス市場の性格が、直接の対価を求める有料市場から、間接的な収益構造を持つオープンな市場に変わってしまった。つまりGoogleの場合のように、広告で利益を得ればいいので、直接的にハードウェアやサービスでの利益追求は行なわないという収益構造である。サービスでは低価格もしくは無料コンテンツがはびこるようになってしまった。アップルの場合はハードウェアでも利益追求するのであろうが・・・。

既にハードウェアでは中国にお株を奪われていたが、サービスでも米国発の無料コンテンツ提供に席巻されたことになってしまうのであろうか。もはや「直接の対価を求める有料市場」というビジネスモデルをかかげたままの企業は「市場から退場を迫られそうな状況」であり、各社ともかなりの危機感を抱いているらしい。だが、全ての企業が広告で利益を得るということは可能なのであろうか。そもそもGoogleはいつまでも広告による収益モデルで巨体を維持していけるのであろうか。

車載機メーカは、危機感をつのらせ、新たなサービスのキャッチアップを図ろうと、2010年頃から対応を始めている。最初の命題はスマートフォンの取り込みで、大手車載機メーカのほとんどは、自社ブランドのスマホアプリを発売するところまでこぎつけた。次の命題は車載機を「カーナビからいかにテレマティクスシステムに変えていくか」である。テレマティクスシステムの場合は、ハードウェアだけでなく、サービスをも含めてのものとなる。

米国で先行する「スマホ⇔車載機連携システム」

スマートフォンとクラウドにより市場構造が変革してきているのは日本市場ばかりではない。スマートフォンは世界中で急速に普及している。世界の携帯電話出荷数に占めるスマートフォンの比率も急速に高まっており、2012年には45%を超えるものとみられる。

それに比べると、これまでの乗用車向けテレマティクスサービスの、世界的な普及率はまだ稼動車両全体の1割に達していない。それに比べると、スマートフォンの普及は非常に早い。こうした中で「スマートフォンを車内に持ち込み、そのアプリを車内で利用できるようにすれば、テレマティクスサービス市場は急激に拡大し、新たなビジネスモデルを構築できるようになる」と考える企業が世界中に現れた。

まずスマートフォンのアプリを車内で利用すべく、「スマートフォン⇔車載機連携」が動き出した。「スマートフォン⇔車載機連携」により、普段使っているスマートフォンを車と接続し、クルマの中でも最新のスマホアプリを利用することができる。

トヨタ自動車の米国での「スマートフォン⇔車載機連携」サービス「TOYOTA Entune」では、スマートフォンの音楽配信、店舗案内、エンタメ案内などのアプリを、インパネのタッチパネル上で利用することができる。これならば運転しながらでも、画面が大きいしタッチパネル操作だから安全性は確保される。

こうした「スマートフォン⇔車載機連携」サービスでは、スマホの母国である米国が先行している。フォードの「MyFord Touch」、GM「IntelliLink」、トヨタ自動車「TOYOTA Entune」、パイオニアの「AppRadio」等の連携サービスがある。今後は欧州でも、ノキアが主導してきたスマートフォン⇔車載機連携規格「MirrorLink」に対応した車載端末が市場投入されていく。BMWは「ConnectedDrive」を出してきた。また2012年に入って日本国内でも、スマートフォンに連携したカーナビやDA(ディスプレイオーディオ)が市場投入されてきた。

スマートフォンと車載機とがデータ通信されれば、車内にいながらにしてSNS仲間との情報交換ができる。2011年、トヨタは「トヨタフレンド」と称して、車がツイッターでつぶやくというのを大々的に宣伝した。

一段上のステージに上がるテレマティクスサービス

前述したように、今後はクルマの運転をしながら、SNS仲間との情報交換ができるようになっていく。だが、このSNS情報はドライバだけが有効活用するわけではない。クルマに集まる大量のSNS情報(顧客の声)は、ドライバが活用する一方で、サービスベンダ側のセンターサーバに集まってくる。するとその大量の顧客データ(顧客の声)に顧客の購入記録、位置情報記録、走行記録などの情報を多様に組み合わせて解析することにより、これまで把握できなかった情報を抽出したり、トレンドを予測したりと、ICT技術を駆使して新たな価値を創出できるようになるのだという。

解析結果は例えば企業にとって次期製品開発のための重要な情報になりうる。また営業支援のための貴重な顧客情報となりうる。いわゆるビッグデータといわれているビジネスモデルが創出されるわけだ。その一方で顧客情報取得の是非は更なる議論の必要があるが・・・。

このようにスマートフォンと車載機との連携により、自動車とクラウドとが融合していくことは、多くの可能性と将来性を秘めている。今後「スマートフォン⇔車載機連携」によるテレマティクスサービスの動きはますます活発化するであろう。そうした流れの中で、乗用車における車載機はさらにIT端末化していく。

さらに車載機と連携しているスマートフォンとその先につながるクラウドシステムにより、クルマを降りてからもまったく同じアプリケーションを利用できるため、電車やバス、徒歩などの移動手段をも含んでの移動計画を立てることも可能となっていく。

これまでのOEMによるテレマティクスサービスが車載機を中心とした「乗用車のためのテレマティクス実現」であったのに対して、スマートフォン&クラウドとの連携によるテレマティクスサービスは、乗用車ばかりでなく、電車やバス、徒歩などの移動手段をも含む「シームレスな交通社会実現」に向かっているといえるのではないか。

スマホ&クラウドと車載機(乗用車)との連携により、テレマティクスサービスはもう一段上のステージに上がることになる。

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森 健一郎(モリ ケンイチロウ) 主席研究員
市場の分析は、数字だけには留まりません。得られた数字の背景には、開発担当のパッションや、販売担当のため息、消費者の感覚の変化・・・など様々な人間くささがあります。こうした背景を踏まえたコメントを丹念に拾い、市場の将来像を予測分析していきたいと考えています。

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