矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.07.12

“売れない時代”に求められるマーケティング活動の視点とは

売れていた時代のマーケティング

我が国が、「低成長時代」や「モノが売れない時代」といわれて久しい。
経済の低迷、少子高齢化の進展、震災以降の節約志向の高まり、流通環境の変化など、その理由を探すことはそう難しくはない。
しかしここでは、「モノが売れない時代」に事業者はどのようにマーケティング活動を展開していけば良いのかという視点で話しを進めていきたい。

まず初めに「モノが売れていた」とされる時代における事業者のマーケティング活動から遡ってみる。
昭和30年代からの高度経済成長期には、「マスマーケティング」が主流であった。当時は、需要が供給量を圧倒的に上回っていたため、事業者側ではいかに商品を効率よく大量に生産し、市場に投入するかが最優先であった。つまり、とにかく「モノは作れば売れる」という時代であったゆえに、市場ニーズを「画一的なもの」として捉え、さらに販売チャネルの系列化により販売力を徹底的に強化することで「モノを売ってきた」時代であった。
その後、バブルが崩壊し、経済成長の鈍化に伴い、事業者は生産志向や販売志向であったマスマーケティングから、消費者ニーズに着目した顧客志向に基づく市場へのアプローチへの転換を余儀なくされた。つまり、縮小傾向に入った市場への対応として、そのニーズ及び欲求を明らかにし、適切な商品開発を行い、その価格を決定し、流通経路を検討し、効果的な販売促進を行う「ターゲットマーケティング」が主流となったのである。ターゲットマーケティングでは、市場ニーズを「多様なもの」として捉え、市場全体を細かく区分し、その中からターゲット(標的市場)を絞り、自社の製品をその標的市場特有のニーズに適合するように位置づけていくというプロセスを踏む。この3つのプロセスは「セグメンテーション(市場細分化)」、「ターゲティング(標的市場の選択)」、「ポジショニング(商品など提供する価値)」というフレームに分類され、その頭文字をとって「STPマーケティング」とも呼ばれる。

以上のように、モノが絶対的に不足し「圧倒的な市場ニーズ」が存在していた時代にはマスマーケティング、また多くの消費者のモノへの欲求が充たされた後、「多様化する市場ニーズ」への対応が求められた時代にはターゲットマーケティングという手法を通じて、事業者は「モノを売ってきた」ことがわかる。
ここで注目すべきなのは、モノが売れていた時代には、「画一的」であれ「多様」であれ、事業者から確認できる「市場ニーズの存在」があった上で適切なマーケティングマネジメントを展開することができていたという点である。

売れない時代のマーケティングは「ニーズ探索」から「ニーズ創出」へ

さて、モノが売れなくなったとされる現在には、果たしてどのようなマーケティングが有効なのであろうか。
かのスティーヴ・ジョブズの言葉を借りれば、現在は

  • 『消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。』
  • 『製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからない。』

という時代であり、もはや顧客(のニーズ)を追いかけているだけでは、「売れるモノ」を生み出すことは困難であり、顧客の先回りをしてニーズを創り出すような「イノベーション」の重要性を示している。
ただ、ここでのイノベーションは、革新的な技術や画期的な発明のことを指すものではなく、現時点ではまだユーザ自身でもニーズとして表せていないが、意識の中には確実に存在しているような欲求を「発見・開発」していくという視点にたった企業活動であると捉えるべきであり、その意味では、新たな顧客創造に向けての「マーケティングプロセスの一部」として考えるべきであろう。ドラッカーも「マーケティング」と「イノベーション」を顧客創造に不可欠な企業機能の両輪として位置づけており、事業拡大に向けては双方のバランスをとることの必要性を指摘している。

「モノが売れない」と嘆いている事業者においては、改めてマーケティング現場を見直して欲しい。旧態依然として「モノが売れていた時代」と同じような発想からのマーケティング活動から抜け出せていないことは無いだろうか。
一刻も早く「自分たちが気づいていないニーズを提供してくれること」を求めている市場の変化に気づき、「どこかにあるニーズの探索」だけに全精力を傾ける活動から「市場のニーズを創り出す」視点に立ったマーケティングへの転換が必要であると考える。
モノが売れない時代とは言え、そんな中でも売れているモノは数多く存在しているのである。

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422