矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2008.09.30

期待される国内通信事業者と機器メーカーの国際化への再挑戦

総務省総合通信基盤局改組にみる日本の通信事業の行方

2008年7月に、通信事業を管轄する総務省総合通信基盤局の体制が大きく変わった。新設の「情報通信国際戦略局」、通信事業者を管轄する「総合通信基盤局」、一部組織・名称変更した「情報流通行政局」の3局体制となった。
新設の「情報通信国際戦略局」は,旧総合通信基盤局の国際関連業務や現・情報通信政策局の一部を引き継ぎ、国際競争力の強化などに向けた施策のほか、通信・放送の融合法制への対応などを担うことを目的としている。これに伴い、「現・情報通信政策局」と「郵政行政局」をあわせてせて改組したのが「情報流通行政局」である。
変更のポイントは、(1)日本国内の通信と放送の融合を見据えた整備、(2)国内通信産業の競争環境整備、(3)日本の通信事業者および関連機器事業者における国際競争力向上を目指したところにある。

先を行き過ぎた国内通信事業者と関連機器メーカー

こうしたなかで、私が注目しているのは(3)「国際競争力向上」だ。日本の通信産業において、世界に誇ることができるモノといえば、FTTHサービスのカバー率の高さと低価格サービスの提供、そして、3Gをはじめとした携帯インフラ、技術の先進性などが挙げられる。とくに携帯電話では、世界一の「ワイヤレスブロードバンド」を実現した国である(携帯電話やPCでMbpsクラスのサービスを広域にサービス提供している国はないだろう)。

にもかかわらず、ワールドワイドでは、携帯電話端末、基地局などの関連機器メーカーは、海外勢に追いやられているのが現状だ。これについては、通信事業者、携帯電話端末メーカーの読み違いもあったと思う。「高機能なサービス・端末であれば、ワールドワイドでも差別化・成長ができるはずだ」と。
当初、日本国内の携帯電話事業においては、世界に先駆け「第3世代(3G)」とわれる2方式(W-CDMAおよびCDMA2000)を採用し、商用化した。世界もこれに追随し、日本が携帯電話市場のリーダーになるともくろんでいた。ところが、一部を除き、各国の通信事業者はGSMをはじめとした「2G」 から「3G」への移転計画を相次いで遅らせた。

こうしたなかで、すでに、「3.9G」や「4G」といわれる「WiMAX」や「LTE(Long Time Evolution)」の構想が発表され、2010年にも採用が始まるといわれている。
3Gを積極的に進めた国内通信事業者と、これに対応した設備機器、端末を製造したメーカーは、「ガラパゴス」と揶揄された独自の進化から、再び新たな挑戦に臨まなくてはならなくなってしまった。

「3歩先」か「半歩先」かの選択

以下、「歴史は過去の過ちを学ぶためにある」と教えられた私なりに解釈したいと思う。
3Gの取り組みは決して無駄ではないと思う。ただ、先走りすぎた結果、そこに誰もついてこなかった、というあまりにも寂しい結果となった。「3歩先」のテクノロジーを掲げ、「デファクトスタンダード」の獲得を目指すリーダーとなるのであれば、標準化団体への幹部登用や世界各国の通信事業者との交流などの、 積極的な対応が必要だ(何歩先かは別として)。一方で、逆に「半歩先」を目指しつつ、標準化が見えた時点で圧倒的なリソースを割いて展開するという、かつ て日本のお家芸といわれた「モノマネ」戦略もあり得る。
現状、どちらがいいというわけではないと思うが、重要なのは「どっちでするのか?」を決めること、そして「だめならすぐに方針転換をする」ということだろ う。インターネットの普及で、あらゆるスピードが上がっている。国内労働人口も減少傾向にあるなかで、従来のように、国内という狭いエリアだけで、すべてのことを行なうという環境にはない。

携帯設備・端末メーカーはワールドワイド対応に待ったなし

日本国内では、いわゆる「ナンバーポータビリティ(MNP)」で、国内端末の需要が増加すると思われたが、「割賦販売」の開始により、弊社では、国内携帯端末需要数は5,000万台だったものが4,000万台を下ると見ている。
とある行政主催の通信の国際競争力強化に関する委員会での話。この委員会には通信事業者と関連機器メーカーの幹部クラスが出席していた。しかし、発言するのは通信事業者ばかりで、メーカーの方は、発言はするものの、(通信事業者に気を遣ってか)一般論に終始していたとのこと。

多品種・少量生産の端末作り、頑丈で故障が少ない設備機器といった強みは、十分に世界でも戦っていけると思う。ただ、いつまでも、国内通信事業者に気を遣っているようでは、吸収合併などの憂き目にあわないとも限らない。すでに、関連機器メーカーのなかには、ワールドワイドで戦う準備を始めているところも ある。
総務省の改組でもあったように、「国内競争環境の整備」を行なった結果、通信事業者は過度に国内のみに神経を尖らせるようになってしまった。そして、通信事業者に頭が上がらなかった関連機器メーカーは、結果として「ガラパゴス」に陥ってしまったのだ。また、国内競争環境は整備されたものの、NTTグループ への制約が、逆に国際競争力を弱体化させたとの見方も出ている。

このような「国内競争環境の整備」と「国際間競争力の確保」という、一見相反する内容を、国策としてどのようにバランスを取っていくかが、今後さらに重要になる。また、その一方で、ワールドワイドでの展開を「リスタート」する通信事業者と関連機器メーカーの今後の活躍にも大いに期待するところである。

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