矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2011.06.06

震災復興

課題は濃霧の中に

東日本大震災から2ヶ月が経過した。被災地では未だ避難所生活が続くなど大変な状況に変わりないと思うが、私が生活する東京では、計画停電も収まり電車は動き、停止していたエスカレーターも少しずつ動き出しているし、体感できる地震もだいぶ少なくなってきた。節電で街が暗くなっているものの、おおむね平常通りになってきている印象だ。
しかし個人的にはいまひとつ落ち着いた感じがしない。その理由は、ひとつは未だ継続する福島第一原子力発電所の問題、もうひとつは先行きの不透明感にあるのだと思う。
原発問題については、普通に生活しているとさして何も感じないのだが、インターネットで少し検索すると、これが未だ緊急性の高い危険性を孕んでいることがよく分かる。被曝による健康被害、年間20mSVの是非、再臨界の危険性、原発を巡る利権構造・・・などなど、挙げだすときりがないほどだ。しかも出てくる内容は黒く・重く・どんよりとして、復興に向けた意欲を萎えさせる、妙な空気感を持っている。

我々の立場では、主に経済的課題(それもITに特化して)が考えるべきメインテーマとなるわけだが、現在は極めて不透明な状況にある。いや、これまでも日本経済は不透明であった。リーマンショックによる景気悪化を底に回復機運が感じられる一方で、待ったなしの財政問題を抱え、いつ悪化へ転じてもおかしくないような状況にあり、個人的には強い懸念を感じていた。
その重要度は今も変わっていない(実際はより悪くなっているのだが)のだが、そうしたものを濃霧で多い隠すほどのインパクトが3.11の東日本大震災であり、原発事故であった。ただでさえ視界が悪いところに覆いかぶさった濃霧は、市場の先を見通すことを一層困難にした。いまは誰もが一寸先もみえないような環境にあるのだろう。目の前のものに目を凝らすので精一杯という感じだ。
別の見方をすれば、本来しっかりと見つめなければいけない課題を見失い、目先の大きな課題に目を奪われているということなのだろう。ひとつずつ片付けて、軌道修正していかなければと感じている。

意外に強いか -国内IT投資動向

矢野経済研究所では、災害対策ソリューションに関するレポートを作成している。アンケート調査とベンダー調査とでベンダーの意識変化、ビジネス動向を明らかにしようとする取組だ。6月上旬に発刊する予定である。
まだ編纂中なため全体が見えていないが、わかってきたのは、どうも思ったよりも悪くならなさそうだということだ。アンケート結果では、現在時点ではIT投資予算は計画通りと回答する企業も多く、減少にはなるものの、極端に大きく落ち込む雰囲気ではない。また、災害対策系のソリューションについてはITベンダーに引合・問合せが急増しており、前年比倍以上の引合というのもよく耳にする。ただし、気になるのは、いまひとつ成約に結びついている印象が薄いことだ。災害対策関連は急に動き出したテーマなため、ユーザー企業も情報収集~意思決定に時間が掛かっている。電力リスクを考えると、夏前に発注が急増することもあるだろう。ITベンダー側が人員調達ができないようなことも起きるかもしれない。
そうした動きの鈍さに多少の懸念はあるものの、今年度前半は、ユーザー企業のIT投資に大きな落ち込はなさそうな印象を持っているのが現状である。上期は意外に大丈夫なのかもしれない。

また、今年度の後半は、復興需要が健在化し、GDPとしては上向くのは概ね見えている。被災した製造拠点も次々と復旧し、サプライチェーン上の供給懸念もかなり解消されているはずだ。この点はポジティブに捉えたい。経済が活力を取り戻せばIT投資のレベルもあがってくるはずだ。

国債と放射能汚染を残すだけで終わってはならない

一方、中長期的には課題が山積だ。財政はますます厳しくなるため、国債増発、消費税増税等の問題などが取りざたされるだろう。財政破綻の足音は震災を受け、駆け足を増している。政府は消費税を上げたくてたまらないのだろうが、税率を上げれば、間違いなく景気にとってブレーキになる。切羽詰って消費税を上げる、というものが良い選択であるということはなかろう。もし消費税増税ということにでもなれば、シナリオは見直しを余儀なくされる。
また為替や資源高も大いに気になるところだ。米国のQE2が終わり、資源へ流れていた資金も減少するといわれているが、リスク要因としてみておく必要があるだろう。

震災復興で期待したいのは、東北方面における次のビジョンだ。スマートグリッド構想や次世代都市ビジョンの創造、新エネルギー・環境関連技術の開発促進など期待したい分野は多い。ちょうどこのコラムを執筆している頃、ソフトバンクの孫正義社長が参院行政監視委員会で、全国の休耕田や耕作放棄地に太陽光発電施設を造る「電田プロジェクト」を提唱したというニュースが流れた。今後もいろいろなアイデアが提起されると思うが、我々も期待を持って新たな産業の勃興をウォッチしていきたいと心から思う。

そして、日本に住む以上は、これから数十年は原発問題と共存していかなければならない。
未来に対し、我々は国債という借金に加え、放射能汚染をも残してしまった。
聞けば40年以上経過した原発も多いという。もう残すのは事故の教訓だけでいいではないか。
日本経済は20年も停滞しているのだ。そろそろ古いものを捨て去るような力強い変化が起きてよいと思うのは私だけではないだろう。古いものを捨て、新しい未来を示すことが、今必要とされているように思う。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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