矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2011.05.31

本格化する個人データの「クラウド化」について

拡大するオンライン型ストレージ市場

昨年後半あたりからオンラインストレージやNAS(Network Attached Storage)などのストレージ関連のサービスリリースが各事業者から相次いでおり、個人的に注目している。代表的なサービスではEvernoteやDropboxなどの海外事業者が挙げられるが、国内事業者も続々と参入するなど活況を呈している。事業者の中には、容量無制限型の定額料金サービスを開始したものの想定以上の利用者数および容量の増加によって、無制限サービスの新規受付停止を余儀なくされた事例も出ている。

これらストレージサービスの拡大を通じて、これまでは企業や自治体で先行していたクラウド利用が、いよいよ個人や世帯レベルにも普及の兆しが出てきていると考えられる。
個人におけるオンラインストレージの利用が拡大している背景は、主に以下の点が挙げられよう。

①所有/利用するデータの大容量化(動画や写真など)
②スマートフォンやタブレット端末など利用デバイスの選択肢の増加
③ソーシャルメディアの普及(ブログ、SNSなど)
④ブロードバンド化の進展(回線の高速化、廉価化)

つまり個人ユーザーにおいて、大切な自分だけのデータを「捨てることなく」「いつでも」「どこにでも」「すみやかに」利用したいというニーズの高まりが、ストレージサービスの増加に繋がっていると言える。さらに今後は、東日本大震災の影響から「バックアップ」ニーズの増加も想定され、市場の拡大に拍車がかかる可能性が考えられる。
とは言え現状では、一般コンシューマにおける「オンラインストレージ」や「クラウド」への認知度はまだまだ低く、市場拡大の実現には事業者側からの積極的な取り組みが不可欠である。また、有料/無料サービスを含めた参入事業者の増加により、今後は競争環境が激化していくことは想定に難くないであろう。

個人のデータは「保管」から「運用」の時代へ?

競争が激しさを増していく中で、事業者はどうやって差別化をしていくべきであろうか。今後の方向性を検討する手がかりとして、ストレージサービスの利用拡大が示しているユーザー意識の変化に着目すべきであろう。それはデータの「保存」から「保管」への移行である。

一般的に、保存とは「そのままの状態を保って失わないようにすること」であり、保管とは、「(他者の)お金や物などを預かって大切にしまっておくこと。保存し管理すること」とされる。つまり、今までは各自が自己責任で保存しておくものだった個人のデータが、今や対価を支払って外部で保管してもらうべき対象になっているのである。一部にはこのようなユーザーの変化を、個人資産と言う意味でデータをお金に見立て「たんす預金から銀行預金への切り替え」と分析する意見があり、個人的にはなるほどと感じさせられた。

さらに今回は、その発想を飛躍させて考えてみたい。
次なるステージは「保管から運用への移行」が起きるのではないかと考える。
現状のストレージサービスの利用動機は、やはり「保険的」なバックアップとしての性格が根底にあると考えられるが、現状のサービスでは「預けるデータが大きいほど利用料金も高くなる」ためユーザーとしては無料で使えるならその範囲内で収めようと利用をセーブする意識が働いていると考えられる。つまりユーザーの潜在ニーズを最大限に引き出しきれていない状況なのである。

今後、個人のデータという資産の「投資」を引き出すためには、ただ保管して対価を得るのではなく、預かったデータを効率的に「運用」し、何らかのリターンを提供するインセンティブが必要ではないかと考える。例えば、事業者単位での利用者数の増減によって月額料金が順次見直されたり、預けるデータ容量の大小に応じてユーザー単位で個別に費用が還元されるなどが考えられる。要するに、クラウド利用の特徴である規模の経済によるスケールメリットをもう一歩進めて、ユーザーが柔軟にかつ直接的にメリットを享受できる仕組みの整備が個人のクラウド利用を飛躍的に拡大させるのではないかと考えている。

私だけかも知れないが、いつの時代もユーザーは少しでも得をしたいものであり、単純に「資産を預けるだけのサービス」には、貴重なお金を払い続けることはなくなるのではないであろうか。

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