矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2008.09.30

地域振興に貢献するICカード

実体験に基づく交通系ICカード関連事業者への「注文」

昨今、ICカードの普及は著しい。とくに、非接触IC技術を使ったカードの本格的な普及により、利用者の利便性は格段に向上し、発行枚数が急拡大している。そのなかでも交通系ICカードに関しては、生活インフラになったといっても過言ではないだろう。

代表的なところでは、首都圏で展開しているJR東日本の「Suica」(スイカ)や(株)パスモの「PASMO」(パスモ)をはじめ、関西圏では、JR西日本の「ICOCA」(イコカ)やスルッとKANSAI協議会の「PiTaPa」(ピタパ)などが先進的である。各交通機関での利用に加え、駅売店やコンビニなどでも利用できる店舗を拡大させ、さらにICカードの相互利用でより利便性が向上している。

鉄道系ICカード発行事業者
(1)東日本旅客鉄道(株) 「Suica」(スイカ)
(2)西日本旅客鉄道(株) 「ICOCA」(イコカ)
(3)(株)パスモ 「PASMO」(パスモ)
(4)スルッとKANSAI協議会 「PiTaPa」(ピタパ)
(5)遠州鉄道(株) 「NicePass」(ナイスパス)
(6)北陸鉄道(株) 「ICa」(アイカ)
(7)岡山電気鉄道(株) 「Hareca」(ハレカ)
(8)静岡鉄道(株) 「LuLuCa」(ルルカ)
(9)高松琴平電気鉄道(株) 「IruCa」(イルカ)
(10)伊予鉄道(株)  「ICいーカード」
(11)東京急行電鉄㈱世田谷線 「せたまる」
(12)鹿児島市交通局 「RapiCa」(ラピカ)
(13)富山ライトレール㈱ 「passca」(パスカ)
(14)東海旅客鉄道㈱ 「TOICA」(トイカ)
(15)西日本鉄道㈱ 「nimoca」(ニモカ)
(16)長崎電気軌道 「長崎スマートカード」
※順不同。2008年8月現在の状況。

私自身も通勤や売店などで利用し、ICカードの利便性を享受している。とくに、改札機を通る際に定期入れからカードをいちいち出さなくてよくなったことが、いちばん有難い。磁気カードを利用していたときは、定期入れからの出し入れに加え、私鉄と地下鉄を乗り継いでいたため、カードの取り違いがよくあった。出勤途中で通勤客のほとんどが急いでいる最中に改札機で立ち往生することはかなりのひんしゅくを買うことになる。また、冬場に手が乾燥しているときは、定期入れからカードが取り出せずに立ち往生したこともある。このような経験をされた方は私以外にも結構いたのではないかと思うので、ICカードが普及拡大したのも大いにうなずける。

ただ、よい面だけではなく、必ず課題点もあるのが面白いところであり、ICカードも同様である。

大阪勤務の私であるが、仕事柄、東京出張の機会が多く、首都圏の鉄道も頻繁に利用している。しかし、大阪で使用しているICカードが首都圏では使用できないため、別のICカードを購入して使用している。さらに、そのICカードはプリペイド方式のため、残額をつねに気にする必要がある。仮に残高不足で改札機を通過しようものなら磁気カード時代の私に逆戻りである。

これらはあくまで一例ではあるが、強く改善を望みたい課題である。もちろん、これらのICカードシステムに大きく関わっている鉄道会社やカードベンダー、リーダライタベンダー、システムインテグレーターなどは、利用者のため、やるべき課題解決に日夜努力しているようである。具体的にはICカード表面に電子ペーパーなどの表示媒体を搭載し、残高の表示を行なうなどの事例が挙がっているが、まだまだ、コストの問題がクリアされていない。また、関西圏と首都圏の相互利用の件も大幅なシステム改善が必要であり、費用対効果を考えるとすぐには実現しないようである。いずれにしても早期の改善を望みたい。

ICカードは地域振興策の機軸になり得る

一方、地方での鉄道はどうなっているのか?
最近、経済産業省 四国経済産業局からの「地域ICカード(鉄道系)の市場動向調査」という入札案件に参加することになり、提案書を作成した際いろいろと調査したのであるが、各地方についてもさまざまな取り組みが行なわれていた。今回は四国がメインだったので、その一部を紹介する。

四国には、おもにJR四国と高松琴平電鉄、伊予鉄道、土佐電鉄の4つの鉄道会社が存在し、現在ICカードを独自発行(実運用)している会社は、高松琴平電鉄および伊予電鉄の2社である。それぞれ、「IruCa」(イルカ)および「ICい~カード」(イーカード)という名称のICカードを発行している。発行枚数や利用者数、利用場所数などは、もちろん首都圏や関西圏には遠く及ばないが、地方なりの取り組みもあるようである。
高松市に本社を置く高松琴平電鉄は、2005年2月に四国の交通機関として初めてICカード乗車券「IruCa」(イルカ)を発行、電車やバスの決済カードとして発行枚数を増加させてきた。また、高松市内の中心市街地で商店などに決済端末を設置して、単なる交通系ICカードとしてだけではなく、商店街との連携による地域カードとしての利用も進んでいる。さらに、今年度には香川大学の学生証に「IruCa」(イルカ)の搭載を検討しており、ますます地域カードとしての機能強化を図っている。

四国での取り組みも表面上は、首都圏や関西圏におけるICカードの成功モデルとほとんど同じ展開に見えるが、地域振興という要素がひとつ加わっている点が興味深い。もちろん首都圏や関西圏でも地域振興を標榜しているところもあるが、本当の地方とはまた違った意味合いであろう。地方衰退や崩壊までもが叫ばれる昨今、地方住民の経済や行政、医療、教育などの状況は深刻である。それらを解決するツールとしてICカードを活用しようという試みは、非常に興味深く有意義であるといえるだろう。
以下に、ICカードによる地域振興策の仮説を提案した図を示す。地域振興に携わる関係者各位において、地域振興の本当の意味を考えるために参考にしてもらいたい。

四国地域での振興策の仮説
四国地域での振興策の仮説

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