GPU as a Service(以下、GPUaaS)とは、GPUの計算リソースや周辺機能をインターネットまたは専用線経由で提供するサービスの総称である。利用者は高額なGPUを自社で調達することなく、必要な時に必要な分だけ使える点が特徴だ。提供形態は事業者によって異なり、GPUサーバを論理的に分割して複数の利用者で共有するマルチテナント型や、顧客専用に物理サーバを割り当てるベアメタル型等、用途に応じて使い分けられるよう用意するケースが多い。また、GPUの世代やスペックによって複数のプランを設け、ユースケースに応じて選択できるようにする事業者も見られる。近年、国内では大手キャリア系事業者や新興企業がGPUaaSの提供を始め、選択肢は広がりつつある。
NTTドコモビジネスは2026年9月30日、1GPUから利用できる「GPUaaS」(以下、本稿において同社のサービス名を指す場合は鍵括弧付きの「GPUaaS」と表記する)の提供を開始した。同社はこれまで、GPUプラットフォームとして、オンデマンドで使える専有ベアメタルGPUサーバや、顧客専有のGPU基盤をオンプレミスに構築するサービスを提供してきた。今回新たに開始する「GPUaaS」はマルチテナント型で、1GPU単位・1日から、NVIDIA製の高性能GPUを利用できるサービスである。比較的小規模な利用を想定したラインアップであり、初期投資を抑えてAI開発などに取り組めるようにする狙いがある。
「GPUaaS」の特徴となるのが、AI/GPUコントローラーである。これはWebブラウザー上で使う管理ポータルで、GPUの割り当てや利用状況の可視化、JupyterLabやVisual Studio Codeを用いた開発環境の提供、学習ジョブの実行・追跡、データセットおよびモデルの管理などに対応する。さらに、これまで提供してきたGPUプラットフォームの顧客専有GPU環境も、このコントローラーで統合管理できる。そのため、「GPUaaS」で小規模なPoCから始め、運用規模の拡大に合わせて個社専有のGPU環境へ柔軟にスケールアウトすることが可能になる。このAI/GPUコントローラーで、クラウドとオンプレミス双方でのハイブリッドなGPU環境の管理をできることが強みと言える。
同社はまた、顧客のデータ利活用を支えるSmart Data Platform(SDPF)を展開しており、「GPUaaS」もその一つに位置づけられる。SDPFクラウド/サーバーのコンピュート、ストレージ、セキュリティなど各種メニューと組み合わせることで、AI処理から業務システム連携、データ保管までを国内で完結できる。加えて、セキュリティ機能とネットワーク機能を統合したNetwork as a Service(NaaS)である「docomo business RINK®」による閉域網接続を用いれば、業務システムや機密データを国内で安全に扱える。データの保管場所や流通経路を自国の管理下に置きたいという、いわゆるソブリンAIのニーズに応える設計といえる。
料金形態は、利用日数に応じた従量課金制で、NVIDIA製GPUの「B300」や「A100」などのラインアップが用意される。利用料金はB300が1日あたり5万円、A100が1日あたり2万円で、月額利用の上限はB300が145万円、A100が40万円となる。
同社は2030年度の収益目標として2.6兆円を掲げている。なかでも注力するのが、AIインフラである「AI-Centric ICTプラットフォーム®」構想をベースとする重点4領域(AI、IoT、デジタルBPO®、地域・中小DX)で、これら4領域で7,000億円超を目指す。昨年度(2025年度)は収益2兆円を達成し、重点4領域は3,000億円超、各領域とも対前年度比で200億円規模の伸長を見せる等、順調に成長している。
この成長を支える基盤の一つがデータセンター(DC)である。同社は全国に70拠点のDCを構え、都市部と地方の双方で展開を進めている。近年は、高発熱サーバーに対応したGreen Nexcenterや、コンテナ型DCの拡張に力を入れており、現在は横浜第1DCと大阪第7DCの2拠点で液冷対応の建屋型DCを稼働させている。2029年第3四半期には、東京都品川区西五反田に受電容量11.7MWの都市型AI DCを開設する計画だ。コンテナ型DCについては、これまでゲットワークス社との協業で拡大を図ってきたほか、2026年8月には東京電力パワーグリッドとの協業により、東京23区内での拡充を進めると発表している。今後は「AIデータセンターアライアンス」を推進し、土地や電力設備などの遊休資産を持つ企業をパートナーとして迎え入れ、同社が持つDC・AI・ネットワークのノウハウと組み合わせることで、コンテナ型DCを中心としたAIデータセンターのエコシステム形成を進める方針である。
なお、同社は全国の計算リソースを束ねる分散コンピューティング環境を整備している。「docomo business APN Plus」で接続されたDCは、自社およびパートナーのDCを含めて約170拠点に及ぶ。同社は「AI-Centric ICTプラットフォーム®」構想のもと、様々な企業・パートナーとの連携を通じて、「分散」「柔軟」「安全」「リーズナブル」というAI時代に求められる要件を満たすネットワークサービスおよびICTサービスの提供を目指している。
GPUaaSを提供する事業者はすでに複数存在し、顧客獲得競争が始まっている。GPUaaSの選定条件は、GPUのラインアップやコスト、ネットワーク・ストレージ性能、環境構築の迅速性、操作性、拡張性、セキュリティ、サポート体制など多岐にわたる。今後の焦点は、こうした条件の中でどれだけのワークロードを獲得し、顧客に選ばれ続けられるかである。
ハイパースケーラーが提供するGPUインスタンスと比べ、国内のGPUaaS事業者は料金面で優位とされることが多く、データの保管場所や流通経路を国内に留めたいというソブリンのニーズにも応えやすい。NTTドコモビジネスの「GPUaaS」が掲げる、閉域接続とSDPFによる国内完結は、この点に沿った設計といえる。しかし、料金の優位性やソブリン対応は、国内の同業他社も同様に打ち出せる要素であり、これだけで選ばれ続ける保証にはならない。
また、料金やソブリン対応で当面の優位を保てたとしても、GPUの調達自体は各社が同じ供給市場に依存しており、性能や価格だけで差をつけ続けるのは難しくなっていく。そのため各社は、GPUの提供に周辺機能を組み合わせることで選ばれようとする動きを強めている。開発環境やデータ管理機能を一体で提供する、特定の業界や用途に特化したチューニングを施す、既存のクラウドサービスや業務システムとの連携を深める、といった形で、GPUそのものではなく利用体験や導入のしやすさで違いを打ち出す方向性である。GPUaaSの競争では、GPUを「誰が安く貸せるか」ではなく、「誰が使いやすく組み込みやすい形で提供できるか」で評価されるようになると考える。
もっとも、GPUaaSを取り巻く環境をみると、追い風が吹いている状況にある。自社データを学習させたプライベートAI需要や業界・業務に最適化されたAI、工場・現場に組み込まれるフィジカルAI等の広がりが見込まれる。こうした用途では、GPUを貸すだけでは対応しきれず、開発環境や業務システムとの連携、現場に近いネットワークとの組み合わせが求められる場面が増えていく。GPUaaSは、GPUの提供にとどまらず開発基盤やネットワークと一体で進化できるかが、今後の市場における競争力を左右する重要な要素となるだろう。
(宮村優作)
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