矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2026.05.01

民から軍へ 逆転現象は何をもたらすのか

イラン戦争で停戦合意のニュースが流れている(4月8日執筆時点)。石油を中東に頼る日本にとって、また純粋に平和を願う多くの日本人にとって、はやく終結して欲しいというのが共通する気持ちだろう。ITの観点でいえば、史上初の本格的なAIによる戦争ともいわれており、Palantir Technologiesが注目を集めた。この戦争を機に初めて耳にした方も多いことだろう。同社は米国防総省の軍事用AIソフトであるMaven Smart System(MSS)の提供企業となっている。生成AIも組み込まれており、自然言語による質問への応答など作戦立案面で大きな役割を果たしているという。

個人的には、初のAIによる戦争ということよりも、民生技術が軍事技術を凌駕したという点に注目がいく。そもそも、IT技術と軍事技術は密接不可分なものであった。インターネットもそうである。インターネットの起源はARPANETとよばれるコンピュータネットワークであり、アメリカ国防総省が資金を提供し、核攻撃下においてもコミュニケーションが取れる仕組みとして研究されたという(※軍事目的で開発されたわけではないという説もある)。
またGPS(Global Positioning System、全地球測位システム)も、もともとは軍事技術だ。1973年から同じく国防総省の軍事プロジェクトとして開始され、当初は軍事用途に制限されていたが、いまではご存知の通り、地図アプリ、スマホでおなじみの技術となっている。
CADで有名なCATIAは、戦闘機メーカーのダッソー・アビシオン社の技術者により開発されたのが起源である。さらに遡れば、初のCADといわれるSketch Pad、これは人間がライトペンを用いてCRT(ブラウン管)上に2D図形を描くことができる作図ツールになるが、これに至る開発背景にも軍事技術があった。具体的にはCRTに点描画を映す仕組みやライトガン(ピストル型入力装置)による入力装置がMITによって開発されるのだが、その依頼元になったのは米国海軍および空軍であった。

私は製造分野のIT技術(CAD/CAM/CAE、PLM、CPSなど)をリサーチフィールドの一つとするが、そこでの常識として、ITにおける最先端はこれまで常に軍事、宇宙、航空で開発されるものというのがあった。戦闘機開発、ロケット開発といった分野で巨額の研究開発費が投じられ、実装され、そして徐々に単価を下げ、自動車などの民生産業へと技術が降りてくる。最先端の研究開発費とはそういうものであった。

しかしいまや一変したようだ。ビジネス面でも同種のことは起きている。以前はBtoBの方が技術面で優れたものが使われていたが、2007年にiPhoneが登場して以降、優れたUIを持つBtoC技術がBtoBツールへ多大な影響を与え始め、搭載されるようになったことはよく知られている。こうした動きは「コンシューマライゼーション」などと呼ばれる。
類似の話として、デュアルユース(軍民両用)という言葉を見かけるようになった。レアアースなどの天然資源、半導体など、民生用と軍事用の両方に応用可能な技術や製品が該当し、民間製品であっても、そうした製品群は経済安全保障上、輸出制限など厳格な管理が必要となっている。AIは昨今急速にデュアルユースとしての重要度が高まり、ついには戦略実行の中核技術となったのは冒頭に紹介した通り。

国家間の競争は、従来の軍事力による衝突から、経済力・技術力へと移行し、日本もその恩恵を受けてきた。一般市民からすれば、戦争で争うくらいなら、経済で大いに争う方を選ぶだろう。平和こそ、われわれのQOLの土台をなす中核の概念だ。しかし、平和だった経済戦争も、行き着くところまで進み、国家予算にも匹敵するGAFAM等の研究開発投資は、いよいよ国家技術の最先端を超えるものを生み出し、デュアルユースというところまできてしまった。その先にあるものはどのような社会なのだろうか。はたして国家というコンセプトの耐用年数はあとどれほどであるのだろうか。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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