矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2010.10.20

なぜユビキタス社会は到来しないのか

ここ最近、「ユビキタス」というキーワードをあまり聞かなくなった。もちろん活字でも目にする機会がほとんどない。一時期は、猫も杓子も「ユビキタス」という言葉を発し、新聞や雑誌などでも毎日のように目にしていた。また、企業のセクション名に使用されたり、企業名になったりもしていた。「ユビキタス」は、これほど浸透していたキーワードではあったが、昨今では、テレビや新聞などに取り上げられることも少なくなり、加えて世界同時不況以降は、ほとんど目にしなくなった。代替するキーワードが登場したわけでもなく、ただ単純に、廃れていったように感じる。企業担当者の話を借りると、世界同時不況後は、研究開発費を大幅に削減し、投資と考えられる支出は凍結されたという。本業を守るため、関連事業の縮小や廃止を断行し利益を守ることに終始した企業が多かったのだろう。

新たな国家戦略は

「ユビキタスネットワーク」については、2002年~2005年あたりに継続して政府が掲げた「e-Japan戦略」の中で重点計画として取り扱われており、最近の政府の動きとしては、昨年に「i-Japan戦略2015」を公表しており、その後本年には内閣府IT戦略本部が「新たな情報通信技術戦略」として、政権交代後も引き継がれ、国の重点政策のひとつとして位置付けられている。

総務省では、光の道構想などの「原口ビジョン」なるものが一時話題になったが、現在の総務大臣は前鳥取県知事の片山善博氏であり、今後の先行きは不透明である。経済産業省では、毎年NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で要素技術や基盤技術のロードマップなどを記した「技術戦略マップ」を公表している。詳細はそれぞれのHPを参照頂きたい。

【NEDO】
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、5つに分類してユビキタス社会の将来像を描いている。詳細は、同機構HPを参照頂きたい。

①「地球とエネルギー・環境技術」
電気、ガス、熱、そして水素を最適に活用する地域ネットワークの実現。生物プロセスを利用した、環境修復と有機工業社会の台頭。

②「都市インフラと交通技術」
宇宙から人工衛星などで都市を見守る、スペースユビキタス時代の到来。超高層ビルと、都市菜園が共存する。

③「暮らしとIT・ユビキタス技術」
家がまるごとロボットに進化する、安心で快適な未来の暮らし。離れた親子の息吹きと夢を、いつでも分かち合える情報技術。

④「工場とモノづくり技術」
やわらかい作業も全自動でこなす、ロボットによる製造ライン。小さな技術と小さな装置がマルチ生産する多彩な製品。未来のゼロエミッション工場の実現。

⑤「医療とバイオ技術」
体内のリアルタイムセンサが、栄養管理を行う予防医療。電子カルテ健康情報とつながる、個人創訳や遠隔手術。

【内閣府のIT戦略本部】
「新たな情報通信技術戦略」を国の重要施策として取り組んでいる。3つの柱として、以下のような取り組みがある。詳細は内閣府のHPを参照頂きたい。

①国民本位の電子行政の実現
②地域の絆の再生
③新市場の創出と国際展開

特に②および③に関しては、医療、介護、教育、クラウド、などが含まれており、項目ごとに工程表が記述されている

強力なリーダーシップを持って、政策を進めていくべき

前述のように国の取り組みを見てみると縦割り構造が見て取れる。加えて、トップの変更などによる戦略の一貫性が希薄であることも分かる。ただし、それぞれの省庁や団体の取り組みは、大変すばらしく、有意義であるものが多い。多少の改善は必要なものの概ね問題ないように感じる。しかし、日本のICT産業は、他の全産業に対して横串的に横断した産業である。そもそも縦割りでは対応しきれないのであろう。今後のICT政策は、省庁の垣根を越えたオールジャパン的な取り組みとそれらを総括管理する強いリーダーシップが必要になってくると考える。

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