矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2026.01.21

ステーブルコイン市場の現状と拡大可能性

2025年10月に資金移動業型ステーブルコイン「JPYC」が発行され、2025年12月時点では、発行額は5億円を超える規模にまで拡大し、数年後には数十兆円規模まで拡大すると見込まれる。本稿では、その背景を整理した上で、今後の成長可能性について考察する。

ステーブルコイン法制化の背景

日本においてステーブルコインの法整備が本格化した背景には、2022年5月に発生したテラ(Terra)・ルナ(LUNA)事案がある。当時、世界の暗号資産時価総額8位であったLUNAと、それと連動するアルゴリズム型ステーブルコイン「テラUSD(UST)」が、わずか6日間で価値をほぼ失い、事実上崩壊・消滅した。
この事件を受け、日本ではステーブルコインに対する制度整備が加速し、2022年に法改正、2023年に改正資金決済法が施行された。日本の制度では、「法定通貨と連動し、発行価額と同額での償還を約束するステーブルコイン」について、発行主体を銀行、信託会社、一定の要件を満たす資金移動業者に限定し、法定通貨による100%の準備資産保全を義務付けている。
これにより、準備資産の分別管理や利用者の償還請求権が法律上明確化された。一方、テラUSDのようなアルゴリズム型・非償還型ステーブルコインは、ビットコイン等と同様に一般の暗号資産として扱われ、制度上のステーブルコインの対象からは事実上除外されている。
このように、テラ・ルナ事案で露呈した「高リスク構造」を国内で再発させないという問題意識が、法改正の大きな背景となっている。

想定されるユースケース

ステーブルコインの発行・流通により、以下のようなユースケースが想定される。

・プロ向けブリッジ通貨
暗号資産・ステーブルコインを用いたアービトラージ取引における中継通貨としての活用
・B2B領域での活用
企業間取引における決済・資金移動の効率化
・海外送金
B2B取引の一環として、送金コストを大幅に削減可能
・B2G(自治体)
給付金の支給や地域マネーの一部としての利用
・B2C
商品・サービスの支払い手段としての活用

プログラマブルマネーとしての価値

これらのユースケースに共通する特徴は、ステーブルコインが「プログラマブルマネー」として機能する点にある。従来の決済サービスや資金移動手段と異なり、取引条件やフローをプログラムによって制御できる点が大きな強みである。
B2B領域では、銀行振込、口座引き落とし、法人カードなど複数の決済手段が混在しているが、ステーブルコインを活用することで、取引プロセスそのものをコード化し、自動化・効率化することが可能となる。これにより、利便性の向上と業務負荷の軽減が期待される。
B2Cにおいても、単なる決済手段の置き換えにとどまらず、決済の裏側にある資金移動をプログラム化することで、キャッシュフローの改善や送金コストの削減につながる。
また自治体においては、給付金支給業務の合理化、地域マネーの資金移動コスト削減、さらには地域商店街のキャッシュフロー改善といった効果が期待される。

今後の展望とウォレットの重要性

今後、金融取引のオンチェーン化が進展する中で、銀行のみならず、証券・保険を含むあらゆる金融セクターが変化への対応を迫られると予測される。既存の銀行ビジネスは当面の間、引き続き成立すると考えられるものの、長期的に見ると金融の在り方そのものが大きく変化し、キャッシュが循環する領域と信用創造を担う領域の双方において、大きな構造変化が生じる可能性が高い。
さらに、2026年6月に仲介業制度が開始されることで、ステーブルコインを実際のサービスに組み込む企業は一段と増加すると見込まれる。取引のオンチェーン化が進む環境下では、ステーブルコインを扱わないこと自体が経営リスクとなり、業種を問わず導入が進む可能性がある。
今後、信託型ステーブルコインが本格的に登場すれば、その流れは一気に加速するとみられる。企業側にとっても、ステーブルコインを用いた送金・決済を「選択する必然性」が高まっていくと考えられる。
その中で、重要性を増すのがウォレットの役割である。表面的なアプリ型ウォレットではなく、ステーブルコインの受け皿として機能しつつ、既存サービスのUI・UXを裏側から支えるB2B向けウォレットが、いかに“黒子”として浸透していくかが、ステーブルコイン普及の鍵を握る要素となる。

高野淳司

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高野 淳司(タカノ ジュンジ) 主席研究員
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