矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.04.30

バズワード消滅

生成AIに話題は集中

“バズワード―もっともらしいが実際には意味があいまいな用語のこと。そして専門用語のような言葉である。コンピュータの分野でよく使われるが、政治など広い分野で使われる。言葉が人々に浸透し明確な意味を持つようになればバズワードではない。混乱を招かない、分かりやすいキャッチコピーのことではない。”(ウィキペディア 2024/4/26)

流行っては消えていくバズワード。IT業界に関わりがあれば、なにか新しいキーワードが生まれるたびに、またバズワードかとため息をついたり、もしくはそれに乗じてセールストークに使ったりした経験があるだろう。特にマーケティングに関わっているならば、それを無視して仕事するわけにもいかないはずだ。たかがバズワード、されどバズワードといったところだろうか。
かく言う当社も調査レポートの企画検討に際しバズワードは十分に検討するし、それによる恩恵を受けた側面もあるわけで、良くも悪くもバズワードの影響力は大きい。

とはいえ、どちらかといえば否定的な意味で「またバズワードがでたか」とする場合が多いと思うが、実際には先進IT技術を正しく反映していることも少なくない。
20年ほど前にうまれたクラウドコンピュータ、IaaS/PaaS/SaaSあたりは、当時はバズワードと呼ばれたものの、いつしか定着し、実際にITインフラを覆すほどのものとなった。ユビキタス、Web2.0、ロングテールあたりはどうだろうか。言葉は耳にしなくなったが、その思想は現在も生きているように感じる。

その後もビッグデータ、IoT、AI、WEB3、ブロックチェーンなど先進IT技術を背景にさまざまなバズワード的な言葉が飛び交った。直近での最大のバズワードはDXだろうか。それともDXはクラウドのように当たり前の言葉として残るだろうか。

そしてまさに今、最もWebニュース等を騒がせているのが生成AIである。生成AIに取り組めば株価が上がるとでもいわんばかりに多数の企業がリリースを発表するなど、その盛り上がりは皆さんご承知の通りである。

サイバーワールドが醸成したバズワード

一方で、弊社内で議論したときにふと気づいたのは、タイトルにもあげた“バズワード消滅”である。いま、バズワードが見当たらないのである。
いやいやそんなことはないという意見もあるだろう。そもそも生成AIがその筆頭だと捉えることもできる。

しかし、ここ数年のバズワード(と呼んではいけない残る技術も含まれるが)の量は尋常ではなかった。先にも一部挙げたが、AI、ディープラーニング、IoT、WEB3、DAO、NFT、ブロックチェーン、X-Tech(FinTechなど)、RPA、CPS/デジタルツイン、メタバース、MaaS・・・と新出のキーワードがとにかく多かった。
多くなったのには理由がある。それは一世代前のバズワード、クラウドがポイントだと思う。IT基盤がクラウドベースに変化し、そこに極めて大量なデータが蓄積された。それがビッグデータという概念を生み、そこから価値を取り出すことが可能になった。その周りにエコシステムが形成され、サイバー側に存在するデータや機能が充実していくほど、それを拡張・強化したり、その欠点を補完するアイデアが生まれたりとサイバーワールドの出現が、新しいテクノロジーを醸成する基盤になったといえる。この基盤があるがゆえに、5,6年程度前から一気に新しい技術が芽吹いてきたといえるだろう。
その対比として考えれば、2024年は明らかにバズワードが消滅している。生成AIを除けば、これ!と思いつくものがない。皆さんはあるだろうか?

血か夢か

私はバズワードとして登場するテクノロジーには、夢や浪漫を感じたいと思ってしまうのだが、少々感傷的だろうか。
バズワードが消滅したといっても、生成AIが突如登場してきたこと考えれば、心配せずとも彗星のように次世代を担う先端技術がきっとすぐに登場することだろう。しかしそのテクノロジーに夢や浪漫の香りが残っているのか、それが少々心配である。

政治的にはロシア・中国が近づき、西側諸国と中・露とがぶつかり合う構造になってきている。米露、米中という2カ国間での競争関係とは様相が異なり、以前よりもはるかに混沌としてきている。それだけに今後のバズワードは軍事技術が見え隠れするようになるかもしれない。無論、元来、先端技術は軍事から生まれることが多いのは承知済みだ。それでも、きっかけはそうだとしても、私はバズワードが示す未来に血ではなく夢をみることができた。
次に生まれるバズワードも、ぜひ夢を見させてほしいと心から願う。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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