矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2010.06.15

直接業務へのリソースシフトにより生産性を向上せよ

生産性の低い日本の現状

これまで日本は、米国に次いでGDPで世界第2位の座を維持してきた。日本人は、休みを取らずに長時間労働を行なう勤勉な国民性を持っており、そのような国民性が、日本経済をここまで成長させてきた要因のひとつになっているのであろう。
しかしながら、日本はGDP世界第2位の座を2010年には中国に明け渡し、さらに近い将来にはインドにも抜かれると予測されている。
また、日本では、急速に少子高齢化が進み、10年後には4人に1人が高齢者になると言われている。そのため、労働力人口の減少が予測されており、今後の成長を期待しづらい状況にある。

さらに公益財団法人日本生産性本部の発表によると、労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)の国際比較では、日本は主要先進7カ国で最下位、OECD(経済協力開発機構)の加盟国の中では、20位前後と低い位置にある。
日本の生産性が低いのは、きめ細やかに多岐の業務に時間を掛けて対応する勤勉な国民性が原因とも言われており、必ずしも悪い結果と断言できない面もある。
しかしながら、労働力人口の減少が予測され、今後の成長を期待しづらい状況下においては、このような生産性の低さは、やはり今後改善していかなければならない重要な課題のひとつであろう。

BPOの普及が進まない日本市場

日本企業は、これまで直接業務における競争力の向上には熱心であったが、間接業務の効率化にはあまり目を向けてこなかったとされている。
間接業務とは、収益を生み出す直接業務に対して、収益を生み出さない業務のことを指している。具体的に言えば、人事、総務、経理、情報システム部門などの間接部門が行なう業務や、直接部門が行なう単純作業などのことである。
欧米では、このような間接業務を外部のアウトソーシング事業者に委託し、自社のリソースは収益を生み出す直接業務に集中させる取り組みが行なわれてきた。このような取り組みはBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)と言われ、欧米では、生産性を高める手法として普及が進んでいる。
一方、日本でも、欧米での普及に倣って、多くの事業者がBPOサービスの提供に取り組んできたが、その普及は緩やかであり、いまだにBPOサービスが普及しているとは言い難い状況である。
日本でBPOが普及しない要因の第一に、まず雇用の問題がある。BPOサービスは、該当する業務を企業外部に出すために、その業務の担当者が余剰人員となってしまう可能性がある。ペイオフなど人員整理に比較的抵抗感の少ない欧米企業と違い、日本企業では、人員整理に対する抵抗感は依然として大きい。そのため、人事リストラにつながる可能性を持つBPOサービスに対しての抵抗感が大きく、それが、BPOが普及しない大きな要因になっている。

次に考えられる要因に、業務品質の低下に対する懸念がある。これまで日本企業では、間接業務にも優秀な社員を配置し、きめ細やかな業務対応を行なってきた。そのため、BPOの導入により外部の事業者に業務を委託することで、業務品質が低下するのではないかと多くの企業が懸念している。

これらの要因から、これまで日本企業は多くの業務を内製で行なってきた。特に金融危機後は、景気悪化の影響から業務量が減少し、社内人員に余剰感が出てきたことから、内製化を推進するケースが逆に増加している。

求められる直接業務へのリソースシフト

日本のGDPが高い成長率を示していた時期であれば、多くの社員を間接業務に配置することに、なんら問題がなかった。収益を生み出さない間接業務にも優秀な社員を配置することで、きめ細かな業務処理を進めるだけの余裕があったためである。
しかしながら、これからGDPの高い成長率が期待できない状況下では、間接業務にこれまでと同様にリソースを配分することは、経営を圧迫する要因になる可能性が高い。従って、今後の日本企業は、間接業務に対するリソース配分を減らし、収益を生み出す直接業務への配分を多くしていくべきと考える。

しかし、これまで正社員が執務していた間接業務へのリソース配分を減らすためには、誰でも取り組めるように間接業務を標準化する必要がある。標準化によって業務を単純化、マニュアル化できれば、その業務をより賃金の低いアルバイトに任せたり、外部の事業者に委託したりすることが可能となり、優秀な社員を直接業務に配置転換することができるようになる。そのようにして直接業務へのリソース配分を増加できれば、全社的な生産性を向上できる可能性が高まる。

今後の日本企業は、間接業務に関わる社員を可能な限り直接業務に配置転換し、全社的な生産性を高めていくべきと考える。国内の経済成長に限界が見える現在の状況下では、日本企業は世界市場で戦っていく必要があり、そのためには、欧米企業に負けないだけの生産性を確保していかねばならない。
内製を前提とする日本的経営での成功体験を持つ日本企業にとって、これまでの意識を変えることは難しいかもしれない。しかしながら、こうした意識を変えることができなければ、BPOの導入により経営の効率化を進める欧米企業との間で、競争力の差が広がってしまうことになる。
今後、日本企業の経営者は、たとえ社内からの抵抗が強くても全社的な生産性の向上を目指して構造改革を進めていくべきである。また、間接業務の担当者も、例えそれが担当業務の縮小につながる行為だとしても、様々な競争環境下に置かれているという全社的な視点で、構造改革を進める勇気を持つべきである。

いつまでも問題解決を先送りにした結果、時期を逸してから構造改革に取り組んでも、その頃には既に欧米企業に追いつけなくなっているかもしれない。日本企業はこれまでの成功体験に拘泥することなく、積極的に生産性の向上を追及していくべきである。

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