矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2010.06.03

ニュータイプ業界の垣根を越えた競争構造を解明せよ

いま業界では何が起きているのか

仕事がら当社では様々な業界に触れる機会がある。日々の業務活動の中で、業界そのものが消えてなくなっていたり、他の業界と融合してしまったりする事態によく触れる。特に、クラウドビジネスの普及によって今後益々加速するかもしれない。こうした話はIT企業に限らず、どの事業でも起こりうる話であり、今のままの形態で将来も安泰だとは言い切れない世の中になっている(自戒の念も込め)。
例えば、カメラ業界では過去、キヤノン、ニコン、ペンタックス、ミノルタ、オリンパスなど多くのカメラメーカが参入していた。ところが、現在はキヤノンとニコンを除くカメラメーカの多くはシェアを大きく落すorカメラ事業から撤退している。その代わりにパナソニックやカシオなどといったエレクトロニクス系企業がシェアの上位に名を連ね、プレーヤーが入れ替わっている。背景にはフィルムカメラからデジタルカメラへの変化が大きな要因となっている。更に、この変化はこれまでカメラ業界には無縁だったプリンタメーカをも巻き込んでおり、現像など写真屋でしかできなかったことが家庭で簡単にできるようにもなった。

入り乱れる競合関係

この様に、これまで異業種だと思っていた企業が競合関係となる事態が容易に起きている。その他にも、リテールバンキングでは、銀行、流通業者(セブン銀行、イオン銀行)、IT企業(ソニー銀行、ジャパンネット銀行、楽天銀行)やDNAチップでは東芝、パナソニック、横川電機、東レ、凸版印刷、オムロンなど様々な企業が競争関係にある。特に、最近ではデジタルサイネージ市場が最たる例と言え、ディスプレイメーカ、システムベンダ、ネットワークベンダ、印刷企業、広告代理店など異業種の企業が入り乱れている。また、新たに事務機メーカ参入の声も聞こえている。
当然、販売チャネルや販売ターゲットも違えば、コスト構造も違い、得意技術や生活者の持つブランドイメージも全く異なる企業との競争になる。例えば、フリーペーパーと従来からの雑誌を比較した場合、雑誌は書店/コンビニ/駅の売場/ネット通販などを使っているのに対し、フリーペーパーは街中や駅のラックから読者が勝手に持ち去る仕組みである。また、雑誌では、広告収入も重要な要素だが、雑誌の売上も大きなウェイトを占めている。今後は、Amazonの「Kindle」やAppleの「iPad」などの電子書籍としての売上も構成比を高めていくだろう。その為、「どうやって読者の満足するコンテンツを作るか」や「価格設定」が売行きを左右する大きなポイントとなる。方や、フリーペーパーは広告収入が唯一の収入源となる為、いかにして広告主を満足させるだけの部数を生活者にリーチさせる事ができるかということになる。この様に、ビジネスの目的や儲けの仕組みも異なる為、ルールも大きく異なっている。

こうした新しいタイプの競争では、従来型の事業戦略では成立し難くなってくる。というのも、それらの多くは「同じ業界内での競争」を前提としていることが多く、そこで起こる新規参入や取引先との力関係などを考慮したものとなっているからである。

事業連鎖を読み解く

こうした市場環境の中で、ビジネスの脅威やチャンスがどこにあるのかを明確にする為には、製品や事業をまたがるより広範囲な事業間のかかわりを考慮する必要がある。これらを正しく捉えることで、自社を巻き込んで起こるであろう事業再編や融合などを捉える事ができるのではないだろうか。そうすることで、突如想定していなかった競合が現れたとしても冷静に対応する事ができるだろう。写真業界を例に見ると、代替や集約を繰り返しており、それに伴って生じる“不要”で稼いでいた企業は淘汰されていく事になる。その一方で、拡充や追加される要素もあり、新たな参入企業が出現する。

【図】カメラ業界での例
【図】カメラ業界での例

生き残るための戦略は「新しいルール」

業界全体を見渡すことで、目の前だけではなく、前後左右上下からの変化に迅速に対応できるようにする事が大切である。また、業界全体を見渡すことは、顧客/生活者が何にお金を払っているかを常に確かめておくことにもつながっている。
では、どうやって生き残りを賭けた戦を乗り切るかというと、極めてシンプルな結論に至る。それは、「より広い視点の顧客視線で市場を捉え、そこではどういったルールで儲ける仕組みを構築するか」を考えることである。その為の戦略としては、

①どこに脅威やチャンスがあるか
②競合・自社・顧客を知るといった競争環境の再認識
③どう稼ぐかというようなビジネスモデルの確立
④競合を自分の土俵に引きずり込む新しいルールを確立
 

ではないだろうか。勿論、これらひとつひとつは更に細分化され、内容もより核心に迫るものとなるだろう。具体的な施策についてはひとまず当社に相談して欲しい。

今後も業界の垣根を越えた競争関係が乱立するだろうが、もしかしたら数年後には、トヨタvsパナソニックという業界図ができているかもしれない。

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