矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2022.09.01

つい期待してしまう驚き

NEC×カゴメ

2022年8月、日本電気(以下「NEC」)と、カゴメは、カゴメが実施した「子どもの野菜に対する意識調査(2019年)」の結果とNECのAIを活用して、子どもの苦手な野菜と相性の良い食材の組み合わせを導き出し、伝説のプリン職人として知られる岐阜の菓子店「プルシック」のオーナーシェフの協力を得、この食材の組み合わせを利用した「AI(愛)のプリン」(6種類)を開発したことを発表した。

NECとカゴメは、子どもの野菜嫌い克服と親子のコミュニケーション活性化に寄与することを目的に、専用ホームページでAI(愛)のプリン(6種類)のレシピを無償公開している。

本取り組みはカゴメの野菜摂取推進活動「野菜をとろうキャンペーン」の一環である。

カゴメが実施した「子どもの野菜に対する意識調査(2019年)」では、野菜が好きな子どもでも、そのうちの74%は嫌いな野菜があることがわかったという。
そこで、本調査を参考に選定した21種類の野菜とNECが収集した50万以上のレシピ情報から、NECのAIにより、相性の良い食材を導き出し、この組み合わせを老若男女問わず人気があるプリンに利用することで、苦手な野菜にもおいしく、楽しくチャレンジしてもらいたいという考えがAI(愛)のプリンにつながった。

プリンの開発にあたっては、まずNECの独自リンク予測AI技術(詳細は後述を参照)を活用し、子どもが苦手な野菜と相性の良い食材の組み合わせを100通り導き出した。その後、特設サイトにおける一般投票で25種類を選出し、プルシックのオーナーシェフがこの結果を参考に、6種類のプリンを開発している。

※カゴメは、野菜摂取の推進を目的として、2020年1月から「野菜をとろうキャンペーン」を展開。厚生労働省が推進する「健康日本 21」では、1日当たり野菜350g以上の摂取が推奨されているが、平成22年~令和元年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)では平均約60g不足している。本活動を通じて、従来の摂取方法にはとらわれない、前向きで楽しい野菜摂取方法を提案していく考え。なお、NECは本取り組みに賛同している。

NECのAI

NECのAIと言えば「NEC the WISE」である。NEC the WISEはNECの最先端のAI技術群の名称である。この”The WISE”には「賢者たち」という意味があり、複雑化・高度化する社会課題に対し、人とAIが協調しながら高度な叡智で解決していくという想いが込められているとNECは言う。

NECのAIというと、同社の強みのひとつでもある顔認証など、画像認識のイメージが強いが、これに尽きるものではない。需要予測や、不正口座検知、インフラ異常検知など、製品・サービス、また、これらを活用したユースケースは多岐にわたる。NEC the WISEの展開を発表した2016年、NECは「見える化」「分析」「制御・誘導」の各領域、特に、音声認識、画像・映像認識、言語・意味理解、機械学習、予測・予兆検知、最適計画・制御等の技術で、同社が世界No.1、あるいはOnly1のAI技術を多数有していると述べている。今回のリンク予測AIも、NEC the WISEのひとつである「グラフベース関係性学習(GraphAI)」の一機能、リンク予測AIを利用している。リンク予測AIは、ものごとの関係性を分析して隠れた関係性を発見する説明可能AIである。今後、食品や化粧品などの商品企画・開発・マーケティングへの展開を目指している。

リンク予測AIを活用した食材の組み合わせの導き出し方は以下の通りである。

とうもろこしとヨーグルトを例にすると、とうもろこしとたまねぎは様々な料理で組み合わされている。一例として、たまねぎとヨーグルトは、鶏肉のパスタサラダで共に利用されている。このような様々な関係性をもとに、リンク予測AIがとうもろこしとヨーグルトは相性が良いと判断をする。

【図表:「リンク予測AI」を活用した食材の組み合わせの導き出し方】

【図表:「リンク予測AI」を活用した食材の組み合わせの導き出し方】

出所:日本電気株式会社カゴメ株式会社プレスリリース(2022年8月2日)

気になるお味

さて、気になる今回開発された6種類だが、①とうもろこしとヨーグルト、②トマトとクリームチーズ、③かぼちゃとレーズン、④にんじんと白ワイン、⑤ほうれんそうとココナッツ、⑥じゃがいもととうふ、というラインナップである。正直、意外な組み合わせはない、と思ってしまった。特設サイトでは、100通りのすべての組み合わせを見ることができるが、個人的には、ほうれんそうとパクチーや、ブロッコリーとパセリなどといった組み合わせを食べてみたかった。しかし、親子のコミュニケーション活性化、お金を出して作ったり、買ったり、ということを考えると、今回の結果は、一般投票の結果として、首肯できるものと言えるだろう。

かつて、日本IBMのイベントで、Watsonが考案したレシピのドリンクを飲める機会があった。残念ながら、レシピの詳細は覚えていないのだが、美味しかったものの、レシピの意外性はなかったことは記憶に残っている。

ここで筆者はふと気づいた。AIが出す結果に意外性を求めていた自分にこそ問題があるのではないか。筆者が食べてみたいと思ったのは、この組み合わせで美味しく食べられるのだろうか、と思う意外な組み合わせである。確かにAIが新たな気付きを与えてくれる例もあるだろう。しかし、想定通りの結果が出ることもあり、むしろその方が多い可能性もある。

最近は、2~3年前と比較すると、AIへの熱が下がったように感じられる。導入企業こそ緩やかに伸びているが、取り組みの内容も落ちついたものが目につく。一度は実証実験に取り組み、AIを導入した企業が活用を止めた例もある。これはAIへの期待と、AIができることに乖離があったためではないだろうか。これまで行ってきたことに対し、AIを利用してみたところ、やはり想定通りの結果であった、これは、AIで裏付けがとれた、ということで、AIを導入したのにこの結果か、と落胆する場面ではない。2~3年前は、新しい気付きに対する期待値が大きすぎたのだろう。現在は、AIに対する理解も深まり、AIの継続的な利用、本格的な利用へとつながっている。こうした継続的な活用が、新たな気付きの場面を増やす可能性もある。

また、AIの出した結果について、根拠がよくわからないので実製品には使えない、などという声もある。しかし、今回のリンク予測AIは、予測結果の説明を可視化できるという。今後こうしたAIは増えていくと思われ、AIに対する課題、懸念も解消されつつある。そのため、筆者は、現在のAIに対する熱の低下を、AI活用が当たり前になる兆しであると捉えたい。

最後に、肝心のAI(愛)のプリンの味だが、筆者は作る、ではなく買う方向性でいる。残念ながらプルシックのオンラインストアでの販売開始はこの原稿の締め切り後、9/1~のため、感想はまたどこか別の機会にお届けしようと思っている。

なお、AI(愛)のプリンの販売は第一弾~第三弾まであり、それぞれ6種類のうち2種類ずつ販売される点にはご注意頂きたい。

小山博子

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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